第241話 新たなる仲間①
俺たちは四刃と呼ばれる刺客を撃退し、メルカディアの街を飛び出した。
結局宿代は払い損だが、命には代えられない。
俺は御者台で馬車を操るティアと、状況の確認をし合っているところだった。
「ティア、無事でよかったよ。こっちでは例のナーヴェスと、あとモルド、リュシアンっていう奴らが来てた」
「こっちはファルザ。フガクの方に戦力が割かれてたのは、単に私とフガクの実力差からなのか、フガクを襲撃するのが目的だったのかは分からないね」
「うん、でも僕の予想だと……」
「待てフガク。先に紹介だけ済ませてくれないか」
俺がティアと共に敵の目的を推察し始めると、それまで黙ってそれを見ていたゼフィドが声をかけてきた。
「あ……ごめんゼフィド。彼女はティア、僕は彼女をウィルブロードの聖庁まで送り届けるのが目的だ」
「フガクが助けられたみたいね、ありがとう」
ティアが御者台から振り返り、ゼフィドに礼を言っている。
「ゼフィドだ。フガクとは約束を果たす代わりに旅に同行することを了承した」
「約束?」
ティアが首を傾げる。
しまった忘れてた、とはさすがに言えない。
慌てて俺はゼフィドの事情を説明する。
「実は……」
森のダンジョンに挑む仲間に武具を届けるというのが、彼の出した条件だ。
俺はそれを手伝うことになっているとティアに説明した。
「そう。わかったわ。メルカディアの近くなんだよね?」
勝手に決めて!と怒られるかと思ったが、案外ティアは簡単にうなずいた。
さすが懐の深いティアだ。
俺の後先考えない交渉も広い心で受け入れてくれた。
俺はほっと胸を撫でおろす。
「ああ。メルカディアの東の森だ」
「東ぃっ!? 逆方向じゃない! フガク、そういうことは先に言って!」
「ごめんなさい」
ティアは慌てて手綱を引いて馬車を止める。
結局怒られてしまった。
撫でおろした胸は何だったのか。まあ俺が悪いんだけど。
「急ぐ身ならば構わない。俺は一旦降りるが……」
「大丈夫よ、場所だけ指示してくれる?」
「わかった」
ゼフィドが地図を手にティアと行先の相談を始めた。
ところで、先ほどから置物のように黙っている”彼女”のことが気になっている。
御者台のすぐ後ろに控える着物の女性は、穏やかな表情で俺たちのやり取りを見守っていた。
目を伏せているので寝ているのかと思ったが、俺の視線に気づくと柔らかく微笑んでくれる。
柔和な雰囲気はミユキとも少し似ているなと思った
「ねえ、ティア。こちらのお姉さんは?」
「あ、そうだったごめん蘭さん。彼がフガク、私の仲間。フガク、蘭さんはさっきファルザから私を助けてくれたの」
「胡蝶蘭と申します。どうぞ蘭とお呼びください、フガクさん、ゼフィドさん」
そう言って細くしなやかな指が伸びる白い手を差し出してくる。
俺とゼフィドは彼女の繊細な手をおそるおそる握った。
「こちらこそよろしく……?」
俺は手を握ったとき、彼女の掌、特に指の付け根の硬さに気づいた。
指先には白くなった古い傷。
剣を持っていることから剣士なのだろうが、素人の俺から見ても並外れた修練が作り上げる手だと思った。
一応、『魔王の瞳』で彼女のステータスを見ておく。
―――――――――――――――
▼NAME▼
胡蝶蘭
▼AGE▼
28
▼SKILL▼
・抜刀術 SS
―――――――――――――――
素直に驚いた。
『抜刀術 SS』一本だけでティアを守り抜いたという事実が、彼女の強さを如実に表している。
先ほどもモルドの投げた短剣を抜刀で撃ち落としていたし、相当な達人なのだろうと推察する。
「そう言えば蘭さんはどうしてウィルブロードに? 話の途中でファルザが来たから聞きそびれちゃってた」
御者台からティアが声をかける。
素性もよくわからない相手を連れてきたのかと一瞬思った。
ただ、そもそも誰よりも素性が不明だった俺を仲間にしたくらいだ。
ティアは自分の役に立つと思えば、その辺はあまり気にしないのだろう。
ティアの質問に、胡蝶蘭は少しだけ表情を曇らせた。
「はい……家督争いに巻き込まれてしまい、拙は国を追われました。家の者から船に乗せられ、気が付けばウィルブロードに……」
一人称が"拙"とはまた古風な。
格好は和服っぽい着物にブーツの大正浪漫だし、佇まいは戦国時代のお姫様のような美人だ。
お家騒動に敗れて強制的に追放されたというところか。
西洋ファンタジーの世界に突然現れた和風剣士の違和感は物凄いが、今は置いておく。
「そうだったの……」
「はい、この通り拙の刃も折れてしまい、路銀も無くして途方に暮れていたところをティアさんに助けていただいたのです」
そう言って、胡蝶蘭は腰の刀を抜いて見せると、ポッキリと刃が折れていた。
「ああ、それで私の剣を抜いたのね」
「あ、申し訳ありません……剣をお借りしたままでした」
そして、大事に抱えていたティアの剣を、胡蝶蘭は慌てて返却する。
「いいよ。でも折れた刀じゃ戦えないし……フガク、ミユキさんの使ってた剣とりあえず使ってもらっていいかな?」
ティアが俺にそう言って、荷台の端に立てかけてあるロングソードに視線を送った。
何てことの無い市販品ではあるが、しばらくミユキが愛用していた。
ミユキは武器にこだわりが無いらしく、壊れたら適当なものを買い替えていた。
折角勇者なのだし、"聖剣"みたいなユニーク武器も似合いそうなのにと思ったものだ。
いや聖剣なんかがこの世界にあるのか知らないけど。
ティアは多分、ミユキの私物だから一応俺に確認を取ってくれたのだろう。
が、俺としては特に問題ないしミユキも多分気にしないはずだ。
それを手に取り、胡蝶蘭に手渡す。
「いいんじゃない。蘭さん。よかったら一旦これ使う?」
「ありがとうございます。一旦はこちら使わせていただきますが……できれば刀を売っているところなどは無いでしょうか? 両刃の直刀だと鞘走りの感覚が少し違い、抜刀の速度がやはり鈍りますので……」
少し困ったようにそう言った胡蝶蘭。
確かに胡蝶蘭の愛刀は日本刀のような刀剣だ。
西洋風の剣であるロングソードとは使い勝手なども異なるのだろう。
「あれで鈍ってるの……?」
ティアは信じられないといった口調で言っている。
俺も一瞬しか彼女の抜刀は見ていないが、正直いつ剣を抜いたかわからないレベルだった。
本気の彼女の刃は、一体どんな速度で敵を斬るのだろうかと、俺は背筋が寒くなる。
「蘭、お前の刀を少し見せてもらえるか?」
すると、ゼフィドが胡蝶蘭の腰の愛刀に興味を示した。
「え? あ、は、はい。どうぞ……こちらです」
胡蝶蘭は鞘ごとゼフィドに渡す。
彼はそれを受け取り、刀を鞘から抜いた。
漆の塗られた真っ黒な鞘は美しく、中からは折れた片割れの折れた刃部分も出てきた。
ゼフィドはそれを真剣な目つきで見ている。
「……直せるかもしれんぞ」
「! ほ、本当ですか!?」
そういえばゼフィドは自分で武具を作れる鍛冶のスキルを持っていたな。
胡蝶蘭は驚きを露わにし、期待の籠ったような表情でゼフィドを見つめた。
「ああ……だが設備と時間が……」
「ごめん話し中に。もうすぐ森だから、道案内お願いできる?」
ティアの言う通り、目の前には小さな森が見えてきていた。
街道を逸れて草原を直進したのですぐに着きそうだ。
「了解した。またあとで話す」
「はい! ぜひお願いいたします……!」
胡蝶蘭はゼフィドから刀を受け取り、愛おしそうにその鞘を抱きしめた。
きっと大事なものなんだろうな。
「よかったね、蘭さん」
「はいっ!」
朗らかに笑みを浮かべ、胡蝶蘭は嬉しそうな表情を浮かべた。
俺たちは新しい仲間の人となりや、何を大切にしているのかなど、まだ何も知らない。
俺たちが聖庁に着くころには、ミユキやレオナのように一蓮托生のパーティになれているだろうか。
そんなことを考えながら、ひとまずはゼフィドの仲間に武具を届けることにするのだった。
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