第240話 反撃の狼煙②
人が遠巻きに見守るメルカディアの街中で、俺は刺客の一人モルドと対峙していた。
奴は胸元からボトボトと血を流しつつも、焦った様子が無く冷静に俺を観察しているようだった。
「なるほど、確かに強い。これならばナーヴェスたちを退けたのも頷ける」
そこそこのダメージを与えたと思うのだが、モルドにはかなり余裕があるように見えた。
まあ相手は魔人。
ナーヴェスがほんの数日で傷も無く現れたところを見ると、高い再生能力でも持っていると言ったところか。
人を超えたとか言ってるくらいだし。
「そうか……で? 目的は僕を殺すことか」
「話す必要は……」
俺の質問に答える気はないらしく、モルドは俺の眼前へと一瞬で踏み込んでくる。
速い。
が、俺を舐め過ぎだ。
「無い!!」
「あっそう!」
バリィッ!!
身体から雷を迸らせ、皮膚を焼きながらもモルドの攻撃を弾くと同時に俺の身体も宙を舞う。
「ぬぅ……!」
忌々しげに告げたモルドを、俺は真っすぐに見据える。
遠くでは、ナーヴェスの剣を受けつつも反撃して五分にやり合っているゼフィドが見えた。
よし、いける。
「まあ折角仲間が増えそうなんだ……ちょっと良いとこ、見せとかないとな!」
そして俺は五指を開き、"絶雷斬"を放った。
俺ですら予測不可能な疾走に、モルドも一瞬迷う素振りを見せた。
だがすぐに対応してくる。
直線的に向かってくる俺を捉えることは容易だとでも言うかのように。
当然俺もそれを分かっている。
モルドの短刀が俺の首を捉える寸前だった。
俺は再度身体に雷を纏わせ、その痛みに奥歯を噛む。
だが、その雷鳴の爆ぜる音こそが。
俺たちの反撃の音だ。
「『神罰の雷』……!!」
2重の加速。
俺の首を刃が切り裂くよりも早く、俺は身体を小さく丸めてモルドの腹部に体当たりを食らわせた。
「ぐっ……!!」
雷速のタックルを受けたモルドは、ゼフィドと戦うナーヴェスの元まで吹っ飛んでいく。
俺はそれを、さらに加速して追いかけた。
「おやぁ! モルド押されてるんですかぁ!?」
ナーヴェスの狂った笑い声が聞こえつつも、奴はモルドに構わずゼフィドに向けて抜刀した。
「!」
ゼフィドはそれを受け、腰に下げていた分厚い刃の剣で応戦している。
その横を、俺は駆け抜ける。
「おおっとぉ! フガク君逃がしませんよぉ!」
ナーヴェスは横を通り過ぎようとした俺に刃を振り下ろすが、俺は身を捩り脚で奴の首筋に蹴りを叩きこんだ。
「ぬっ!」
グラリと揺れるナーヴェスの身体。
そのままモルドと同じ方向へと吹き飛んでいく。
「ナーヴェス余計なことを!」
モルドはどうにか踏みとどまり俺に向けてレオナのようにナイフを投げつけてきた。
かわせる。
が、俺はここで一つの策を思いついた。
いや、策と呼べるほど複雑なものじゃない。
咄嗟に、チラリと横を見ると、ゼフィドもこちらに駆けてきていた。
「ゼフィド! 一瞬時間を作れる!?」
「ああ……任せろ」
俺達の視線が一瞬だけ交錯する。
彼は俺が何をしようとしてるかはきっと分かっていないだろう。
だが、ゼフィドの群青色の瞳は、俺が何かをしようとしていることを一瞬で理解したようだった。
「やれ、フガク……!」
モルドの投げたナイフを盾で受けるゼフィド。
そして、同時に俺に肉薄して抜刀しようとするナーヴェスに、ゼフィドは身体をぶつけて一瞬の空隙を作った。
完璧だ。
「ありがとう……めっちゃやりやすい!」
そして俺はモルドとナーヴェスの距離がわずか数十センチという状況の中に飛び込み、一瞬『神罰の雷霆』を発動する。
こいつらをまとめて、切り刻む―――!!
「まずい! 防御だナーヴェス!」
「分かっていますと……も!」
咄嗟に防御態勢を取るが、無駄だ。
俺の身体を焼き焦がしながら放たれる光の領域は、奴ら二人を丸ごと包み込む。
完璧な体制とタイミングで、俺の雷がさく裂する。
「遅い!!! 『神罰の迅雷』―――!!!」
ズシャシャシャシャシャッ!!!!!
「ぬぐぅぅぅうううう!!!!」
「ぐぉぉぉおおおお!!!!!」
二人は腕で顔や心臓を庇っているが、俺だってどこを斬っているか分かっていないのだ。
全身を、余すことなく刻み、魔人の赤い血をそこら中に撒き散らしながら、俺の”迅雷”が白昼の路を黒く焦がしていった。
「フガク……お前は何者なんだ」
真っ赤な血だるまになって倒れゆくモルドとナーヴェスの前に立った俺に、背後からゼフィドが声をかけた。
「別に何者でもない。気づいたらこうなってただけだ」
俺が何者かなんて、俺が一番知りたいんだから。
俺はゼフィドに笑いかけながらそう言う。
ナーヴェスは気絶しているのか動かないが、モルドは膝をつきつつも戦意を失っていない。
なら、もう一度いくまでだ。
「お……のれフガクっ! 貴様は我らの仇敵に相応しい相手のようだ!」
あれだけ刻まれて立てるモルドに戦慄しながらも、俺はジッと奴を見据える。
次は確実に殺る。
俺が一歩前に足を踏み出したその時だ。
「リュシアン!! 来い!!!」
ドガァアアアアアンンッッッ!!
モルドの叫び声と共に、路地の壁が粉塵と共に砕かれ、巨大な影が飛び込んできた。
その体躯は天を衝くような巨大さで、3m近くある。
「なんだ……こいつ……!?」
一瞬、俺は背筋を冷たい汗が伝うのを感じた。
「化け物だな」
驚く俺とゼフィド。
黒い肌に逆立った長い髪。
異形の筋肉に覆われた巨体が巨大な鉄塊のごときハンマーを振り上げている。
そして何よりもこいつの異常性。
その顔には、右に1つ左に2つと、ピンクの目が3つあったのだ。
「ガァァァアアアアアア!!!!!!!!!!」
獅子のような咆哮を上げながら、ハンマーを振り下ろすリュシアンという名の怪物。
「くっ! どけフガク!」
そのハンマーの下に、ゼフィドが入った。
そしてその暴風のような一撃を盾で受ける。
盾の下に肩を入れるように両手で迎え撃つ。
バギィッ!!
何の音なのかは分からないが、鉄塊が鉄板をとんでもない圧力で叩いたとき、そんな音がするのかもしれない。
「ぐッ!!!」
ゼフィドが噛み締めた奥歯から血を流し、彼の靴底が石畳を砕いて沈み込む。
そのまま押し潰されて肉塊とならないのが、鍛え上げられたタンクゼフィドの真骨頂と呼ぶべき部分だろうか。
だが、決してダメージは浅くない。
「ゼフィド!」
俺はゼフィドが無事なことを確認しつつも、リュシアンに『魔王の瞳』を発動する。
―――――――――――――――
▼NAME▼
リュシアン
▼AGE▼
30
▼SKILL▼
・魔人の肉体 S
・怪力 A+
・頑丈 A+
・暴走機関 A
―――――――――――――――
「問題ない……! 斬れフガク!」
「ああ……!!」
見るからに異常な化け物で、これがモルドたちと同じ種類の魔人だということが信じられない中で、俺は再び雷を宿す。
「『神罰の雷』……!!」
ザシュッ!とリュシアンの腹を斬って奔る俺だが、奴は避けることも無ければその素振りすら見せなかった。
「ガァァァァアアアアアアアア!!!!!!!!」
ただひたすらに咆哮を上げながら、鉄のハンマーを振り回すだけだ。
路や建物を掠めるだけで砕け、弾丸のように破片が周囲にまき散らされる。
ゼフィドがそれを今度は真正面からは受けず、盾で受け流しながら足を剣で斬って行く。
刺客との対決ではない、これは単純な化け物退治だ。
「フガクッ! 乗りなさい!」
その時、視界の向こうから馬車を走らせるティアの声が聞こえた。
なるほど、このまま逃げるということか。
「ゼフィド! 仲間の馬車だ! あれに乗って!」
「了解した!」
ゼフィドがリュシアンが振り下ろしたハンマーの一撃をかわし、馬車に向かって走る。
律儀なことに、途中で仲間に渡すと言っていた装備も回収していた。
「逃がすか!!」
モルドが短剣をティアに向けて投げる。
すると、ティアの隣の御者台に一人の着物姿の女が立った。
キンッ!とティアが持っていたはずの水色の剣で短剣を弾き返す。
誰だあれはと思ったが、とにかく後だ。
「ティア! そのゼフィドは仲間だ! 馬車に乗せて! 僕は殿をやる!」
「分かった!」
馬車が猛スピードで俺の横を駆け抜けていき、ゼフィドが荷台に飛び乗る。
ガラガラと砂煙を巻き上げながら町の出口へと向かっていった。
「追え! リュシアン!」
「コロス……! コロス……! ギァアアアアアア!!!!!!!!」
ビリビリと鼓膜と空気を震わせる絶叫を上げながら、リュシアンが走る。
俺はその前に立ちはだかった。
「フガク! いけるのか!?」
「大丈夫だから……!」
ゼフィドとティアのそんなやり取りを風の向こうに聞きながら、俺は低く身を屈めた。
ナーヴェスは倒れ、モルドも俺たちを追える状態じゃない。
ならばあとは、この化け物を”走れなく”すれば一旦は終わりということだろう。
「……こいよ化け物」
バヂィッ!!
俺は渾身の力を込めて疾走する。
振り抜かれるリュシアンのハンマーは、かするだけで俺の首を真っ赤に散らして持っていくだろう。
だが、当たらなければ何でもない。
奴が店の軒先を粉微塵にするのをかわし、俺の銀鈴がリュシアンの右足を斬り飛ばした。
「グァァァァア!!!!!」
だがリュシアンは折れていない左足と、足首から下が無くなった右足で踏みとどまった。
狂ってるなこいつら。
そんなことを思いながら、もう一度俺は『神罰の雷』で駆け抜けた。
「そこで仲間と仲良く寝てろ!!」
そして俺の刃は、リュシアンの左足首も切り落とし、そこで奴の巨体はようやく大地に沈んだ。
「くっ!」
モルドの悔しげな声を聞きながら、俺は遠くに去って行く馬車に向けて駆けだす。
これ以上戦いを繰り広げて俺の身体にダメージを増やすわけにはいかないからだ。
これでしばらくは追ってこれないだろう。
体制を万全に整え、その時こそこいつらを全員倒す。
俺はそう思いながら、チラリと背後を振り返ってモルドたちが追ってこないことを確認した。
俺の背後にはリュシアンの咆哮がいつまでも届いていた。
「ふぅ……」
ダメージはあるが、今までよりもかなり身体が軽い。
今回は明確に俺達の勝利だからというのもあるだろう。
焦げた匂いと土埃の中で、俺はようやく息を吐いた。
この戦いはきっと、新たな仲間を得た俺とティアの、反撃の一手だったに違いない。
<TIPS>
お読みいただき、ありがとうございます。
モチベーションにもつながりますので、もしよろしければぜひ評価や感想などいただけると幸いです。
評価は下の「★★★★★」から行えますので、よろしくお願いたします。




