第237話 追放者たち②
「お前は追放だッッ!!!」
ギルド内に響き渡った声に、シンとあたりが静まりかえる。
金髪の剣士風の青年が、顔を真っ赤にして相手に指を突き付けていた。
一方言われた側である青髪褐色肌の大柄な男、ゼフィドは精悍な顔つきで剣士を見据えていた。
「あいつらまたやってるよ」
「追放って……とうとう言いやがった」
そんなひそひそ話が周囲から聞こえてくる。
カウンターで俺の応対をしてくれていた受付のおばさんも、呆れたように肩をすくめた。
「あの子ら、というかアルベルとゼフィドは最近仲が悪くてね。ああやってしょっちゅう揉めてるんだ」
「へー……」
揉めてるというか、あの金髪のアルベルとかいう剣士がゼフィドに一方的に追放を言い渡してるように見えるが。
「ちょ、ちょっとやめなよアルベル。周りからめっちゃ見られてるし……」
小柄な弓使いの女が、周りにチラチラ視線を送りながら言う。
茶色の長い髪を揺らし、クリッとした大きな目が可愛い印象だった。
「そうだよ。いい加減にしな。あんたら最近どうしちまったんだ」
もう一人の、ダークグリーンの長い髪が特徴の気の強そうな女が呆れたように言う。
レザーの軽鎧を纏っていることから、同じく剣士か斥候職などだろうか。
「お前たちは黙ってろ。ゼフィド、説明も何もあったもんじゃない。自分で分からないのか?」
「分からんな」
ぶっきらぼうな物言いで返事をしたゼフィド。
まあ確かに一見するだけで性格の相性は悪そうな二人だ。
だったら何でパーティを組んでいたんだという話だが、理由は色々あるのだろう。
他の女メンバー二人も寝耳に水と言った様子だし、アルベルが一人突っ走ったという感じだった。
「ふざけるなよ! お前は僕たちを馬鹿にしているんだろう!」
「? 何のことだ」
「お前は自分で作った武具を危険な前線で試したいだけだろう! この前だって、僕やシュライヤは反対したのに危険なダンジョンでどんどん先に進みやがって!」
「別にお前たちは怪我もしていないはずだが」
何やらパーティの方向性で揉めているようだった。
よく見るとゼフィドという男の服は裾が擦り切れたり、黒いブーツの先もかなり傷があったりと、敵の攻撃を激しく受けたような跡が見られた。
本人が大けがを負っているという様子ではないが、寡黙そうな雰囲気に反して戦闘狂とかなんだろうか。
「アルベル、あんただって最後には納得してダンジョンに潜っただろう? 敵の攻撃をゼフィドが引き付けてくれるから私たちだって稼げてるんじゃないか」
斥候の女が二人の間に立って取りなしている。
だがその行動が、火に油を注いだようだ。
「マユ! お前だって毎回ゼフィドに着いていくのは大変だって言ってただろう」
「そ、それは……確かにゼフィドは強い魔獣でもどんどん突っ込むし……。でも、結局最後には勝つじゃないか」
「そうだよ。大体アルベルの剣だってゼフィドが打ったモノじゃない。だから私たちはもうすぐAランクになれそうなのに……」
「シュライヤ、お前もこの前愚痴ってたろ! ゼフィドが速すぎて着いていけないって」
「ち、違うそれは悪い意味じゃ……」
緑髪の斥候がマユ、小柄な弓使いがシュライヤか。
彼らはBランク冒険者のようだ。
結局4人で揉め出してしまった。
「……とにかく追放と言ったら追放だ! シュライヤ、お前がそう言うなら武器もゼフィドに返す!」
アルベルは女子2人からなだめられたことで余計に激高したのか、腰に帯びた剣をドン!と机の上に叩きつける。
「アルベル何もそこまで……!」
パーティ内であのゼフィドという男だけ実力差があり、それがアルベルには不満のようだ。
もしかしたら自尊心を傷つけられたというのもあるかもしれない。
ただパーティは足並み揃えることも重要だと思うので、彼の言うことにも一理あるが。
俺はあのゼフィドという男に興味を持った。
勝手に見て悪いとは思うが、『魔王の瞳』でステータスを覗き見る。
―――――――――――――――
▼NAME▼
ゼフィド
▼AGE▼
30
▼SKILL▼
・鍛冶 A+
・ガード A
・頑丈 A
・格闘 A
・剣術 B
・狩猟 A
―――――――――――――――
かなり強くないだろうか?
戦闘向きの錚々たるスキル群。
見た目もスキルも、前線で仲間を守るタンク役だ。
しかも鍛冶スキルで武具を自分で作れるというのがすごい。
レオナも『投擲A』とかであの強さなので、彼もベクトルは違えど同じくらいの力を持っている気がする。
もっとも、レオナの場合はスキル云々よりもくぐった修羅場の数、経験値が俺たちの中でも多い方なので、一概にスキルレベルだけでは測れないが。
「待てアルベル。俺の行動が気に食わんのなら是正する。考え直せ」
ゼフィドは大人の対応といった感じだ。
しかし、アルベルは頑なに首を縦には降らなかった。
「お断りだね」
「だが俺がいなくなればお前たちは死ぬかもしれんぞ」
おお、これは結構なカウンターだと思った。
事実なのかもしれないがアルベルの性格上、こんな言い方をしたら余計溝が深まるだけだ。
「なんだと……?」
ガタッ!と椅子を跳ねのけるようにアルベルが立ち上がり、ゼフィドの眼前まで歩み寄る。
「そういうところが馬鹿にしてるってんだよ! お前一人で戦ってるつもりか!」
そしてアルベルはゼフィドに殴り掛かった。
「ちょ!」
驚き止めようとするマユとシュライヤだが、間に合わなかった。
アルベルの拳は、ゼフィドの顔面に向けて繰り出される。
しかし、ゼフィドはそれを眉ひとつ動かさず片手で受け止める。
「ぐ……! うっ……」
強靭な肉体のゼフィドの握力で、拳を握られアルベルは動けなくなる。
やはりゼフィドという男は相当の実力者のようだった。
「今のも馬鹿にしたわけじゃない。俺は俺だけの力でパーティがAランクに届こうとしているとも思っていない。だが、タンク役の俺がいなければ、お前たちが魔獣の攻撃に直接晒されると言ってるんだ」
「うるさい!お前は体のいい武具の実験場が欲しいだけだ! 僕はストレスの溜まる旅はごめんなんだよ……!!」
「アルベル……! ゼフィドもやめろ!」
マユも声を荒げてアルベルとゼフィドの間に割って入るが、取りつく島も無いようだった。
ゼフィドは手を放し、拳を押さえるアルベルを見下ろす。
「……わかった。なら好きにしろ」
ゼフィドはまだ色々と言いたげではあったが、一度目を伏せて机の上に置かれた剣を手に取る。
「ちょっとゼフィド待ってよ!」
踵を返してその場を去ろうとするゼフィドの腕をシュライヤが掴む。
だがゼフィドは止まることなくギルドの外へと歩いていく。
小柄なシュライヤは引きずられ、結局そのまま腕を離した。
その背中に、アルベルは追い打ちをかけるように言った。
「馬車にあるお前の作った武具も持っていけよ!」
「ああ……」
ゼフィドはアルベルの方を見ないまま、ギルドから出ていった。
彼らの様子に注目していたギルド内では誰も笑わず、やや変な空気になりつつも元の喧騒が次第に広がっていく。
後に残されたアルベルは怒りを露わにしたまま椅子にどっかりと座る。
マユとシュライヤは互いに視線を交わし、ため息をついていた。
「で、あんたはどうするね?」
一緒になって一部始終を見ていた受付のおばさんが俺に言った。
「ちょっと考えます」
「はいよ。またいつでも来な」
そして俺はゼフィドの後を追う。
かなり空気の読めない行動をするが、ここはあえて空気は読まない。
こんな千載一遇のチャンスを逃す手は無いからだ。
ギルド横にある馬車から、ガチャガチャといくつかの盾や手甲を取り出していたゼフィドに駆け寄る。
「あの、すみません!」
ゼフィドは俺の声に振り返った。
近くで見ると体の厚みもありかなりデカく見える。
ルキやアルカンフェルと並んでも一切遜色のないガタイだ。
落ち着いた雰囲気はあるが目つきも鋭く、俺は若干たじろいだ。
「なんだ」
だが当然そんなことで怯んではいられない。
俺は思い切ってゼフィドに告げる。
「僕たち、旅の護衛を探してるんです。よかったら、同行してもらえませんか?」
愛想笑いを浮かべながらそう言った俺の言葉に、ゼフィドは驚いたような顔を見せた。
まあ急に声をかけられたらそうなるか。
そしてゼフィドは、ゆっくりとした動作で言葉を発する。
―――
ティアはシャワーを浴びた後、ご機嫌で一階にあるダイナーへと降りていった。
買い出しに行ってくれたフガクのため、何か軽食でも買っておこうと思ったのだ。
一応念のため腰には剣も携えて。
街で買い食いでもしてるかもしれないが、その時はその時。
「一人だけ楽しんできたんだね」と皮肉の一つでも飛ばしてやればいい。
20席程の店内の半分くらいが町の人や冒険者で埋まっており、昼時ということもあってか食事を楽しんでいる。
「すみませーん……!」
カウンターで店員に声をかけようとするが、見当たらない。
「マスターなら外で何かしてるよ」
店内に客がいるのにどうしたんだと思っていると、カウンターに座っていた常連らしきおじさんが店の入り口を指さした。
すると、扉の向こうで何やら頭をポリポリかいて困っている様子が見えた。
「?」
ティアは一応警戒しながらそちらに近づく。
剣呑な雰囲気は無く、そこでは何人かの冒険者たちも遠巻きに見守っていた。
「お姉さーん困るよそんなところで寝られちゃ……」
そう言って困惑する中年のマスターの視線の先。
周囲の冒険者たちも、そこにいる人物の異様さに戸惑っているようだった。
「申し訳……ありません……すぐに、どきますので……」
そこには、顔を青くさせて蹲る一人の女の姿があった。
だが、明らかにこの国の、いやこの大陸の人間ではない。
真っすぐ切り落とされた前髪が特徴の長い黒髪には、藤の花の髪飾りが映えている。
長いまつ毛の目は伏せられ、スラリとした体躯は百合の花のような清らかさを感じさせた。
そして、髪飾りと同じ藤色の着物に黒いブーツという異様な出で立ち。
腰には漆が塗られた鞘に入った刀を帯びていた。
明らかに周囲から浮いているその女を見て、直感的にティアは「見つけた」と思うのだった。
その日、新たな運命に出会った。
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