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【14万PV感謝】魔王、いいから力を寄越せ!~転生した俺が美人勇者と復讐聖女を救うまで~  作者: 裏の飯屋
第七章 ウィルブロードへの路編

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第236話 追放者たち①


  少し肌寒さを帯びた風が、昼の雑踏を抜けていく。

 コツ……コツ……と、ブーツの底が石畳を叩く音がする。

 藤色の着物の女は、陽光の下をふらふらと歩いていた。


 空は眩しく、街は水音と人の声で賑わっている。

 それでも彼女の歩みは妙にゆっくりで、どこか重たげだった。


「……このままでは……いけません」


 凛と鳴るような声が、風と喧噪に紛れて消える。

 腰に帯びた刀がわずかに揺れ、金具がカチリと鳴った。

 その姿はまるで、神域を彷徨う幽鬼のようにさえ見える。


(せつ)は……一体どうすれば……」


 まるで神に答えを求めるように煌めくウィルブロードの蒼穹へ手を伸ばす。

 呟いた唇が震えた次の瞬間、彼女の身体がぐらりと傾ぐ。


 彼女はこの国につい先日流れ着いた異大陸の剣士。

 この街で彼女はあまりにも異質過ぎた。


 彼女の足取りは迷いを孕みながらも、まっすぐに街の奥へと続いていった。

 陽光に溶ける藤色の袖が、風に揺れる。


 その先に、彼女の“運命”が待っていることを、まだ誰も知らない。



―――



 メルカディアは、清らかさと賑わいが同居した都だった。

 

 ミューズ/オーガとの戦いから1日半。

 ウィルブロード入国から4日目を迎えた昼に、俺たちは商業都市メルカディアに到着した。


 街の中を走る川面を渡る風が穏やかに頬を撫で、流れる水音が街全体を包み込んでいる。


 白い石畳の道は丁寧に磨かれ、日の光を反射して柔らかく輝く。

 その両脇には青い屋根瓦の家々が並び、道の先の巨大な聖堂にそびえる尖塔は、天を突くように空の青へと溶けていく。


 教会の鐘が鳴るたび、鳩が一斉に舞い立ち、白い羽が光を反射して散っていった。

 どこか現実離れした静謐さがありながらも――街中は多くの人の活気で賑わっていた。


「メルカディアはすごい人だね」

「ウィルブロード一の商業都市だからね。皇都かメルカディアに行けば大体何でも揃うよ」


 辺りを見渡すと広場には露店が並び、透明なガラス瓶に詰められた香油や水晶、聖印のアクセサリーなどが陽光を受けて煌めいている。

 商人たちの声、ゆったりと歩く聖職者たち、祈りの言葉と値切り交渉が不思議な調和を生み、この街の“神と人の共存”を象徴していた。


「ひとまず宿を探しましょう」

「今日はベッドで寝られそうだね」

「私はとにかくシャワーかお風呂」


 二夜を馬車で過ごしたので、俺達も一息つきたいところだった。

 刺客の件があるので油断はできないが、人も多く紛れるには格好の街だろう。

 とはいえ、それは相手にとっても同じことなのだろうけど。


「フガクは体調はどう?」


 御者台に座るティアがちょくちょく俺の身体を気遣ってくれる。

 ミューズとの戦いで倒れはしたものの、2日も経つとだいぶ調子も戻ってくる。

 次から次に傷ができるので一向に体の痛みは取れないが、また戦えと言われても問題は無いくらいには回復した。


「調子いいよ。ティアこそ大丈夫? ずっと御者をやってくれてるけど」

「私も大丈夫。結構寝れてるし」


 馬を休ませる時間があるので、合間合間にはしっかり休息も取っている俺達。

 本来は交代で見張りなどを行うが、できるだけ人気(ひとけ)の多いキャンプ地に馬車を泊めて2人で眠るようにしていた。

 

 刺客が襲ってくる可能性はあったが、それは起きていても変わらないのである程度リスクを取ったのだ。

 それよりも、気を張り詰め過ぎて全く休まず旅を続けることの方が危険だと俺たちは判断した。


「部屋、空いてるって。3人部屋もあるみたい」


 街のど真ん中にある宿に空室があるかを確認しに向かったティアが、ピースをして戻ってきた。


「ラッキーだね。ここにしよう」

「早速シャワー浴びよっと」


 レオナを背負い、襲撃に備えて最低限の荷物だけを持ち、俺たちは早速部屋に入る。

 ここは1階が食事もできる酒場になっており、2階が冒険者向けの宿になっているようだ。

 まばらに客の入った店内を通り抜け、2階へと続く吹き抜けの階段を通り抜けていく。


 少し広めの部屋ではあったが、ベッドが本当に3つ並んでいるだけの部屋だ。


 どこの宿屋も似たようなもんだなと思いつつ、レオナをベッドに寝かせる。

 華奢な身体にはしっかりと体温があり、寝息を立てているだけでも安心感がある。

 栄養補給が点滴だけなので、わずかだが痩せたかもしれない。


「フガク、物資の買い出しお願いできる?」


 ティアは外套を早速脱ぎ、風呂に入る準備を進めながらそう言った。


「うん、いいけど……」


 別に何が見えているというわけでもないのだが、無防備に脱ぎだすのは少しドキッとするからやめてほしい。


「何? 今日は覗かないでよ」


 ティアは脱いだ外套で前を隠すような仕草を見せた。

 俺はどことなく気恥ずかしくなって視線を逸らす。


「前も別に覗いてないよ」

「じゃあよろしく。水と食料くらいでいいから。あとギルドでパーティーメンバー探してる人いないか聞いてみて」

「はーい」

「あー、やっと人の営みができる……」

「そんなにお風呂重要かな」


 結構人使い荒いなと思いつつ、俺は部屋を後にする。

 まあティアには睡眠より大事なお風呂の時間だ。

 ゆっくり入るといいさ。


 一瞬別行動をしても大丈夫かと思ったが、レオナを置いて2人で出る方がリスクがある気もする。

 点滴はまだあるが、可能ならレオナをもう一度医者に見せたいとも言っていた。

 

 ウィルブロードに入ってロクに街中の見物もできなかったし、良い気分転換にもなるだろう。

 俺は何となく周囲の視線を気にしながら雑踏の中に足を踏み出した。


 買い出しはものの5分程度で終わった。

 宿屋の並びには商店がいくつもあり、すぐに買い物ができたからだ。

 一度馬車に荷物を積み込む余裕すらあったので、俺は荷物を仕舞ってからギルドに向かう。


「えーと……あれか」


 10分ほど歩いたところにギルドはあった。

 ギルドに入るのも何だか久々な気がする。

 俺はポケットの中にギルドカードがあることを確認して、白い壁のまるでダイビングショップのような外観をしたオシャレなギルドに足を踏み入れた。


 国が変わるとギルドの雰囲気も結構変わるのだなと思う。

 中の造りは似たような感じだったが、香油の香りとまだ新しい建物なのか木の匂いで異国情緒に溢れていた。


 広い室内では多くの冒険者で賑わっており、掲示板前で唸っている人や、テーブルを囲んで何やら揉めていそうな一団、受付嬢と親し気に会話する人などが見られた。

 かなりガヤガヤとしており、商業都市らしい熱気も感じられる。


「人は他と大差ないか」


 冒険者たちのギルドでの過ごし方は、ゴルドールやロングフェローとも大きな差は見られなかった。

 酒瓶がぶつかる音、紙をめくる音、誰かの笑い声が、ひとつのざわめきになって渦を巻いていた。

 俺は3つある受付のうち、大柄なおばさんが座るカウンターへと近づいていく。


「こんにちはー」

「はいよー。クエストの受託かい? それとも素材の換金?」


 おばさんは愛想よく声をかけてくれた。

 俺は曖昧に笑い、仲間の件について尋ねてみる。


「仲間の募集をしたいんですけど、ここでできますか? それか、パーティを探している人とか分かりますかね?」


 ティアから大して説明も受けてないが、ギルドで張り紙でもすればいいのだろうか。

 ほら、CDショップでバンドメンバー募集の張り紙をするみたく。

 ”当方異世界転移者と聖女。戦士と魔法使い募集”みたいな感じで。


「ああメン募ね。ちょいと待っておくれよ。あ、ギルドカード出してくれるかい」


 よかった通じたらしい。

 俺がギルドカードを渡すと、おばさんは奥からファイルのような冊子を持ってきて中を確認する。

 ペラリとした質の悪そうな紙が数枚挟まれているだけだったのが不安を煽る。


「あー……今は無いねぇ。初心者冒険者ならいるけど、あんたBランクだろ。同じようなランク帯の人は残念だけど……」


 おばさんは申し訳なさそうに言った。

 まあ仕方ないか。

 思いついてすぐおあえつらえ向きのメンバーが見つかったらそれこそ苦労は無い。

 ましてや俺達の過酷な戦いだらけの旅に着いてこようなんて奇特な人は、そうはいないだろう。


「あ、でも……」

「え?」


 おばさんは親指で、ギルドの端でテーブルを囲む冒険者の一団を指し示した。

 そちらに視線を送ると、先ほどギルドに入ったときに目についた揉めている集団がいる。

 パーティで喧嘩でもしているのだろうか。


「今一人空きが出るかもだ」



「ゼフィド!! お前は追放だッッ!!!」



 おばさんの声と同時に、そのパーティの中の剣士風の男がそう叫んだ。

 他の軽鎧を身に着けた女と、弓使いの女は気まずそうにしている。

 また大きい声に、ギルド内の視線もそちらに集まった。


 一瞬シンと静まり返ったギルド内で、一人椅子には座らずその怒号を真っすぐに浴びている男から、俺は視線を外せなかった。


 褐色の肌に、短く逆立てた青い髪、大柄な体躯は190cm以上はありそうで、青いジャケットに分厚い生地のグレーのパンツからいかにも戦士風といった姿をしていた。


「納得がいかん。説明をしろ」


 淡々と、精悍な顔つきでそう返したのは、ゼフィドと呼ばれた男。

 その佇まいは、素人の俺から見ても隙が見当たらず、どんな魔獣の攻撃を受けてもびくともしなさそうな気配に満ち溢れていた。

 

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