第231話 魔人襲来②
俺は魔人ナーヴェス、魔人ファルザと対峙し、一人で二人を撃退しなければならない状況になった。
明らかに人間を超える反応速度を見せた二人に、俺は警戒を緩めない。
『神罰の雷』の度重なる乱発に、全身が軋む音がするようだ。
だが、一寸の油断も出し惜しみもできる相手ではない。
俺は銀鈴を握り締め、二人に交互に視線を移す。
「ダッサナーヴェス! 斬られてんじゃん!」
ケタケタと甲高い声で笑うファルザ。
胸元を俺に斬られたナーヴェスが、忌々しげに息を吐いた。
「やかましいですよファルザ。思いのほか彼が速かったものでね。次はありませんよ」
そしてナーヴェスが再び抜刀の構えを取るべく腰を落とした瞬間、俺はそれより速くナーヴェスに肉薄する。
「くっちゃべってるなら帰ったらどうだ」
「せっかちなお人ですねえ」
ギィィィィイイイン!!!
俺の銀鈴での一薙ぎを、刃で受けるナーヴェス。
やはり速い。
俺が奔り出してからでも対応してきている。
総合的な実力は分からないが、速度だけならルキより上だ。
「白黒頭ァ!! アタシたち二人を相手に一人なんて舐めてんじゃないの!?」
背後から飛び掛かってくるファルザ。
金属の突起で覆われたナックルで殴りかかってくる。
華奢な体躯だが、肉弾戦で戦うタイプなのだろうか。
俺は轟く雷と共に跳躍する。
ファルザの攻撃をかわし、すれ違い様に奴の脚を切り裂こうとした瞬間だ。
ドスッ!と俺の太ももに杭のようなものが刺さった。
「ッ!」
痛みが走るが、雷のレールを走っているので勢いは落とさない。
今何をされた?
一瞬そんな思考が頭を過る。
さらに追い打ちをかけるように、ナーヴェスが横に並ぶ。
「アナタ本当速いですねえ」
そして、その真っ黒な鞘から抜刀する。
「くそっ!」
俺は咄嗟に銀鈴を体の前に構える。
ギンッ!という音と共にどうにか刃を受けたが、脇腹を斬られ、さらにその勢いで路地の壁に叩きつけられた。
倒れるわけにはいかない。
すぐさま起き上がろうと足を踏み出すと、俺の太ももに杭がまたしても2本刺さる。
チラリと視界の端に、こちらに手を翳すファルザの姿が見えた。
投擲……いや暗器だ。
「ぐぅっ……!!」
そう認識できたものの、たまらず俺はバランスを崩し、地面に倒れかけて慌てて手を着いた。
だがそれで止まってくれるほど敵は優しくない。
すぐに肉薄してきたナーヴェスが抜刀の構え。
まずい、直撃する……!
俺は直感的に、この斬撃への対応は間に合わないと思った。
ならばやることは一つだ。
バリリッ!!!
「がァッ!!!」
俺はまたも”雷霆”をその身に宿す。
思わず苦悶の声が漏れた。
周囲に迸る閃光と稲妻が、ナーヴェスの刃をギリギリで弾く。
「ぬぅっ! 厄介な!」
だが俺もただでは済まない。
肉体が崩壊するレベルではないが、着実に俺の身体を焼き焦がしていた。
「そらどんどん行くよー!」
代わりに俺の懐に入り込んでくるファルザの拳が、肝臓辺りに抉り込まれる。
「っ!!!」
体格の割りに、ルキとも遜色無い重い一撃。
これが魔人の力ということか。
俺は口から唾液とうめき声を吐くが、この間合いはチャンスでもある。
「む! いけないファルザ離れなさい!!」
再び雷鳴を響かせる。
銀鈴を取り落とさぬよう握り、上空に向けて真上へと駆け抜けた。
ファルザの腹から耳辺りまでを、まっすぐ線を引くかのように切り裂く。
「アァッ!! 畜生ッ! アタシの顔斬りやがった!」
そりゃ俺だって女子の顔なんか斬りたくない。
が、そんなこと言ってる場合か。
俺は跳躍後、さらに五指を開いた上から下へと振りかぶる。
ルキの技をパクるなんて御免だが、使えるものは使わせてもらう。
「嫌なら帰れ!!」
そして5つの稲妻が放たれる。
俺はそのうちの一つと共に駆け抜け、ナーヴェスへと斬りかかった。
だが。
「素晴らしい速度です! 受けて立ちましょう!」
ナーヴェスが抜刀。
刀を抜く瞬間は見えなかった。
だが奴も、俺の全てを捉えているわけではない。
俺はナーヴェスの刃で肩を斬られたが、俺の刃も奴の脇腹を掠める。
本来なら肉薄した瞬間、帯電と放電で光の檻を形成、『神罰の迅雷』へと繋げたかった。
だが、今の俺は”雷霆”を撃ちすぎている。
このペースで戦えば間違いなく俺は自滅する。
だからこそ通常の雷を応用しながら剣主体で戦う必要があった。
全力を出せない歯がゆさを感じるが、結局戦いなんてものはそんなものだ。
いつでも万全の態勢とは限らず、今ある手札を切っていくしかない。
「後ろガラ空き!」
ファルザが俺の背後から再び暗器の杭を放つ。
俺はそれをかわすが、連携したナーヴェスが俺の横にピッタリと張り付く。
「腕を一本もらいましょう」
そして抜刀。
キンッ!
鞘走りと納刀の音が聞こえた瞬間、俺の左手首から肩にかけて血が噴き出した。
「ぁぁあ!!」
痛みよりも熱さが先に来る。
だが苦しんでもいられない。
俺は銀鈴を持つ右手でなくてよかったと思いながら、腕に雷鳴を走らせた。
「なっ!」
ナーヴェスの驚く声がする。
俺の剣を持つ腕が弾け跳ぶように振るわれ、ナーヴェスの剣を弾き飛ばす。
肩が抜けそうになる。
だが超接近戦なら、『神罰の雷』はこういう使い方もできる。
それこそ、魔人で思い出したがリュウドウにとどめをくれてやったのもこれだ。
ナーヴェスは飛んで行った剣を拾うべくバックステップで距離を取るが、俺は逃がさない。
さらに一足飛びに奴を追いかけ、その背中に向けて刃を振り下ろす。
「アタシを忘れてんじゃねえ!!」
ファルザが俺を横合いから殴ろうと飛び掛かってくるが、想定内だ。
俺はまずナーヴェスの背中を思いきり斬る。
「グッ!!」
ナーヴェスの苦悶の声を聴きながら、すぐに踏み留まって身体を反転。
ファルザを返す刀で斬り捨てようとするが。
ギンッ!
「っ!!」
ナーヴェスが拾い上げた剣が、俺の銀鈴の横薙ぎを一瞬足止めした。
一拍遅れたことでファルザの拳が迫る。
俺の顔に叩き込まれようとする拳の動きが、やけにスローモーションに見えた。
「フガクッッ!!」
ティアの声が聞こえた。
「なにっ!?」
ファルザの背後に飛び掛かったティアが、剣で奴の背中を斬り付ける。
そして俺の刃が、ファルザの拳より先に奴の腹を切り裂いた。
前後から斬られたファルザが石畳の上に沈む。
「ティア! なんで!」
「いいから逃げるよ!!」
ティアは俺の手を取り走り出す。
「待ちやがれ!!!」
ファルザがすぐに起き上がるのを横目に見て、俺はティアの背中と脚を持って抱きかかえた。
「えっ! えぇっ!?」
「ごめんティア、しっかり掴まってて」
いわゆるお姫様抱っこの形で、『神罰の雷』を発動。
ティアは戸惑っているが、構っている余裕はない。
バヂッ!という音と共に、まるで風を切るようにして出口まで駆け抜ける。
「セレスティアァッ!!」
「待ちなさいファルザ! 今回は様子見、追う必要はありません」
激高するファルザと、それを冷静に止めるナーヴェスの声を起きざりにしながら、俺はティアを抱きかかえて戦線を離脱したのだった。
「ティア、馬車は?」
「入口の衛兵に見てもらってる」
「おっけー」
俺はそのまま数分走り続け、町の入口が見えたのを確認した。
背後を振り返ってナーヴェス達が追ってきていないことをもう一度確認し、ようやく速度を落とす。
「ありがとうティア、助かったよ」
「足手まといになるかもって思ったけどね。結果的には良かったみたい。それより……」
俺の腕の中で抱っこされたままのティアが、少し恥ずかしそうに俺をジッと見上げてくる。
俺は慌てて彼女を下ろし、歩いて馬車の元へと向かった。
「ご、ごめん」
「ううん。そっちの方が速かっただろうし、ありがと。それにしても……連中はやっぱり……」
ティアは街の方を振り返り、眉をひそめながら呟いた。
俺は頷く。
「うん。奴らはリュウドウと同じ『魔人の肉体』スキルを持ってた。ほぼ間違いなくガウディスの刺客だ」
「こんなときに……」
ティアは歯噛みする。
全くその通りだ。
ここに来て刺客との二連戦。
ルキは置いておくとしても、奴らはまだこの先の道中も追ってくる可能性がある。
「今回は様子見」とか言っていたし、最悪他にまだ仲間がいるかもしれない。
「とにかく、フガクは少し休んで。馬車は私が動かすから」
ティアは街の入口横、衛兵の詰め所の脇に停めてあった馬車の御者台に乗り込む。
俺は荷台に乗り込み、レオナがスヤスヤと眠っているのを見て安堵する。
ひとまず危機は去った。
「悪いけど頼むよ」
まずはここを離れた方がいいということになり、ヒーリングは後回しとなった。
俺は斬られた肩や脇腹などにポーションをぶっかけながら、背後に遠ざかっていくセラフィオンの街を眺める。
この調子で辿り着けるのか一抹の不安もあるが、俺たちは次なる街メルカディアを目指す。
初日に続き、二日目も刺客の襲撃。
俺はまたしても傷を体に刻むことになった。
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