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【12万PV感謝】魔王、いいから力を寄越せ!~転生した俺が美人勇者と復讐聖女を救うまで~  作者: 裏の飯屋
第六章 魔女と公爵令嬢編 /断章 魔王の記憶編

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第223話 放たれる猟犬


 ドラクロワは近隣の町の宿に辿り着き、部屋で光信機のスイッチを入れた。

 青白く淡い光が室内を照らし、ドラクロワは息をつく。


 バルタザルの研究所へと繋ぎ、現状報告を行うためだ。

 椅子に足を組んで腰掛け、相手側からの反応を待つ。


「こちらオルタニア」


 機械的な、くぐもった男の声が聞こえた。


「あれ、珍しいねオルタニア。君が出るなんて」

「ドラクロワか」


 ガウディスに繋がると思っていたドラクロワは、その人物の声を聞き、少し驚いたような顔を見せる。

 彼はクロード=オルタニア。

 バルタザル軍の国立研究所警備隊所属で副隊長を務める、リュウドウの上司にあたる人物だった。


 隊長のジョセフ=ハウザーと共に研究室と王都を行き来することが多く、研究室で光信機の前に座っていることは少ない。


「ボクだよー。君一人? 待機中なの?」

「そうだ。アストラルが死に、お前が外出しているから致し方あるまい」


 オルタニアは常に冷静沈着で、実直な軍人であるハウザーの副官として極めて優れた男だった。

 研究所の内情にも詳しく、ガウディスから直接指令を下されることも多い男だ。


 聞けば、ドラクロワが研究員兼暗殺者としてガウディスから雇われるより前からいるらしい。

 これまでの経緯を詳しく聞いても教えてはもらえなかったが。


「”あの子”とかユリナちゃんがいるじゃない」

「彼女らが光信機を使えるとでも思っているのか?」

「まあそっか……」

「報告を上げろ」


 普段くだらない世間話をまくしたてることで周囲から煙たがられているドラクロワだが、本人としては一応相手は選んでいるつもりだった。


 ミラやマルクたちのようにまともに会話が成り立つ者や、リュウドウやゼファーのようにあからさまに嫌そうな顔をする相手は、会話のラリーは続くので普通に喋る。

 が、ガウディスやこのオルタニアをはじめとする一部の人物に関しては、淡々と用件だけを述べるので会話にすらならない。

 

 それを分かっているドラクロワは、オルタニアの言葉に素直に報告を始める。


「セレスティアとその一行と接触したよ。そのうちの一名、レオナちゃんって女の子の意識を奪っといた」

「何故殺さない」

「眠り姫がいたら行動も制限されるし、足の選択肢も限られるでしょ。まあ深く考えてたわけでもないけど」


 実際ドラクロワは、レオナを昏睡させることを目的としていたわけではない。

 ツェリナでたまたま最初に接触したのが彼女で、どうすればセレスティアが嫌がるかを考えていたら思いついただけだ。


 殺すよりも、荷物になった仲間を抱えさせて放置も出来ない状態にしたほうが、後々の行動を制限できると思った。


「理解した。だがセレスティアが仲間を見捨てたらどうする」

「……それはないかな」


 ドラクロワは口元に笑みを浮かべたまま、率直な感想を述べた。

 彼らの情報はギルドが公開しているクエスト関連の報告事項をはじめ、独自の情報網を使って調べてある。


 仲間の素性は追い切れていない部分もあるが、少なくとも4人パーティで行動していることは分かっている。

 そしてそのうちの一人、レオナ=メビウスはドラクロワとは同業者であり、暗殺者ギルド『トロイメライ』の暗殺者として有名な少女だった。


 16歳の赤髪の少女で、ナイフ投擲や潜入のプロだという情報だ。


「何故言い切れる」


 オルタニアは、機械的で面白味は無いが、仕事相手としてこれ以上やりやすい相手はいない。

 質問のおかげでこっちの喋りたい欲もちょっと満たされるところが良かった。


「勘だよ。ゼファーが殺されたとき、仲間があり得ない距離を走って来たと聞くし、仲間で協力してノルドヴァルトのミューズを倒してる。わざわざ皆仲良く学生のフリまでしてね」

「信頼関係があると?」

「んー……”執念がある”って言ったほうが近いかな」


 ドラクロワは、ゼファーが殺されるに至った経緯から、彼らのこれまでの足取りも調べている。

 彼らが4人のパーティになってからおよそ2ヶ月。

 クエストの達成率は100%だ。

 目撃者の多いクエストにおいて、彼らは周囲の目からこう映っている。


 4人が一つの生き物のように対象を追い詰める。

 

 目的が明確に共有されており、互いの能力に対する解像度が高いのだろうと、ドラクロワは考えていた。

 ノルドヴァルトのアルケニー型ミューズや、神域の谷で発見されたライカンスロープ型ミューズの件では、周囲からの情報においてもその傾向が顕著だった。


「ま、だからこそセレスティアの手足の一本を()いだってのもあるけど」


 セレスティアはあのパーティの頭脳ではあるが、戦術を実現する能力を持つ3人の仲間の方が、戦力的には厄介だ。

 今回倒したレオナはその中でも真ん中か、もっとも弱いかのどちらか。


 ライカンスロープを倒したミユキ=クリシュマルドというSランク冒険者は、正面からやり合ってはドラクロワも勝てないと見込んでいた。


 もう一人のフガクという男は情報が無さ過ぎて分からない。

 Sランク冒険者のアルカンフェル=ガレオンを倒したという話や、スライム型やケンタウロス型のミューズを討伐したという話なので、弱いということはないだろうが。


 ただ、数時間前ツェリナですれ違った彼は満身創痍の状態だった。

 それもあって、ドラクロワの中ではイマイチ強さが読み切れていなかったのだ。


「お前はこれからどうする。その手足とやらを切り落とし続けるのか?」

「……そうだね、その件で局長に相談があったんだけど」

「だが、お前のその状態では継戦能力に疑義を呈さざるを得ない」


 ピクリと、ドラクロワは光信機の輝きに視線を向けた。

 自分は今いつもと変わらぬ様子で喋り続けていたはずだ。


 だが、実態はレオナにやられた全身の裂傷で地獄の痛みを味わっている最中だった。

 幸い、毒だけでなく薬の調合の心得もあるドラクロワだ。


 ある程度痛みは緩和させているものの、受けたダメージを考えれば痛み分けと言われても言い返せない程度には傷だらけだった。


「よくわかるね」

「呼吸が浅い。衣擦れの回数からも、全身に傷を負っていることは明白だ」

「参ったな」


 苦笑するドラクロワ。

 こんな音質の悪い光信機越しでもそこまで看破されるとはと、もろ手を挙げて感心する他なかった。


「3つの手を考えてる。局長に許可が欲しいんだ」

「今はリュウドウの調整中だ、手が離せない」

「ボクも疲れたから早く寝たいんだけどなー……」


 仕方ない、時間を改めようと思ったときだった。



「私が許可するわ」



 光信機の向こうから、少女のような声が聞こえた。

 ドラクロワは驚き目を見開く。


 ”彼女”が自分たちの作戦に口を挟むなど、滅多に無いことだったから。

 その声は、幼い少女のようでもあり、思慮深い女性のようでもある。

 だが、底知れぬ暗闇を感じさせる圧力があった。


「いやいや、君に許可されてもねー」

「構わないわ。私たちの邪魔をする、”災厄”を討ち果たすためなのでしょう。ガウディスもダメとは言わないわ」

「うーん……」


 ドラクロワは参った。

 彼女は軍属でも無いし、研究所の職員でもない。

 ガウディスの、個人的な"協力者"と言われている。


 自分たちはあくまでガウディスの部下なので、彼女にそう言われると返事に困るのだ。


「俺からガウディスには話しておく。まずはお前の考えを聞かせろ、ドラクロワ」

「助かるよ」

 

 ツェリナから一番近い町なので、セレスティアと接触する可能性がある。

 現状出くわすとさすがに分が悪いので、情報共有だけ行い、朝には町を出ようと思っていたのだ。


「”四刃”と”オーガ”、そしてユリナちゃんの力を貸してって言っといて」

「随分と念を入れるな」


 オルタニアは淡々と、驚きもせず言葉を返してくる。


「まあね。ボクもムキになってるのかも」


 もしかすると自分の中にも、本気を出さないとセレスティアは討てないという思いがあるのかもしれない。


「あ、そうそう。彼らの次の目的地はウィルブロード。セレスティアは聖庁に戻ろうとしているみたいだよ」


 ドラクロワの言葉に、オルタニアではなくもう一人の少女が反応した。


「……ウィルブロード、そう。帰るのね、偽りの聖女が」


 それは、ドラクロワのちょっとした悪意も交えた言葉だった。

 何故か。

 

 その少女にとって、ウィルブロードは特別な意味のある場所だったからだ。

 そしてドラクロワは翡翠色の目を細め、まるで挑発するように光信機の向こうへ声を投げかける。

 

「ねーねーどうする? 彼らに地獄のような旅路を贈ろうと思うんだけど、許してくれるかな――」


 そう、何故ならば。



「――イオちゃん」



 その声の主こそが、セレスティアのもう一人の復讐相手。

 イオ=アンテノーラ。

 セレスティアの義母と義姉の命を奪った女なのだから。


お読みいただき、ありがとうございます。

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