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【11万PV感謝】魔王、いいから力を寄越せ!~転生した俺が美人勇者と復讐聖女を救うまで~  作者: 裏の飯屋
第六章 魔女と公爵令嬢編 /断章 魔王の記憶編

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第204話 魔王と勇者と聖女の狂詩曲<ラプソディア>①


 人魔会談から2ヶ月ほどが経過した。

 魔王は魔王城にて4回目の会談を、アウラや他数名の使者と共に行ったところだった。


「魔族と人間の交流は順調のようだな」


 会談後、魔王はメルと共に、アウラを見送るべく廊下を歩いている。

 今日アウラは2名の従者を連れていた。

 先日使者として訪れたアリシアと、ガスパールだ。


「はい、この前は兵士の皆さんを街に招待しました。最初はお互い恐る恐るといった感じでしたけど、最後は楽しいひと時になりましたよ」


 その件は魔王も聞いている。

 今後は大規模な使節団を組織してシェオルとステラ間で人材の行き来をさせてみようという話にもなっていた。

 また、『地獄の門』のある霊峰ウェルギリウスに道路を敷設し、物資や人の往来を簡易にする計画も始まっている。


「ふん、そんなことで魔族と人間の遺恨が無くなると思ってるわけ? おめでたいことね」


 アウラの前を歩くアリシアが、肩を竦めて吐き捨てるように言った。

 その言葉に、魔王の半歩後ろを歩くメルがすかさずたしなめる。


「貴女は随分と口が悪いようですね。貴女の発言が聖女アウラの立場を悪くすると何故分からないのですか」

「立場はともかく、アリシアそういう言い方は良くないよ。それに、遺恨を無くすためじゃない、私たちの」

「未来のためってんでしょ。はいはい、悪かったわね。もう黙ってるわよ」


 苦笑いをしているアウラと、ため息をついているメル。

 メルとアリシアはすっかり犬猿の仲で、今日も会うなりすぐにバチバチと火花を散らしていた。


「すみません、ネメシス様」

「構わぬ。もう慣れた」


 魔王も特に気にする様子もなく、後でメルを宥めてやろうと考えているようだ。


「……勇者は来ぬのだな」


 結局あれから、勇者は一度もこの魔王城に姿を現していないらしい。

 アウラの護衛はいつもガスパールやアリシアが務め、ステラ側の交流場所などにも顔を見せない。

 アウラも少しの憂いを宿した笑みを浮かべた。


「そうですね……彼女はまだ、割り切れないのかもしれません」

「誰より魔族を屠ってきた者だ。それこそ時間が解決するだろう」

「私もそう思います」


 魔王城の正面入り口まで来ると、魔王は彼らが去って行く後姿を見送る。

 アウラは何度もこちらを振り返り、大きく手を振った。

 魔王はそれに、右手を軽く上げて返してやる。


 あの人魔会談以来、魔王と聖女は運命共同体となったためか、距離が少し縮まったように見える。

 魔王も内心では、アウラの純粋な夢想家の側面を後押ししたいと考えている。

 理想ばかりでは現実が付いてこないが、理想が無くては人が着いてこないからだ。


 千年単位での計画には、あのくらいで丁度いいのかもしれないと思っていた。

 実際あの行動力は目を見張るものがあるし、リアリストの部分は自分が引き受ければいいと。


「魔王様……楽しそうですね。メルは少し、妬けてしまいます……」


 魔王の私室に向かう途中、メルがそんなことを言いだした。

 アウラと魔王の仲が良好なことが、何だか面白くないといった面持ちだ。


「どうしたメル。珍しいこともあるものだ」

「魔王様の前に色々な女が現れるからです」


 魔王は私室に向かいながら急に拗ね始めたメルを、内心で愛い奴めと思っている。

 この二人の関係性も本当に謎だ。

 メルに対する本心だけが、魔王の中から見えてこないのだ


「では今日は、お前のために時間を使うとしよう」

「え……あ、も、申し訳ございません。そのようなつもりでは……」

「何構わんさ。ステラ側から贈られたワインがあったろう。今夜はあれを開けてくれ。お前も相伴せよ」

「かしこまりました……!」


 満更でもなさそうな表情で、メルが静かに頷いた。

 どうやら、平和な日常が続いているらしい。

 すると、そんな二人の前に、突如黒い影が降り立った。


「何者!」


 その男は、本当に音も無く突如その場に現れた、というより――最初からそこにいたかのような気配。

 真っ黒の、闇より深い色の外套に身を包んだ、紫の毛先の黒髪と、同じく紫の瞳を持つ男だ。

 まるで殺し屋のような雰囲気でそこに立つ男に、メルは魔王との間に立つ。


「ああ来た来た! あんたが魔王様だろ。そんな警戒しないでくれ、俺はヒューゴー。アウラの仲間だ」


 ヒューゴーといえば、現世でアリシアが連れていたドーベルマンと同じ名前だ。

 だがこのヒューゴーは、俺フガクと同年代と思しき細身の優男だった。

 400年前、こいつらは人間だったということなのだろうか。


「衛兵に止められなかったのか?」

「ああ、面倒だからこっそり来た。さすがの俺も女性の寝室に忍び込むのは遠慮したいところでね、ここで待ってたのさ」


 やはり勇者パーティは油断できないと思った。

 この城は魔術的な防御と、多数の衛兵が配置された鉄壁の要塞だ。

 それを一人で容易く、魔王の禁裏へと繋がる通路へ侵入している。

 ここには窓もなく、隠れるような場所も無いのにだ。


「その場で用件を述べなさい」

「これ、アウラが渡しそびれたからって」


 ヒューゴーは魔王とメルに近づかないように、その場からピッと手紙を投げて寄越した。

 メルはそれを受け取り、ヒューゴーと交互に見比べて警戒の視線を向ける。


「何ですかこれは」

「光龍祭のお知らせだってさ。知ってるか? 光龍と交流をかけてるんだぞ? あの聖女はこういうオヤジギャグが好きなんだ」

「そう言えば、そんな祭りを催すと申していたな」


 前々回位前の会議で、人間と魔族の夜明けをテーマに、皆で騒げるお祭りをしましょうと、アウラが言っていたのだ。

 ウィルブロード北部の街で行うと言って、魔王にも参加を促してきた。

 魔族の代表者として視察に赴くつもりではいたが、存外早く進行しているらしい。


「確かに渡したからな。それから、あんたらの部下の一部の連中、何かきな臭い動きしてたから気を付けた方がいいぜ? じゃな」


 そう言って、瞬き一つの間にヒューゴーはどこかへと消えていた。

 俺の感想としては、”忍者”だ。

 

「城の警備はザルですか……ガシュラを後で問い詰めねばなりませんね」

「そう言ってやるな。あのヒューゴーという男が異常なだけだ」


 現在ガシュラは警備責任者として、魔王城だけでなくステラ側の前線基地など全体の管理をしている。

 魔王城の最奥部近くまで潜入されたとあっては面目も丸つぶれだろう。

 魔王はメルに、本人が一番責任を感じるだろうからそれ以上責めてやるなと諭した。


「しかし、今のは状況によっては魔王様のお命……あ、申し訳ございません……」


 縁起でもないことを言おうとした自分に気付き、メルは深々と頭を下げた。


「案ずるな、奴では私は殺せぬ」


 魔王には俺と同じく、『魔王の瞳』のスキルがある。

 ヒューゴーのスキル群では自分は殺せないと踏んだようだ。


「それよりも”部下の動き”というのが気になる」

「……あれからバルカスやドラガンも特に怪しい動きは見せていません、私を警戒しているのかもしれませんが……」 


 謀反の気配は今のところ無いが、水面下で動いていれば分からない。

 他に調査させている者もいるし、ガシュラに場内を監視させているので不穏な動きがあればすぐに分かるだろう。

 だが……軍の要職にあるバルカスやドラガンならば、それをかいくぐれるのも事実だ。


「引き続き警戒は怠るな」

「承知いたしました」


 魔王とメルは魔王の私室へと入っていく。

 深紅の夕焼けが部屋に差し込む中、メルは魔王に差し出すお茶を淹れる準備へと移る。


 魔王は窓の外を眺めながら、思索を巡らせる。

 ここまでは順調。

 無論始まったばかりの計画が、こんな一歩目から頓挫しているようではお話にならない。 一方で、周囲の理解を得て軌道に乗せるまでが一番大変でもある。

 

 魔王は先ほどアウラから受け取った手紙の封を、その鋭く赤い爪で裂く。

 中から取り出した紙は、光龍祭への招待状だった。


 『ネメシス様


  この度、ウィルブロード南西の町アウリフェリアにて、人間と魔族の友情と繁栄を祝うお祭り光龍祭を開催します。←なんと私が生まれた町です。


  あ、ちなみに、光龍祭の『光龍』は『交流』とかけてるんです。←すごくないですか?


  ネメシス様もぜひ、いらしてくださいね

 

  あなたの友 アウラより』


 気安く友人に宛てるような内容で、公式の書面を送ってくるところが、魔王があの聖女を気に入っているところだった。

 行こうという気にもなる。


 別の書類には正式なウィルブロード側からの招待や日時、場所など細かな内容が書かれている。

 メルにこの手紙を見せたら、馴れ馴れしいと怒り出しそうだと思った。

 ただ秘書官は目を通す必要があるので、メルに声をかけようと魔王は振り返る。


「メル。この招待状を……メル?」


 ふと見ると、背後でメルが自らの両肩を抱えるようにしてへたり込んでいた。


「メル! 何があった……!」


 魔王は椅子から立ち上がり、メルに駆け寄る。

 メルは肩を振るわせ、歯を嚙み鳴らして何かに怯えるような表情を見せている。


「魔王様……メルは……メルは”視て”しまいました」

「視た……まさか、”星見”か……!」


 魔王はメルの肩をそっと抱きながら、冷静にそう問いかける。

 彼女は小さく頷いた。

 メルのスキル『星見の瞳』。

 少し先の重要な未来を、神の信託のように見せるスキルだ。

 だがそれは、確定した未来ではない。

 その未来は、これからの行動と、未来を知ったことで変えられるケースもある。


 だから普段は多少のトラブルを予見したとしても、メルも魔王もさほど気にはしていなかった。

 しかし、このメルの様子は尋常ではない。

 考えられる理由は、一つだった。


「私が……死ぬか?」


 魔王はメルが取り乱さぬよう、努めて平静に声をかける。

 メルを立ち上がらせて近くの椅子に座らせると、彼女はようやく深呼吸をしてポツリと喋り始めた。


「魔王様が何者かに討たれ……いけません! 魔王様、どうか光龍祭への参加はお取りやめくださいっ……! メルは……魔王様を失ったら……生きていけません……」

「落ち着けメル。私が死んだのは光龍祭なのか?」


 メルは星見の瞳のスキルを”占い”と呼ぶが、その未来は日時や場所が決まっているわけではない。

 つまり、光龍祭への参加を取りやめることが死を回避できるとは限らないのだ。

 ただし、それはそう遠くない未来に起こる。


「それは……分かりません。し、しかし、空は”青かった”のです。であれば……ステラ側で何かが起こる予兆かと……」

「……それだけ分かれば十分だ。ステラに行くときは十分に注意しよう」


 魔王は、光龍祭への参加を見送るつもりは無かった。

 祭で凶弾に倒れることが分かっているならまだしも、確定ではないからだ。

 ステラに行く機会だって、今後間違いなく増える。


 この先いつ起こるか分からない事態のため、大事な時期の行動を制限されるわけにはいかないのだ。

 だが、魔王の反応に、メルは目に涙を溜めて首を横に振った。


「どうか……どうか、魔王様」

「私を殺すのはそう容易くはない。それにメル、いつ刺客に狙われるやもしれんのは、これまでもこれからも変わらぬ。私は全ての人類から討伐対象にされている”魔王”だぞ」


 魔王は、自らが常に死と隣り合わせの境遇にいることを理解している。

 人類の敵であり、魔族の頂点だ。

 自分を殺したい者など掃いて捨てるほどいる。


 逆に、そんな中でも今日まで自分を殺せる者は現れなかった。

 魔王討伐は、決して簡単なことではないのだ。


「ですが……」

「不確定な未来に怯えて、城に引きこもっているわけにはいかんのだ。理解せよ、メル」


 魔王の正論に、メルは涙を流して感情に訴える他できないようだった。

 最後は説得に頷き、分かってくれて感謝すると、魔王もメルの頭を優しく撫でた。


「ではせめて……メルもお傍に」

「無論だ。お前は私が死なぬよう、周囲に目を配ってくれ」


 魔王の優しい言葉に、メルは渋々ながら納得した。

 メルをそっと抱きしめ、魔王は窓の外に視線をやる。

 無論、魔王は死ぬつもりは無い。


 アウラとの果たさねばならない誓いがあるし、メルは下手をすれば後を追うだろう。

 死ねない理由をいくつも思い浮かべながら、魔王はこの先何が起こるのかを思案する。


 血のように赤い夕焼けが、シェオルの暗黒の空に夜の帳を下ろす。

 それはまるで、自分たちのこれからの未来を暗示しているかのように不吉な者だった。


 そして――ついに”その時”が来る。


お読みいただき、ありがとうございます。

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