62.徒競走は決する
もう文章は滅茶苦茶です。
(禍津 明視点)
秀光から名指しされて数分後、俺は徒競走のスタートライン前に立っていたのだが……
「ふむ……1年からお前が来るとは、流石の某も想定外だったでござるよ……」
「ふん!……その鼻っ柱、思いっきりへし折ってやるのです!」
……俺を挟んで、本江先輩と影華が口喧嘩を繰り広げていた。
ちなみに、本江先輩は黒髪おさげと眼鏡、目の下の濃い隈が特徴的ではあるが美人な女性だった。
「お前が何と言おうと、"戦艦男子"は多種多様なイケメンとの疑似恋愛を楽しむのが最高の楽しみ方なコンテンツでござる!」
「いいや、戦艦と人間の融合が奏でるハーモニーこそ至高のコンテンツなのです!」
「「ぐぬぬぬぬぬ……ぶっ潰してやる」」
「でござる!」
「のです!」
……おぉぉ……
駄目だこりゃ。
バッチバチの犬猿関係……
……オタクの主義主張って、真っ向からぶつかった場合は洒落にならねぇんだなぁ……
「あ、それはそうと明君とはお互い健闘したいと思ってるでござるよ!」
「あ?……兄さん、こいつも恋人にするとか言わないのですよね?……こいつを義姉呼びとか吐き気がするから絶対に嫌なのです!」
「ぶふぉっ!?……影華、いきなり何言ってんだ!?」
影華、そういうのは言って良い事と駄目な事が……
「おやおや、それは越権行為でござるよ~?……当人でも恋人でもない一親族が、恋人選択に口を出すなんて……」
「くっ……思いの外、弁が立つのですね……」
おお。
本江先輩は影華の発言を特に気にしてなさそうというか、寧ろそれを逆手に影華を責めてるな……
って、そんな事をしてる場合じゃねぇ!
「【禍神招来】!……【顎】、これから【禍神纏装】をするぞ!」
「グルァァァァァ!」
【禍神纏装】……
それは以前の特訓で発展させた、複数の技を組み合わせて全身を固めた全力形態に付けた名前。
【闇爪】、【鱗鎧】、【竜脚】、【刃羽】、【猿尾】の5つを展開して【顎】に制御して貰って戦う、俺の新たなる戦法だ。
「すぅ……【禍神纏装】!」
ームキムキ!バサッ!
「ほう……強そうでござるな!」
「それが兄さんの……うん、そそるのです!」
あ、2人から品定めされてるな?
……けど、2人の視線は何処か違う。
本江先輩の視線は獲物を見る肉食動物の目、影華の視線は研究対象を見る学者の目……
そのぐらい、差があった。
「それじゃあ、私も……【兵器錬成】、【超高速ジェットパック】なのです!」
ーガシンッ!
影華は、やけに仰々しいジェットパックを生成して背負った。
……影華の事だ。
どうせヤバい代物なんだろう。
「んじゃ、後は本江先ぱ……」
「某の異能はスタート後で大丈夫でござる」
「そうか?」
「そうなんでござる!」
……不穏だ。
わざわざスタート後に指定した辺り、この時点で切るべき手札じゃねぇって事か?
『お、そろそろ良さそうだなァ!』
『そうじゃのう……羊香教頭、頼むのじゃ!』
『分かりましたメェ~……泣いても笑ってもこのレースで最後の徒競走、よ~い………どんっ!』
ーパンッ!
教頭先生により、スタートの合図が鳴らされる。
それと同時に、俺は前へと足を出し……
「【本の世界】、【現代語訳版怪談百物語・泥田坊】でござる!」
ーふわっ
「「っ!?」」
……その直後、本江先輩が異能を発動し、目の前に3人の人影が現れた。
その人影は図書館の司書を連想させたが、3人とも顔に白い布をかけていた。
加えて、その布には退魔のお札に見られる様な変な文字が描かれていて……
『『『ある老農夫が、子に田を残して急逝した』』』
ーベチャッ!
「っ!」
気付けば、地面が田んぼと化していた。
お陰で、泥が足に纏わり付いて進みにくい!
「……飛び立つ前にやられたのです!」
「影華も、か……」
なるほどなぁ……
本の内容を対象に再現させる、と。
強力な能力だな……
「でゅふふふ……某の異能、凄いでござるよな?」
ーベチャッ!ベチャッ!
「「……………………」」
……それはともかく、どうしてこの異能の使い手である筈の本江先輩まで田んぼの泥に足を取られてるんだ?
「でゅふふふ……その疑問はもっともでござる」
「え?」
「某まで異能にハマっている理由を知りたいんでござるよな?」
「ま、まぁ……」
あ、自覚はあったんだな。
……とはいえ、理由は気になる。
ここは下手にツッコミせずに聞こう。
「この異能は、察しの通り本の内容を対象に追体験させる効果を持ってるでござる。……その上で対象は選択可能という破格性能……」
「ここまでなら良い事ずくめだな」
「……が、当然デメリットも存在するんでござる」
「それが、その惨状か?」
対象を選択可能なのに、自分は能力の範囲内……
……要するに、そういう事だと?
「ま、大方そちらがしている予想の通りだと思うでござるよ。……某の異能は必ず、ほぼ強制的に対象の中に某が入れられるんでござる!」
「つ、使えるんだか使えねぇんだか……」
「……全く分からない異能なのです……」
対象に本の内容を追体験させる代わりに、自分も必ず対象に入れられる……
なんてクソ異能だ!
なんて思ってたら……
『『『田を遺された子は全くと言って良い程に田を耕さずに荒らし、挙げ句の果てに売り払ってしまった』』』
ーピキピキピキ
「あ、田が枯れた!」
ードンッ!バサッ!
「本当なのです!」
ーブウォォォォォン!
田んぼが枯れたので、俺は【竜脚】と【刃羽】で、影華はジェットパックで、それぞれ飛んで宙へと逃げる。
「あ、次の展開へ行くのが早いでござる!」
対する本江先輩は飛ぶ手段を持ち合わせてないらしく、未だ地上に居た。
確か、そもそも本江先輩は忍の真似事してる家系だったよな?
それじゃあ仮に本江先輩がびっくりどっきり人間だったとしても限度があるだろう。
「じゃ、さいならだ!」
「ゴールで待ってるのです!」
「な、待つでござる!」
これが正面からの戦闘なら話も違ったのだろう。
忍の引き出しを相手する訳だからな。
しかし、これは徒競走だ。
素早さが鍵になる。
『『『以後、その田では老農夫の霊が……』』』
「「「「田を返せ~!」」」」
「どけや馬鹿!」
「全部蹴散らしてやるのです!」
「「「「ぼふべっ!?」」」」
それから荒れた田んぼから泥田坊が何体も現れたが、1度でも飛び立てりゃ俺と影華の敵じゃねぇ!
どんどんとただの泥へ戻って行く。
「ちょっ、待つでござる!」
ーベチャッ!ベチャッ!
ふん、泥で俺達の足を取る作戦だったんだろうが……
……純粋な速度じゃ俺と影華の方に軍配が上がったな。
ま、後の競技で正面対決したら怖いが。
とはいえ、後の事を考えても意味はねぇ!
「影華、負けねぇぞ!」
俺はラストスパートで、ジェットパックによって飛んでる影華と1位を競う。
……が、俺は心の何処かで影華を舐めていたのだろう。
「ふん、プレゼントの【手榴弾】なのです!」
ーポイッ!
「は?」
ードカァァァァァン!
突如として影華から手榴弾を投げつけられ、俺は対応出来ずに爆発を受ける。
『うおっ!?……まさかのラストスパートで手榴弾による妨害、これは痛いのじゃ~!』
『ルール上では異能を使った妨害もOKだが、それでもあれはなァ……問題はねぇけどよォ!』
そ、そうか……
本江先輩が競争に関係ねぇ異能を使ってる時点で、異能による妨害はOKか。
……だからって普通、手榴弾投げるか!?
なんて考えてる暇もなく……
「うおぉぉぉぉぉ!負けないでござるよ~!」
ーベチャベチャベチャベチャベチャッ!
後ろから、本江先輩が全速力で迫って来る。
逆に前を見れば、影華はゴール直前だ。
「……ふん、追い付かれてたまるか!」
ーバサッ!
こうなりゃ、せめてビリは避けねぇとな!
いくら手榴弾を受けたとはいえ、【鱗鎧】の防御力は優秀だ。
……簡単に後続に追い付かれる様なヘマはしねぇ!
「待つでござる~!」
「そう言われて待つ馬鹿が何処に居るってんだ!」
ードンッ!バサッ!
俺は【竜脚】で泥だらけの地を思いっきり蹴り、再び飛翔する。
前を見れば、いつの間にか影華はゴールを越えていた。
それでも、俺は前へ進んだ。
そして……
『ふむ、2位もゴールですメェ~!』
「あ、ようやく来たのですね?」
「ハァ……ハァ……っしゃおらぁぁぁ!」
……俺は何とかギリギリ2位でゴールし、それから数秒後に本江先輩が3位でゴールしたのだった。
なお、そこから影華が本江先輩をしばらく煽っていたのだが、こればかりは両者の名誉のためにもカットするので容赦してくれ。
ご読了ありがとうございます。
本江の異能と実力は単純な戦闘や乱戦でこそ輝くタイプなので、レース戦は分が悪かっただけです。
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後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。




