好きなタイプは中性的な人
「中性的な人、かしら」
そう照れながら言う彼女を絶対に手に入れると決めた。
私、パーシヴァル・フェアクロフはフェアクロフ公爵家の長男であり、跡継ぎだ。そして3つ年上の姉パトリシア・フェアクロフは生まれながらに第一王子ディミアン・オーリオル殿下の婚約者だった。
姉は非の打ち所がない令嬢だった。辛い王妃教育に弱音を吐いたことは一度もなく、いつも穏やかに笑う人だった。私は優しい姉のことが大好きだったし、他の令嬢も姉を慕っていたし、使用人も姉へ心からの忠義を持ち、父も母も姉のことを誇りに思っていた。誰からも愛された姉だったが、ただ1人ディミアン殿下だけは姉のことを嫌っていた。王妃教育により表情を変えない姉をつまらないと吐き捨て、自分より優秀な姉に嫉妬して弟と見わけもつかない可愛げのない女だと罵った。確かに私と姉は兄弟でありながら双子かと思われるくらいに瓜二つだったが、決して姉が男のようで可愛げがなかったのではなくまだ幼く性差が小さかったからだし、表情は変わらずとも殿下の暴言の一つ一つに姉は傷ついていた。
その姉の心を癒したのは1人の平民だった。領地の視察の際に出会ったその男は素朴で実直な男だった。次第に2人は心を通わせるようになり、男は姉の状況を看過することはできなかった。姉が15歳になった時、王立学園に入学する直前に2人は駆け落ちした。
公爵家の力があれば2人を見つけ出し連れ戻すことなど容易い。けれど、私はそうしたくなかったし、両親も同じ思いだった。だから、私が姉に成り代わることに決めた。
最初はすぐに姉を死んだことにしようと思った。けれど、昨日まで元気だった姉が死体もなく死んだと言えば怪しまれるかもしれない。疑われて調べられたら姉は連れ戻され、王命である婚約を破棄したとして反逆罪に問われてもおかしくない。だから、私パーシヴァル・フェアクロフはキュミレス帝国へ留学していると偽り、パトリシア・フェアクロフとして王立学園に入学し、ディミアン殿下の婚約者として振る舞い、タイミングを見て姉の死を偽装しようとした。
当初は学園在学中に徐々に体調が悪くなっていくふりをして、卒業までに病死したことにするつもりだった。だが、3年生になったときにニーナ・スワンが現れた。彼女はディミアン殿下に近づき、あまつさえ私に汚名を着せて婚約を破棄させようとしたのだ。これは好機だと思った。
私や私の周りの人がニーナ嬢をいじめていない証拠を集めながら婚約破棄を待った。想像以上に派手な婚約破棄をしてくれたがそれは結果オーライ。他の人たちにも酷い状況での婚約破棄だったという印象をつけられた。
そして、それに傷ついたパトリシアは自ら命を絶ってしまったという筋書きだ。
「と、いうことなんだけど分かった?」
「ま、待ってください、パトリシア様、いえ、パーシヴァル様。すぐには飲み込めそうにありません」
「いいよ、時間はいくらでもあるからね」
私がニッコリと笑うとさっきまではらはらと泣いていたのが嘘のようにフローレンス様は頬を真っ赤に染めて狼狽する姿はとても可愛らしい。フローレンス様は眼鏡のよく似合う知的な美人で、ともすれば冷たく見えてしまうが、その実とても情に篤く愛らしい人だ。
「あぁ、そうそう、国王陛下も証拠不十分な中での私たちへの糾弾に半信半疑だから、ニーナ嬢の自作自演だったって証拠を提出すればすぐに無罪だと認められるよ。パトリシアを死んだことにするために一度は汚名を被せてしまってすまなかったね」
「い、いえ、そんな!悪いのはニーナ様や元婚約者の方々ですから」
「うん、そうだけどね。それでも、私と仲良くしてくれていたのに巻き込んでしまった貴女たちには謝罪がしたいんだ。ロイズ様は護衛騎士の方と家を出たら、駆け落ち先の斡旋をした」
「ロイズ様は駆け落ちされたんですの!?」
「あぁ、なんでも、昔命を救ってくれた騎士なんだって」
「まぁ、それは、彼女の理想通りの方ですわね」
フローレンス様はほぅと安堵の溜息をつく。
斡旋先はヴェイパー民国の傭兵ギルドだ。ヴェイパー民国は政治的に中立を貫いているからこの国から下手に手を出すと他国からも文句を付けられる。中でも傭兵ギルドは敵に回せば面倒くさいことになること間違いなしなので、おいそれと伯爵家も公爵家もロイズ様を迎えには行けないはずだ。護衛騎士は随分腕が立つらしいので、傭兵の仕事もぴったりだろう。
「ベラ様は実家に戻られて新しい婚約者を探していたから、彼女のお眼鏡に適いそうな令息を紹介した。気弱だが誠実で優秀な方だ。そして食べるのが大好き」
「それはそれは、ベラ様が喜びそうな方ですね」
段々肩の力が抜けてきたのか、フローレンス様も愉快そうに笑う。
そして、私の勝負はここからだ。
「残るはフローレンス様だけなんだ」
「あ、いえ、そんな、私のことにまでパーシヴァル様がお手を煩わせる必要はありません。パーシヴァル様が生きていただけで、私は十分なんです」
「そうはいかないよ。伯爵公、申し訳ないのですが、ケイフォード伯爵家について調べさせていただきました。伯爵公は領主として申し分ない方であることは存じ上げています。しかし、それだけでは限界でしょう、資金が必要だ。フローレンス様は裕福な方と結婚しなければならないですよね」
伯爵公をまっすぐと見つめながら言うと苦々し気に頷いた。娘思いの優しい方だ。
そんな父の姿をフローレンス様は気遣わしげに見守っている。
「ええ、もちろん、私もフローレンス様にお金のために愛のない結婚などしてほしくありません。ですから、伯爵公にもフローレンス様にも納得がいく結婚相手を用意しました」
「私も娘も納得する……?」
首を傾げ伯爵公とフローレンス様は顔を見合わせる。
私は立ち上がるとそんなフローレンス様の前に歩み寄り跪いた。
「ぱ、パーシヴァル様!?」
「フェアクロフ公爵家は伯爵領の立て直しのために十分は資金の準備ができます。私は中性的な顔立ちでフローレンス様の言う理想の殿方の条件も満たしています。何より、私は貴女を愛しています」
「パーシヴァル様が、わ、私を、愛して……そんな、嘘」
驚いて立ち上がり逃げ出そうとするフローレンス様の手を取り引き留める。
「嘘じゃない。入学式で初めて貴女に会った時からその清廉な姿にずっと惹かれていた。家族や領民を大切にする心の豊かさを知ってもっと好きになった。貴女は高潔で貴族として人の上に立つに相応しい方だ。私はどうしようもなく貴女が好きなんです」
「そんな、私はそんな素晴らしい女性じゃないです」
「自分を卑下しないで、私にとって貴女以上に愛おしく思える女性なんていない。恥じらいながら中性的な人が好みだと貴女が答えた時、私がどれだけ歓喜したことか知らなかったでしょう。もしかしたら、貴女は私と同じ思いを抱えているかもしれないという期待が確信に変わったんだよ。
お願いだ、私の気持ちに答えてほしい」
何度か言い淀むように口を開いては閉じ、そして、ぽろぽろと涙を流しながら、確かにフローレンス様は頷いた。
「ありがとう、フローレンス様。必ず幸せにします。貴女も、貴女の大切な何もかも」
「私こそ、ありがとうございます、パーシヴァル様。私の前に戻ってきてくれて」




