第12話
―――――涙。
大きな目からぼとぼととこぼれ落ちてくる大粒の涙。
上下びっしり塗られたマスカラのふちから溶けだして、黒い涙に変わっているけどそんな事かまう様子もなく、彼女は黙って涙を流した。
そして黙って、もう一言も何もしゃべらなかった。
それで充分だった。
もしも彼女が散々あたしを罵ったり、その可愛い顔からは想像もつかないような汚い言葉をあたしに浴びせたなら、あたしは内心彼女を軽蔑し、勝ったという気にさえなるかもしれない。
でも、これは勝ち負けの話じゃない。
片山と寝ることであたしは彼女に勝った気にはならなかったし、それでも言葉や視線で非難されるその方がずっとマシだった。
あたしは二人の現場を目の当たりにするまでは彼女を妬んだりはしてなかった。
彼女は「外」の人間で、問題は「内」。
あたしと片山二人の事だと思っていたから。
あたしの恋い慕う気持ちや、欲望や怒りの対象はあくまでも片山であって、彼女はその中に深くは関わってはいなかった。
ぶたれた頬がまだじんじん痛んでる。
あの女、見た目よりずっと力があるな。
口の中を切ったのか鉄の味がする。
ちくしょう。あたしも一発叩き返せばよかった・・
大きなため息をついた。
バカみたいだ。終わってみればなんてことはない。
そして唐突だが、ニキビみたいだと思った。
あたしはニキビができたら潰してしまうけど、膿をしぼりだした傷の上から塩を塗るような真似をして何になるというのだろう。
跡を残してどうするつもりだったのだろう。




