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第8話 鬼姑は、誰の味方ですか

茶会の日、お義母様は、自分が描いた靴を履いた。

 歩きながら、足元を一度だけ確かめる。

 私は、その隣へ並んだ。


「きつくなったら、教えてください」

「分かったわ。予備も、持っている」


 前の彼女なら、最後まで我慢すると言っただろう。

 私も、喜んだからといって、痛いところを言えなくしないよう、何も付け足さなかった。


 展示室は、本邸の明るい部屋だった。

 刺繍の布と、絵と、器。

 靴は、少し低い台へ置く。

 隣には、図案と、三人の名前。


 エヴァさんも来てくれた。

 私は、最初に彼女を紹介した。

 お客様は、つま先の形と、青い色をよく見ていた。

 すぐ注文が殺到するような話ではなかった。

 それでも、試してみたいという人が、二人いた。


 お義母様が、その人たちと話している。

 私の知らない、楽しそうな顔だった。


 そこへ、ロザーヌ伯爵夫人が来た。

 お義母様と、長く付き合いのある人だという。


「アデラ。まだ、こういうことをしているのね」


 彼女は、名前の札を見た。


「公爵家に嫁いだ頃も、靴の絵ばかり描いていたでしょう。今度は、お嫁さんまで」


 私の方を見る。


「夫の留守を、ずいぶん楽しんでいるそうね」


 私は、返事をする前に息を吸った。

 笑って流せば、その人には便利だろう。

 でも、私の暮らしを、別のものにはしたくなかった。


「別邸では、家の仕事を教わりました。夫も、時間を決めて来てくれました」

「男性が家へ帰って、妻がいないのは、寂しいものよ。離縁などと言われないようにね」


 心臓が、少し速くなる。

 机の上で見た、半年後の約束。

 この人が知っているわけではない。

 でも、言葉は、その場所へ刺さった。


 お義母様が、私の隣へ来た。


「呼んだのは、私よ」

「だから、甘やかしすぎだと言っているの」

「甘やかして、何がいけないの」


 私は、彼女を見た。

 いつもの、強い声。

 今度は、私に我慢を求める声ではなかった。


「分からないことを聞きに来る。働いたら、休む。楽しければ、笑う。私の家で、それをしてはいけない理由はないわ」


 伯爵夫人は、口を閉じた。

 でも、すぐ別の言葉を探す。


「公爵家の嫁としては、もっと控えめに」

「彼女は、私の家の飾りではない」


 声は、別のところから来た。

 セドリック様だった。

 朝の公務を終え、予定通り来たところだった。


「俺の妻がどこで何を学ぶかは、本人と話します。他の人に、欠席したことのように責められる話ではありません」


 伯爵夫人は、彼を見た。

 夫は、私の方も見た。


「離縁の話を、皆の前で噂にしていいとも、考えていません」


 私は、何も言わずにうなずいた。

 この場で、夫婦の約束を全部説明して守る必要はない。

 見られたくないところにも、扉があっていい。


 伯爵夫人は、刺繍の展示の方へ移った。

 恥をかかせるための拍手は、起きなかった。

 お客様たちは、また、品物を見始めた。


 お義母様は、靴の横へ戻った。


「昔の私にも、そう言ってやりたかったわ」


 小さな声だった。

 夫が、その声を聞いた。


「今の母上にも、必要だと思います」


 彼は、名前の札を指した。


「母上が、描きたいなら」


 お義母様は、茶碗を置いた。


「描きたいわ」


 私の肩から、力が抜けた。

 誰かを味方にするための、秘密の攻略法はなかった。

 私が、嫌だったことも、好きなことも話した。

 この人たちも、それを話すようになった。


 夕方、茶会の会計を確認した。

 寄付する額と、品物の制作費を分ける。

 エヴァさんの仕事を、善意の一言で無料にはしない。

 お義母様も、同じところへ印をつけた。


 靴の注文は、三件になった。

 図案を見たいという手紙も、後から来ることになった。

 鬼姑は、次の絵を描く予定を、手帳へ書いた。


 私の覚えている小説には、この予定もなかった。

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