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第7話 お義母様の、名前を飾りたい

慈善茶会まで、あと十日。

 お義母様が、新しい絵を持ってきた。

 靴の絵だった。

 つま先へ、小さな葉の飾り。

 足首の紐は、細すぎない。

 色は、深い青。


「エヴァが、試しに一足作ってくれるというの」


 私は、絵を見た。


「展示しても、よろしいのですか」

「私が、そう頼んだわ」


 私は、うれしくて、少し声が大きくなった。


「では、絵も一緒に。どこを大切にしたか、お客様に分かるようにしたいです」


 彼女は、うなずいた。

 前のように、昔の遊びとは言わなかった。


 エヴァさんの工房へ、二人で通う。

 形にできるところと、変えた方がよいところを話す。

 お義母様は、職人の意見を全部退ける人ではなかった。

 見た目の希望が通らない時には、代わりを探した。

 足に当たる場所は、実際に履いて、確かめた。


 私は、展示の説明を書いた。

 誰にでも合う靴だとは、書かない。

 注文する人には、それぞれの足と用途に合わせて、工房で相談してもらう。

 絵を描いた人。

 靴を作った人。

 二人の名前を、並べた。


 アデラ・ローゼン。

 エヴァ・カルト。


 お義母様は、名前の札を、しばらく見ていた。


「嫁いでから、私の名だけを大きく書くことは、あまりなかったわ」


 私は、その札を持ち直した。

 先代公爵の妻。

 今の公爵の母。

 どちらも、彼女の一部だ。

 でも、その二つで全部ではない。


「アデラさんの絵ですもの」


 私は、つい、そう言った。

 彼女が、顔を上げる。

 私は、失礼だったかと、手を止めた。


「お義母様ではなく?」

「今日は、描いた人の名前を話したかったのです」


 彼女は、少し笑った。


「いいわ。その札で」


     *


 帰ってきたセドリック様が、机の上の絵を見た。


「母上が、描かれたのですか」


 お義母様は、うなずく。

 息子は、紙を手に取らず、身を屈めて見た。


「青い色が、よく似合うと思います」


 お義母様の顔が、少し赤くなった。


「私が履くとは、言っていないわ」

「履かないのですか」

「……履くけれど」


 私は、お茶を淹れた。

 口元を隠すには、茶碗が便利だった。


 セドリック様は、私が書いた説明も読んだ。


「君の名前は」

「描いたのも、作ったのも、私ではありません」

「説明と展示の準備は、君がした」


 私は、少し考えた。

 大きな成果を自分のものにしたくない。

 でも、自分がしたことまで、なかったことにしなくていい。


 小さく、書き足した。

 展示協力、ニナ・ローゼン。


 夫は、うなずいた。


「三人とも、何をしたか分かる」


 その三人の中に、私もいた。


 夕食の後、私は、庭へ出た。

 セドリック様が、隣へ来る。

 夜の空気は、少し冷たかった。


「羽織ものを、持ってくる」

「今、取ってきたところです」


 私は、お義母様のくれたものを指した。

 彼は、それを見た。


「母上に、先を越されることが多い」

「何の先ですか」


 彼は、私へ顔を向けた。


「君の好きなものを、知ること」


 私は、少しだけ歩くのを遅くした。


「訊いてくだされば、話します」


 彼も、遅く歩いた。


「今日、いちばん楽しかったことは」


 私は、展示の札の話をした。

 お義母様が、紙を見て笑ったこと。

 エヴァさんが、作った靴を磨く手。

 夫が、私の名前もと言ってくれたこと。


 セドリック様は、最後のところで、私を見た。


「それも、入るのか」

「はい」


 彼が、少し笑った。

 その顔も、今日、楽しかったことに入った。

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