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第6話 優しいつもりでも、痛いことはあります

本邸へ戻って、私は、少し欲張った。

 茶会までに、家のことを全部覚えたい。

 夫が来なくても、仕事の話をきちんとできるようになりたい。

 お義母様が教えてくれたことを、間違えたくない。


 朝、帳簿。

 昼、招待状。

 夕方、使用人との確認。

 知らない名前が、紙の上に増えていく。


 お義母様が、様子を見に来た。

 私の書いた席順を、一目で直した。


「この二人は、隣にしてはいけない。そんなことも、まだ知らなかったの?」


 私は、手を止めた。

 彼女は、紙へ印をつける。

 昔の争いの話を、早口で説明した。


 聞いているうちに、私は、うなずくだけになった。

 質問を、飲み込む。

 間違えるのが、怖かった。


 彼女が帰った後、私は、同じ紙を最初から書き直した。

 その途中で、涙が落ちた。


 足が痛いから厳しいのでは、なかった。

 お義母様には、そういう言い方をするところもある。

 小説を違う目で見たくて、私は、自分に痛いところまで隠そうとした。


 セドリック様が、部屋へ入った。

 私は急いで、紙を裏返した。


「どうした」

「間違えただけです」

「君に、何があったかを訊いている」


 私は、口を開いた。

 お義母様を悪く言ったら、せっかくできた関係が壊れる。

 そう思った。

 でも、何も言わなければ、私の方が、少しずつ壊れそうだった。


「お義母様が、そんなことも知らないのと言いました。私は、まだ知らないことが多いです。質問したかったのに、できなくなりました」


 セドリック様は、椅子へ座った。


「俺も、そうなることがあった」


 私は、彼を見た。


「母上は、知っておかなければ困ることを、早く教えようとする。だが、全部知っていて当然のように言う時がある」

「はい」

「厳しい人だと、俺が言ったのは、それもある」


 彼は、紙を表に戻さなかった。

 私が持ったまま、話を続けた。


「母上へ、俺から言ってもいいか」


 私は、首を振った。


「まず、私から。お話しする時に、隣にいていただけますか」

「ああ」


 その日の夕方、お義母様を呼んだ。

 私は、叱られた子供のように座らないよう、気をつけた。

 でも、手は震えた。


「昨日まで知らなかったことを、今日、教わりたいです。知らないことを責められると、訊けなくなります」


 お義母様は、すぐには返事をしなかった。


「あなたが困らないように、と思ったのよ」

「それは、分かります。でも、あの言い方は、痛かったです」


 部屋が、静かになった。

 私は、夫の方を見なかった。

 自分の言葉を、誰かに言い直してもらいたくなかった。


 お義母様が、紙を置いた。


「そうね。知らないから、教えるのだったわ」


 声が、ゆっくりだった。


「悪かったわ、ニナ」


 私は、息を吐いた。

 彼女は、夫の方も見た。


「あなたにも、同じことをしてきたのね」


 セドリック様は、少し迷ってからうなずいた。


「だから、話す前に、よい報告だけを探すようになりました」


 お義母様は、目を伏せた。

 その場で全部が直る顔ではなかった。

 でも、聞いていた。


 次の朝、彼女は、席順の紙を持ってきた。


「一度に覚えなくていいように、よくある組合せだけ書いたわ。詳しい理由は、あなたが訊いた時に話す」


 私は、受け取った。

 ありがとうございますと言った。


 鬼姑と仲良くなることは、怖いと思わなくなることだけではない。

 怖かった時に、怖かったと言えるようになることでもあった。

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