第九話
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食堂で騒いでいた王子三人は、緊急の呼び出しにより強制的に連れて行かれた。
リブラミアの怒りを二人が抑え込めず、収拾がつかなくなっていたところに、慌てた様子の使用人が食堂に現れたのだった。
使用人から『ロランドール王子殿下』と呼ばれていたことから、あの歩くエ◯の人も王子だと確定した。
三人がいなくなった食堂は、食器が無惨にも割れ、椅子がいくつも破壊され、挙げ句の果てには床まで亀裂が入っていた。
そんな場所で食事を摂る気にもなれず、部屋へと引き返していた。
この時ばかりは男性の使用人に、食堂の始末や料理運びを助けてもらった。
後からリブラミアに怒られたとしても、食堂を荒らした人が悪いと言ってやろうと思った。
今は部屋に戻り、しばし一人の時間を過ごしていた。
サンドイッチ、スープ、ハーブティー。
それから、気を利かせた使用人がマフィンによく似た洋菓子を用意してくれていた。
それらを食べながら、レシアーノはまた物思いに耽っていた。
最近やたらと『緊急』の呼び出しが多いな…。
その他にも、会議やら何やらとリブラミア達が部屋を出ていくことが頻繁にあった。
この国の王子達の忙しさや仕事量は想像がつかない。
が、突発的な『緊急』会議はこの国に何か問題が起きているのだと想像に難くなかった。
もしかして、わたしがこの王宮にいることが問題?
いや、この国から出るのを引き留めたのはリブラミア様だし、それは違うか…?
そう言えば、この国に来た時『結界が効かなかったのか』と聞かれた気がする…。
その結界とやらが関係している…?
だとしたら、他の何かもこの国に侵入していたり!?
精霊?人間?それとも……
想像ばかりが膨らみ、不安を掻き立てていた。
一旦、気持ちを落ち着かせようとハーブティーが入ったティーカップに口をつけると、中身は空になっていた。
無意識に食べ進めていた料理は全て皿から無くなり、マフィンの味も覚えていなかった。
いつの間にか部屋に戻ってから一時間が過ぎていた。
考え過ぎていた疲れからか頭痛がして瞼を閉じた。
視界が閉ざされ、耳に届く音に敏感になる。
すると、遠くからこの部屋に向かってくる足音がして、警戒しながら扉を見る。
「………入るぞ」
落ち着いた低い声がして部屋の扉が開いた。
見知った人物だった。
「ファーゼス様、もう会議は終わったのですか?」
「ああ……。兄上はまだだが俺は終わった」
「そうでしたか」
「聞きたいことがある……、座って話していいか」
「はい、大丈夫ですよ」
ファーゼスは扉の外にいた従者からティーセットを受け取ると、テーブルまで運び置いた。
そのままソファーに座ると、横に座れと手で合図をされた。
素直に従い隣に座ると、レシアーノの髪に彼の手が伸びてきた。
髪を一房手に取り、それに顔が近づいて口付けを落とされた。
突然の出来事にぽかんとした顔をして見る。
その後も、髪をくるくると指先に巻きながら彼は嬉しそうに口元を緩ませていた。
ファーゼス様はどうやら髪が好きらしい。
しばらく様子を窺っていたが、一向に話が始まる素振りがなく、レシアーノから口を開いた。
「ファーゼス様、お話というのは…?」
彼は忘れていたのか、声にぴくりと手が反応し無表情に戻ると、静かに口を開いた。
「悪い。………お前は、魔力があるのか?」
「えっと、それはどういう意味ですか?」
「初めて会った日、お前から魔力を感じた……。だが、今は感じない………。どっちだ?」
「わたしは人間です。魔力はありません」
「そうか……」
『魔力があるのか』その言葉に一瞬ドキッとした。
ファーゼスと初めて会った時、肌身離さず付けているネックレスを身に付けていなかった。
わたしには人間の国で知られてはいけないことがある。
それはこの精霊の国でも例外ではないはずで。
どうやらファーゼスは気のせいだと納得したらしく、深くは追求してこなかった。
その様子にひっそりと胸を撫で下ろした。
彼はまた髪をくるくると触りながら、こちらを見ている。
思わず手で握り込んでいたネックレスに、ファーゼスの目が留まり興味を示した。
「それは……?」
「これは大切な人から貰ったものです」
「ここでは見ない物だな。……人間からか?」
「はい、そうです」
「大切な人…………………」
ぼそりと呟き、ファーゼスは悲しい表情をした。
僅かに開きかけた口を直ぐに閉じて、黙り込んでしまった。
(どうしたのかしら…?もしかして、何か気づかれた…?)
探りを入れるために、慎重に声をかける。
「ファーゼス様?どうかなさいましたか?」
「お前は………、人間の国に、帰りたいか?」
「……………え?」
予想外の一言に目を見開いた。
彼は視線を逸らし、言いづらそうに言葉を続けた。
「最近、魔物が頻繁に侵入している。………お前は魔力がない。だから、この国にいるのは危険だ。………それに、………大切な人には、会いたいのだろう…?」
「わたしは、パルム国に帰れるのですか?」
「悪い……。帰れる方法がわかっている訳ではない。この国の結界を通り抜ける方法。それから、魔物が生息する危険地帯を越える方法。それがわかれば……可能性がある」
「結界と、魔物が生息する危険地帯…」
「お前が望むなら……、俺はお前と、この国を出てもいいと思っている」
「え?……それは、大丈夫なんですか…?」
「王子は何人もいる。……お前を、危険から守れるのなら、俺はいい」
「そう、ですか…」
「だが、兄上は……。リブラミア兄上は、この国から出られない」
「リブラミア様が?どうしてですか?」
「この国の結界に関わっているからだ…。兄上が結果の外に出ると、結界が壊れる」
「それなら、結界を通り抜ける方法はリブラミア様ならご存じなのでしょうか」
「知っているはずだが………聞けない」
「それはどうしてですか……?」
「お前がこの国から出る可能性がある手段を、誰かに話すとは思えない。そんなこと聞いたら、帰ろうとしていることを阻止しようとするだろう……。お前を閉じ込めかねない」
「と、閉じ込め…る??」
「兄上なら……、やりかねない」
「……………………」
背中から冷や汗が流れる。
わたしは、とんでもない人に好かれてしまったみたいだ。
部屋の中に不穏な空気が流れる。
ちらりとファーゼスに視線を送ると、彼も苦い顔をしていた。
そんな空気を掻き消すように、部屋の扉からノックの音が響いた。
二人が視線を移すと、返事を待たずに開いた扉から現れたのはリブラミアだった。
「二人とも、何を話してたの?」
にっこりと微笑む笑顔の奥に、暗い表情が見え隠れしていた。




