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精霊の花嫁〜迷い込んだ精霊の国は、男女比100対1の逆ハーレム国でした〜  作者: 夜風ほたる


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第七話(リブラミア視点)

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 私はフィリモ国の第二王子として生まれた。

 父は母をこの上なく愛していた。

 私にはそれが理解出来なかった。

 長年共に暮らせば情が移ることは理解出来たとしても、この国は一妻多夫制の国だ。

 一人だけが妻に愛されることは無いのだ。

 愛すれば、愛するほど、苦しくなる。

 それなのに、父は母だけを一途に愛していた。

 出会いは父の一目惚れで、父から求婚したのだと聞いている。

 出会った時から今でも母だけを愛し続けている。

 ある日、父に尋ねたことがあった。


「父上はどうして母上と結婚したのですか?」

「それは勿論、愛しているからだよ」

「でも、母上の愛は父上だけのものでは無いんでしょ?」

「それは……………。私が彼女を愛したいんだ。愛しているから、少しでも長く側に居たいんだ」

「父上ばっかり愛して、それでは父上が可哀想です!」

「可哀想…か…。そうだな、独り占め出来るのならどんなに嬉しいかと思うこともある。だけど、これでも私は幸せなんだ」


 『幸せ』だと笑う父の顔は悲しくて寂しそうだった。

 あれから数年が経っても、父の母への愛は変わらなかった。

 それどころか、日に日に増しているとさえ思える。

 母は悪い人ではない。

 女王としてこの国を統治しているだけあって、女性にも関わらず魔力量はこの国で上位に入り、国の緊急事態でも落ち着ける器の大きさがある。

 それを踏まえても、父が苦しみに耐えて傷ついてまでも母を愛する理由がわからなかった。



 十六歳の成人を迎えてからも色恋に全く興味がない私を心配したのか、父は半年に一回、女性を王宮に連れてきて私に顔合わせをさせていた。

 しかし、私は相手の女性に愛どころか興味すら湧かずにいた。

 流石に王宮までやって来た女性をその場で帰らせるわけにもいかず、お茶会だけして帰していた。

 成人を迎えてからも父や母から与えられる『家族としての愛』以外の愛を私は知らずにいた。



 成人を迎えた日に、父と私でこの国の結界を強化する儀式を行った。

 この国は魔物が生息する地域に囲まれた、危険な国だ。

 過酷な環境が故に、先祖は多く亡くなっていた。

 精霊は生まれた時から最大の魔力量が決まっている。

 そして、女よりも男の方が圧倒的に魔力が強く、この過酷な環境で生き延びられたのは男ばかりであった。

 これがこの国の圧倒的な男女比の差の原因となっていた。

 その上、魔力が強い親から産まれる子も魔力が高い。

 結果として、男ばかりが産まれる負の連鎖がこの国に起こっていたのだった。

 私が生まれる前は、毎日のように魔物がこの国に現れていた。

 そんな魔物と戦う日々から解放されたのは、父がこの国に結界を張ることに成功したからだった。

 父は平民ながら、強大な魔力を持っていた。

 そして、その魔力は私にも受け継がれている。

 年々凶悪化する魔物に対抗するために、成人した私は父の結界に私の魔力を加え、親子の結界へと強化する儀式を行った。

 この儀式によって私は自由を一つ失った。

 結界を張った人が結界の外に出ると、その結界は壊れてしまう。

 つまり、結界の外に出る『この国を出る』自由を私は失った。

 私は王子として生まれた時から、この国で生き、この国のために死ぬと思っていた。

 結界強化の儀式で自由を一つ失うことに何も感じていなかった。

 だけど、父はそうは思っていなかった。

 結界を強化した日に、父は結界に一つだけ細工を施したと私に告げた。

 その時、父の告げたことに興味が無く、すっかり忘れ去っていた。



***



 私が十八歳になったある日、父が告げたことをまさか思い出す日が来るとは思ってもいなかった。

 それは、国内の巡回警備を行っていた最中に起きた。

 物騒な音が遠くから聞こえて振り返ると、住民がわらわらと集まり人集りが出来ていた。

 また魔物が侵入して来たのかと、そう思った。

 結界を張っていても、魔物が入り込んでくることはある。

 そのために定期的に巡回警備を行っているのだ。

 これ以上大事になる前にさっさと片付けようと、人集りを掻き分けて急足に歩く。


「何事だ!…道を開けろ!」


 大きな声で住民に呼びかけ、道を開けてもらう。

 まだ、魔物を見つけられない。

 警戒しながら一歩、一歩、と前へと進む。

 人集りとなっていた中心部まで辿り着いても魔物の気配は無く、そこには倒れた大木が一本と一人の女性が立っているだけだった。

 オレンジ色の柔らかい髪に、優しげな瞳の女性が、そこには立っていた。


 私は一瞬で心を奪われた。


 彼女が見つめる視線に、心臓がドドドドと激しく脈打ち、顔が熱くなるのを感じた。


ーーー彼女は何者だ??


 私が無意識に見惚れていると、目の前の彼女は居心地が悪かったのかモジモジとしていた。

 慌てて平常心を装い、彼女に声をかけた。


「貴方はどちらから、いらっしゃったのですか?」


 すると、彼女の可愛らしい声から想像を超えた返答が返ってきたのだった。


「えっと…、パルム国から来ました…。というより、迷子になってしまって、歩いていたらここに…」 


 『パルム国』それは魔物が生息する地帯よりも、もっと先にある人間の国だった。

 書物で読んだ知識はあるが行ったことはなく、本当に存在する国であるかも不確かな国の名前だ。


 しかし、なぜ人間が結界の中に入って来られたんだ?

人間は強力な魔力も魔法耐性も無いはずではなかったか?


 実は危険な人物なのかもしれないと疑いが生まれ、結界について話題を出した。


「パルム国!?貴方は…人間、な、のか?」

「はい、人間です。それが何か?」

「どうやって入って来れたんだ!?結界が効かなかったのか!?」

「えっと…、ここは?」

「フィリモ国だ。精霊の国。私達は精霊だ」

「え、ちょ、大変申し訳ございません!!今すぐ出ていきますので!…帰り方はわからないんですけどっ…、あの…」


 畳み掛けるように質問を投げかけても、彼女は戸惑うばかりだった。

 本当に結界についても、それどころかこの国に来たことすらも知らない様子だった。


『結界』


 その言葉で父が告げたことが脳裏を過った。

 何年も忘れていたことだったのに。


ーーーもしかして、目の前にいる彼女が?


 彼女を一目見た瞬間に心を奪われたのは、父が告げたことが理由なのか?

 しかし今、彼女は『今すぐ出て行く』と言わなかったか?

 この国の外に、この結界の外に彼女が出ていってしまったら……。


ーーー私は貴方に会いに行くことが出来ない。


二度と貴方に会えないなんて嫌だ!嫌だ嫌だ!

せっかく会えたのに!

一目見た瞬間に、私が愛せるのは貴方だけだと、魂までもがそう叫んでいたのに!

何をしてでも引き留めなければ、貴方の心を繋ぎ止めなければ………!


 想いが体を勝手に動かし、無意識に彼女を覆い尽くすように抱き込んでいた。


「出て行かないでくれ!お願いだ!この国に住んで、私の婚約者になってくれないか?いや、結婚でもいいのだが、貴方はいくつだ?」


 勢い任せに口をついた言葉は余りにも独りよがりで、彼女はきょとんとした顔になっていた。


「え……?」


 彼女から返ってきた言葉はそれだけだった。

 その声に、私は我に返り慌てて謝る。

 取り乱し、名前すら名乗り忘れていたのだ。

 自分が恥ずかしくなった。


「あ…、いや、すまない!名乗ってすらいなかった……。私はフィリモ国の第二王子、リブラミアだ。歳は恐らく貴方よりも年上だと思うが十八歳だ。貴方の名前も聞いてもいいだろうか」

「は、はい!私はレシアーノです!十五歳です」


 十五歳……、成人するまで後一年。彼女がこの国にいるとすると、その一年間だけでも彼女ならば何十人もの男を虜にすることは想像がついた。

 何としてでも私が婚約者になって、彼女が他の男と結婚するのを阻止したい。

 この際恥とか捨てて、もう一度婚約してほしいと言おう。

 叶うことならば『私だけを愛して欲しい』とそう願いを込めて言葉にした。


「レシアーノ、綺麗な名前だな。十五歳ということは、結婚は一年我慢だな……。やはり、私の婚約者になってくれないか?」

「ご冗談を!わたしなんかが王子様とご婚約なんて…。ましてやわたし人間ですよ?」

「冗談ではない!貴方ほどの可愛らしい女性なら、王子など関係なく五十人は夫にできると思うが?それにこの国では精霊同士でなくても結婚は認められている」

「ご、ごじゅ…?」

「例え話だ。私は、貴方の一人だけの夫になりたいのが本音だが………、そうはいかないだろう?」

「あの…、リブラミア様?わたしは将来結婚するのなら、一人の旦那様で十分です」


 いま……、彼女は『結婚は一人の旦那様でいい』と言わなかったか?

 それはつまり、レシアーノが私だけを夫として愛してくれる将来があると言うことか?

 この時、私は人生で一番の幸せを感じた。

 十八年間生きてきて、初めて本当の『愛』を知り、父が苦しみながらも求め続けている理由が理解出来た時だった。


 私の一生の愛を貴方だけに捧げよう。


 そう誓った心とは裏腹に、口から出た言葉は余裕がなく格好悪い言葉だった。




 その後にレシアーノから、リブラミアを夫にするとは言っていないと訂正され、大きなショックを受けたのはまた別の話。



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