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精霊の花嫁〜迷い込んだ精霊の国は、男女比100対1の逆ハーレム国でした〜  作者: 夜風ほたる


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41 呼び人



「余は、呼ばれたゆえ来たのだが」


 グレイシオンはそう言いながらレシアーノを見る。


(や、やっぱりわたしが呼んだから…!?)


「呼んだと言えば呼んだかな〜?」


 二人の空気にまったく気が付いていないロランドールがにこにこと笑い兄に言った。

 言葉を失っていたレシアーノも慌てて声を出す。


「シオン様!今日は部屋から出ても大丈夫なのですか?」

「短時間ならば問題ない」

「そ、そうですか」

「余に、何か用か?」


 グレイシオンは呼ばれた理由を聞いてきた。

 レシアーノの正面に見えるロランドールが、頑張ってと口パクで言っている。

 ものすごく楽しそうな顔だ。


「あの…シオン様にこれを……」


 そう言って手に持っていた紫苑の花冠をグレイシオンに差し出す。


「これは?」


 レシアーノはグレイシオンが『これをなぜ余に?』と言っているように聞こえて返答に戸惑う。


「えっと…」

「レシィちゃんがグレ兄のために作った花冠だよ〜」


 横からロランドールが話に加わってくる。

 ロランドールが花冠を受け取り、身長差のあるグレイシオンの頭によいしょと乗せた。


 魔王みたいな人が花冠を乗せている。

 なんだか滑稽だ。

 だけどやっぱりグレイシオンも王子様なだけあって綺麗で気品もあり、不思議と紫苑の花が馴染んでいた。


「ふふっ…グレ兄のこんな姿、はじめてみたよー!」


 ロランドールは笑いながらそう言った。

 馬鹿にしているわけではなく、単純に嬉しそうだ。


「兄さんも意外と花とか似合うんだね〜。ね、レシィちゃんもそう思わないー?」


 ロランドールがレシアーノをちらりと見た。


「は…はい!とっても紫苑の花がお似合いです!」


 咄嗟に口にした言葉はありきたりで、眉一つ動かないグレイシオンの表情にレシアーノは不安になる。


(気に触ることを言ってしまったかな……)


 気まずい中、グレイシオンの言葉をまつ。

 ふいにカサッ…とグレイシオンの手が頭の花冠に触れる音がした。


「余にだけ作ってくれたのか?」


 グレイシオンは真顔でレシアーノにそう言った。

 やっぱり男性に花冠なんて迷惑だっただろうかと、急に後悔が押し寄せる。

 レシアーノは声を出せずに小さく頷いた。


 またカサッと花冠の音がした。

 その後にグレイシオンの頭に乗っていた花冠が、レシアーノの視界まで下がってくる。

 要らないと、花冠を返される覚悟をした。

 レシアーノは視界の中央にある花冠だけを見ていると、その花冠をグレイシオンが両手で待った。


「……………………」

「……………………」

「……………………」


 三人とも花冠を見た。

 どうしたの?という顔をするロランドール。

 俯き気味に花冠を見るレシアーノ。

 風にゆれる紫苑の花をじっと見るグレイシオン。


 三人の間をサーーっと静かに風が流れる。

 その音に混ざってグレイシオンが息を吸う音がした。


「そなたの気持ちなら嬉しく思う」


 静かな風に乗って低い声がレシアーノに届く。

 その声に、レシアーノは反射的に顔を上げてグレイシオンを見上げる。


 グレイシオンは無表情で心は読めなかった。

 だけど、嘘をついているようにも見えない。

 花冠を大切そうに両手で持つ姿が全てだと思った。


 ただロランドールと軽いノリで作りはじめた花冠を、話の流れでグレイシオンに渡した。

 それだけなのに。

 レシアーノは心がぽわっと温かくなった。


 またサーーっと静かに風が流れる。


「シ…ーー」


 『シオン様』そう呼びかけようとした。

 だけど、レシアーノのその声は別の声で遮られていた。


「グレイシオン、ここにいたのかね。急にいなくなるから探したよ」

「…すまぬ、もう戻る」


 横からふいに現れたガラルクが額に汗をにじませながら、困った顔でグレイシオンに言う。

 グレイシオンもガラルクを見て少しだけ眉を下げた。


「そなたも余の部屋にくるか?」


 レシアーノに向き直ったグレイシオンがそう言った。

 何かを言おうとしていたのに気づいていたようだ。


「い、いえ!わたしは大丈夫です!ゆっくりお休みくださいっ…」


 レシアーノは両手でぶんぶんと身振りをしながら断る。


「そうか、ではまた」


 グレイシオンはちょっとだけ不満そうな顔をした。


 去っていく二人の後ろ姿を見送る。

 遠くなっていく後ろ姿と、小さくなっていく声はレシアーノに聞こえていた。


「グレイシオン、その花冠はどうしたのだね」

「もらった」

「あの二人からかい?」

「レシアーノにだ」

「そうかそうか。綺麗ですな」

「余の部屋に飾ろう」

「はははっ…随分気に入ったのだね」


 その先は風の音にかき消されて聞こえなかった。



「グレ兄に喜んでもらえてよかったね〜」


 ロランドールがふわりと笑った。


「そうですねっ!」


 レシアーノも微笑み返した。


「グレ兄は婚約者から花とか貰ったことはあるのかなー?その婚約者は今どこにいるんだろうねー…。もし生きているのなら、兄さんに会いに来てくれたらいいのに」


 呟いたロランドールの言葉に、レシアーノの胸がチクリと痛む。


『わたしがグレイシオン様の婚約者だ』


 と胸を張れない自分が嫌になる。

 わたしとグレイシオン様が両想いだったとするならば…、どうしてそんな大切なことを思い出せないのだろう。


 思い出せない…?

 何かをわたしは忘れているの?

 数日前にも記憶が飛んでいたことがあった。

 わたしは大切な何かを忘れているの…?


 ロイ以外にも、わたしが好きになった人が過去にいたのだろうか…?



「レシィちゃん?お〜い、レシィちゃん!!大丈夫ー?」

「ひゃっ…!」


 突然間近に現れた綺麗な顔に、レシアーノは驚く。

 おまけに変な声まで出てしまっていた。


「まーた何か考え事〜?眉間にシワがよってるよー?」


 ロランドールが不満そうな顔をして、顔を遠ざけていく。


「ごめんなさい…」

「謝らないでよ〜。ボクでよかったら何でも言ってね?」

「ありがとうございますっ…」


 深くは聞いてこないロランドールの優しさに救われ、自然とお礼を口にしていた。



 そんな時、レシアーノの視界の正面にいたロランドールの後ろから、見知った人が歩いてくるのが見えた。


「レシアーノさん、いま少しいいですか?」


 ギルミックがなにやら手に紙を持ってやってきた。


「はい、大丈夫ですよ?」


 声が聞こえる距離までやってきたギルミックに、ロランドールも振り返る。


「王宮にこれが落ちていたのですが、人間の文字に似ている気がしましたのでレシアーノさんの落とし物ですか?俺は人間の文字には詳しくなくて、読むことはできなかったのですが」


 ギルミックはそう言って手に持っていた物を見せる。

 星柄の可愛らしいデザインの一枚の手紙。

 そしてそれを一目見ただけでも内容がわかるほどに、レシアーノにとっては忘れられない手紙だった。


(どうしてその手紙がここに……!?)


 忘れられない手紙。

 それはレシアーノがロイに渡した一枚の手紙だった。



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