35 婚約者の隠しごと
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「勝手にこんなところまで出てきてしまって大丈夫でしょうか?やっぱり一度戻ったほうが…」
「いつまでも王宮にいたって解決しないでしょ?僕は君を迎えに来たんだから、帰る方法を探さなきゃ」
王子達が部屋からいなくなった隙に、ウィルロイドはレシアーノを外に連れ出していた。
「ここで、帰る方法が見つかるとは思えないですけど…」
レシアーノは困った顔をして、辺りを見回した。
「腹が減っては戦はできぬ、だよ?食べないと元気がでないからね!」
ウィルロイドはフォークとナイフを手に取って、にっこりと笑う。
そう、なぜか二人はフィリモ国で人気なレストランに来店していた。
ウィルロイドがこの国に来て数日間で、どこからこのお店の情報を仕入れてきたのかは不明だが。
外観も小洒落ていて、店内も雰囲気のあるお店だ。
開店早々の店内はまだ空席がいくつかあるものの、あと数十分もあれば埋め尽くされそうな勢いである。
目の前にはカフェラテ、シーザーサラダ、ステーキ、パスタ、ピザ、タルトケーキ、それらに似たような料理が並び、テーブルを埋め尽くしていた。
この量を二人で食べるのか?とやや困惑した顔のレシアーノに対して、向かい側のウィルロイドはにこにこと食べ始めていた。
「どうしたの?お腹空いてない?」
一向に食べ始めないレシアーノに、ウィルロイドが手を止めて声をかける。
「あっ、いえ…。いただきますっ!」
「美味しいものが食べたいって、この前レシィが言っていたから連れてきたんだけど…。ここは、君の好みじゃなかったかな…?ごめんね急にこんな場所に連れてきて」
困った表情のまま食べ始めようとしたレシアーノに、寂しそうに眉毛を下げたウィルロイドが謝ってきた。
(数日前にわたしが言ったことを覚えててくれたの…?)
寂しそうな婚約者の姿に、申し訳なさと、ちょっぴり嬉しい気持ちを抱く。
ナイフとフォークを手に取り、ウィルロイドを見る。
「ウィルロイド様、ここに連れてきてくださってありがとうございます!さっそく、いただきます!」
そう言ってサラダから口に運ぶと、ウィルロイドは目を細めて幸せそうに笑った。
***
「たくさん食べたね〜」
「も、もうなにも食べられません…」
案の定、お腹が破裂しそうになっているレシアーノと、幸せそうに笑うウィルロイドが店内から外に出る。
「そういえば、レシィはこの国にどこから入ってきたの?」
段差がある道で自然に手を差し出したウィルロイドが、レシアーノを見ながら尋ねた。
その手を取り、レシアーノは辺りを見回す。
「大木が倒れてきた記憶はあるんですけど……。あっ!向こうのほうかもしれません!」
見覚えのある大きな建物を指差し、ウィルロイドに場所を知らせた。
「向こうに行ってみてもいい?ごめんね、逃げてきちゃったから馬車とかなくて…。もし疲れたら抱っこするから言ってね?」
「だだだ大丈夫ですっ!とっても元気です!」
「うん、それならよかった」
ウィルロイドに抱き抱えられそうになって、レシアーノは慌てて答える。
対していつもと変わらない表情のウィルロイドは、レシアーノの手を引き歩き出した。
思ったよりも目的地は近く、十分も経たずして着いた。
倒れた大木や散っていた植木鉢の破片は撤去されていて、ただの歩道となっていた。
「この辺りだったと思うのですが……」
きょろきょろと見回してみても、真っ暗な道に続きそうな通路は見つからない。
ここではなかったかな?と思いはじめたとき、後ろからパキッ…と不自然な音がした。
「レシィ危ないっ!!!」
ウィルロイドが叫ぶ声が聞こえたと同時に、風が吹いてゴンッと何かが地面にぶつかる音が響く。
咄嗟に瞑った目を開くと、地面に倒れた大木と剣を手に持つウィルロイドが立っていた。
「怪我はない?」
振り向いたウィルロイドが、近寄ってくる。
「はいっ…、大丈夫です…」
倒れてきた大木から視線を逸らせず、じっと見る。
あの時と一緒だ。
どうしてまた大木が倒れてきたの……?
じわりと広がる恐怖心にレシアーノが動けなくなっていると、近くの建物からガサガサと複数の音がした。
「後ろに下がって!!!」
ウィルロイドの大きな声に体がびくっと反応して、声の方を振り向く。
そこには狼のような形をした黒いものが、三体。
ウィルロイドを取り囲んで赤黒い目で睨んでいた。
(魔物が三体も…!?)
「ウィルロイド様!!」
「こっちに来ちゃだめだ!!離れてっ!」
叫んだレシアーノの声に、魔物から視線を外さずにウィルロイドは答えた。
いくら剣の腕が優れていたとしても、三体を相手にするには無理がある。
ましてや人間は魔物を見たことも戦ったこともないはず。
(このままだとウィルロイド様が危ないっ…!)
助けなきゃ、そう思った瞬間に、ウィルロイドが何やら術を唱え始めた。
唱えている声に反応して黒い輪がウィルロイドを囲む。
(ウィルロイド様は魔力がないはずなのに、どうして術を唱えているの……!?)
レシアーノが疑問を抱いている間にも、ウィルロイドに黒い何かが集まり、彼が苦しげに顔を歪めた。
その時、レシアーノは気づいた。
黒い何か。
術を唱えた人が苦しむ魔法。
魔力が無い人でも唱えられる禁術。
……それは命と代償に唱えることのできる魔法。
命を削る魔法。
(あれは、もしかして『闇魔法』なの…!?)
「だめっ!!!その術を唱えないで!!」
(止めなきゃ!唱え切ったらウィルロイド様の命が削られてしまう!)
レシアーノはもう二度と声が出なくなってもいいと思いながら、必死にウィルロイドの名前を呼んだ。
「ウィルロイド様!!もうやめてください!!!ウィルロイド様!!ウィルロイド様ーっ!!!!」
一瞬、術を唱えるのを止めたウィルロイドが、ふわっと優しく笑った。
「いいんだ、この命は君に救われた命だから。君を守るために使いたいんだ」
そう言ってまたウィルロイドが術を唱え始めた時、後ろから大きな風が吹いた。
鋭い光の矢が三つ飛んできて、三体の魔物に命中する。
黒い塊がゴトッと地面に倒れ、動かなくなった。
「見失っちゃって遅れてごめんね。二人とも大丈夫ー?」
緊張感漂う空間に、横からゆるっとした声がした。
横を向くと、そこには息を切らしたロランドールが立っていた。
「ロランドール様っ!?」
「庭園に居たら二人が王宮から出ていくのが見えてこっそり着いてきてたんだけどー、危ないところだったね」
「た、たすかりました…。ありがとうございましたっ…」
ふぅと息を吐くロランドールに、レシアーノはお礼を言ってぺこりと頭を下げる。
やや離れた場所にいたウィルロイドも、歩いてきてお礼を述べる。
「ロランドール様。僕を助けてくださり、ありがとうございました」
「二人とも無事だったならよかったよ〜。今回のことは、ボクが気晴らしに二人を連れ出したことにしてあげるよ」
「それは助かりますが…ーー」
「だけど…、次はないからね?レシィちゃんはボクにとっても大切な人なんだ。危険な目にあわせるような軽率な行動は慎んでほしいな」
珍しく鋭い目をしたロランドールが、ウィルロイドの目を見ながら言った。
それから、いつものゆるっとした笑顔に戻る。
「それじゃ〜、スイーツでも食べに行こうよー!さっき二人が食べてるところ見てたら、ボクも食べたくなっちゃってさ〜」
はやくはやく〜と手をひらひらとさせるロランドールが、どんどん先を歩いていく。
レシアーノとウィルロイドは慌てて追いかけた。




