32 衝撃発言
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「レシアーノ、どこか痛いとか苦しいとかない?」
誰かに呼ばれた気がして目を開いたら、視界一面に綺麗な顔が映り込む。
眉毛を下げて心配そうに見つめてきた白銀の髪の男性は、そっとレシアーノの頬に触れてきた。
「リブラミア…さ…ま……?」
「ああ、よかった……無事みたいだね…」
リブラミアはレシアーノの顔をじっと見てから、安心したように優しく微笑んできた。
「ここは………?」
リブラミアの顔の端に見える部屋の雰囲気が、いつもと違う気がして尋ねる。
「ここは来客用の宿泊部屋だよ。レシアーノの部屋は窓が割れてしまったし、近くの私たちの部屋も危険だから一緒に部屋を移ってきたんだ」
「そうでしたか………」
まだ覚め切らない意識の中で、聞いた話を素直に受け取ろうとレシアーノは頷く。
そこで、数刻前の記憶がないことに気が付いた。
わたしの部屋の窓が割れた…?
『危険』だから一緒に部屋を移った…?
どういうことだろうか。
全く思い出せない。
誰かがわたしの部屋で暴れたのだろうか…?
ここに来る前は、わたしは何をしていたっけ…?
記憶を辿ろうとすると、頭にズキリと小さな痛みが襲う。
「うっ……………」
「レシアーノ大丈夫!?どこか痛むのっ…?」
突然の痛みにレシアーノが顔を歪めると、リブラミアが顔を覗き込んできた。
ズキリとした痛みは一瞬だけで直ぐに治っていた。
今の痛みは何だったのだろう…?
「レシアーノ…?」
リブラミアの心配そうな声がする。
だけど、その声に返事を返せないほどにレシアーノには恐怖心が湧き上がっていた。
(一体なにがあったの……?)
怖い。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
「レシアーノ……どうしたの…?」
殺される殺される殺される…殺される?
誰に…?
「安心してレシアーノ!貴方は絶対に守り切るからっ…!」
リブラミアにガバッと力強く抱きしめられて、レシアーノは現実へと意識が戻る。
そこには、カタカタと全身が震えた自分がいた。
「リブラ…ミア…さま…」
「大丈夫だよレシアーノ、私が守るから…。今日はもう休もう?ずっと側にいるから安心して眠ってね」
「………眠る…?」
「もう夜だからね、そろそろ皆も眠る時間だろう」
(……えっ!?…もう夜なの!?)
レシアーノの記憶は夕方の時間で止まっていた。
夕方からずっとこのベッドで寝ていたのだろうか。
やっぱり、記憶から何かが抜け落ちている気がする。
レシアーノは周囲を慎重に見回した後、今更ながらに今の状況に焦り出した。
そして、リブラミアに向けて声を上げる。
「どうしてわたし、リブラミア様と一緒のベッドに寝ているのですか!?」
「ん?…ああ、貴方が倒れたからここに運んで来たんだよ」
「倒れた…?わたしは何をしてたのですか?」
「もしかしてレシアーノ……記憶がないの…?」
一瞬リブラミアが目を丸くして、それから心配そうな顔をして聞いてきた。
その様子に確実に何かがあったのだと察しがついた。
レシアーノは躊躇いながら静かに頷くと、リブラミアは変わらず優しく抱きしめてくれていた。
「大丈夫だよ、レシアーノ。思い出さなくていい。今日は一緒にもう寝よう?」
リブラミアはレシアーノを抱きしめたまま、布団の中へと入り込み横になる。
安心する人の温もりにレシアーノは目を瞑りかけて、理性が止めに入る。
「リ、リブラミア様!?…あの、一緒に寝るのは流石に…」
「どうして?私は貴方の婚約者でしょ?それに、前にも一緒に寝たことあるよ…?」
リブラミアはむすっとした不機嫌な顔になり、抱きしめる腕の力が強くなった。
(一緒に寝たことがある…?)
そんなことあったっけ…!?
もしかして…、今日の記憶だけではなくて他の日の記憶も消えている…?
考えれば考えるほどに意味が分からなくなっていく。
今考えても記憶が直ぐに戻るとは思えず、レシアーノは全てを諦めて眠ることにした。
安心するリブラミアの体温をきゅっと弱く抱きしめ返すと、リブラミアから『はぁ…』と甘い声が漏れた。
「私の婚約者は可愛すぎる……」
「か、仮です……」
「レシアーノ……こっち向いて?」
そう言われて顔を上げると、すかさずリブラミアの唇が自身のそれに被さってきた。
わざとらしく、ちゅっ、ちゅっ、と音がするように唇を弄ばれ、顔が一瞬で真っ赤に染まる。
「リブラミア様っ!」
「どうしたの?」
「や、やめてください!!」
「何を?」
「えっ…!……く…、口付けを…ですっ!」
「どうして?」
「……恥ずかしいからですっ!」
「ふふっ……。そんな可愛らしい顔をされたら、やめられないな」
「………っ!?」
レシアーノの精一杯の抵抗は逆効果に終わり、上機嫌となったリブラミアから口付けが降り注いだ。
レシアーノの頬に、額に、髪に、耳にと、リブラミアの唇が移っていく。
それから耳元で止まった唇が甘く囁いてくる。
「レシアーノ、触れたかった。……愛しているよ」
「………!?」
レシアーノの爆発寸前だった心臓が、とどめの一言でドクッと大きく高鳴り何も考えられなくなる。
その後はされるがままになっていると、いつの間にかリブラミアが上から覆い被さっていた。
そんな場面に一人の足音が近づいてきて、部屋の扉がガチャリと音を立てて開いた。
「レシアーノさん、大丈夫ですか?」
眼鏡をかけた青年が、声をかけながらベッドに近づいてくる。
「ギルミック、何しにきた」
弟の登場にリブラミアの表情が一気に不機嫌そうになり、ギルミックを睨みつけた。
そんな兄の視線を涼しい顔で見返したギルミックは、ベッドの前で足を止める。
レシアーノはこの状況から助けてほしいと、期待の眼差しでギルミックを見た。
その視線に気がついたギルミックは僅かに口角を上げる。
伝わったと勘違いしたレシアーノは胸を撫で下ろした。
それも束の間、ギルミックはベッドへと上がり込み、リブラミアの隙間からレシアーノをぎゅっと抱きしめてきた。
「…………な!?」
「おいギルミック、殺されたいのか!?」
動揺で言葉にならないレシアーノの音と、怒り出すリブラミアの声が重なった。
ベッドの上で王子二人に抱きしめられる非常事態の中、もう一人の訪問者がこの部屋に現れ、空気が一変する。
「元気にしてたか、リブラミア。久しぶりだね。……おや、レシアーノ嬢も一緒なのかね、君はさっきぶりだな。なにやらお楽しみ中だったかな?」
髭を生やした男が優雅に部屋の中へと入ってきた。
「ガラルク宰相、お久しぶりです…。どうしたのですかこんな時間に?」
「ガ、ガラルク様!?…さ、さっきぶりですか…?」
「ガラルク宰相、こんばんは」
現れた人物にリブラミア、レシアーノ、ギルミックの順番で声を出す。
流石のリブラミアもレシアーノから手を解き、ベッドから立ち上がり挨拶をした。
ギルミックもすっと立ち上がって会釈をした。
慌ててレシアーノもベッドから立ち上がり頭を下げる。
「一斉に立ち上がらなくても大丈夫さ。そんなに気を遣わないでくれ」
そう言いながらガラルクは三人の前に近づいてきた。
リブラミアは半歩後ろに下がり、尋ねる。
「私に何か用ですか?」
警戒心からか、リブラミアは珍しく強張った表情でガラルクを見ていた。
すると、ガラルクは口元に怪しい笑みを浮かべ、衝撃発言を口にする。
「リブラミア、今夜どうかな?」
「どう……とは、なんですか…?」
「君の体が気になる。私の部屋にきてくれないかな?」
(…………!?!?)
この部屋に大きな稲妻が走った。




