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精霊の花嫁〜迷い込んだ精霊の国は、男女比100対1の逆ハーレム国でした〜  作者: 夜風ほたる


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31 抱き枕?


ご覧いただきありがとうございます!

評価、ブックマーク、感想、レビュー、リアクションは執筆の励みになりますので、少しでも面白いと思っていただけましたら気軽に残してもらえたら嬉しいです!




 窓から見える景色が夕闇に染まる頃、静かな部屋の中には規則正しい一人の寝息だけが聞こえていた。

 ファーゼスは来客者の見送りがあり、数分前にこの部屋を出て行った。

 そのため、部屋の中には二人だけが残っている。

 静かに紅茶を飲むレシアーノと、すやすやと寝息を立てるギルミックだ。


 レシアーノはソファーに腰掛け、向かい側のソファーで横になり眠っている王子様を見る。


(相変わらず綺麗な顔をしているな……)


 この国で出会った精霊達は総じて顔面偏差値が高く、精霊は人間よりも容姿が綺麗なのだと思う。

 その中でもギルミックは、眼鏡を外した時に見える目の下の泣き黒子が、綺麗だけでは留まらず色気を添えていた。

 王子の寝顔をまじまじと見たことがあるのは、リブラミアとギルミックだけだ。

 そしてつい、ギルミックの寝顔を目にすると、レシアーノは毎回見惚れてしまっていた。


 今だって、吸い込まれるようにじっとギルミックの顔を見つめていた。

 長い睫毛、すっと伸びる鼻筋、薄い唇、滑らかな肌、それから左目の下にある泣き黒子。

 そのどれもが引き立て合っていて、こんな綺麗な顔に生まれたかったなと異性に対して初めて尊敬すら覚えていた。


 手に持っていたティーカップが傾き、紅茶がちゃぷっと音を立て、そこでやっとギルミックから視線を外す。


(いけないっ……こんなに見てたら失礼だよね………)


 寝顔を見ていただけでドキドキと主張し始めた胸の音に焦りながら、別のことを考えて気を紛らわそうとする。



 今日一日を振り返ると、恥ずかしい姿ばかり晒していたことを改めて実感し、顔が赤くなっていく。

 これでは気を紛らわすどころか逆効果だなと、自分に呆れていると、ふと一つの疑問が頭に浮かんだ。

 

(そういえば、ガラルク様って途中から話に加わってこなくなったけど、何をしてたのかな……?)


 第一王子の部屋にいたはずのガラルクと、途中から話した記憶がなかった。

 グレイシオンと話している時も、ファーゼスが第一王子の部屋に戻ってきてからも、ガラルクの声がした記憶はない。

 リブラミアを怒らせるのではと聞かれた記憶は残っているけれど、その後は彼は何をしていたのだろう?

 ティーカップの中の液体を見つめて記憶を辿っても、やはり答えには辿り着けなかった。



 意識が遠くに向いていると、現実からカチャッと何かが音を立てた。

 条件反射で音がした場所を見ると、そこにはギルミックが手に持って寝ている眼鏡があった。

 どうやらギルミックが手に持っていた眼鏡が、ソファーの肘おきにぶつかった音だったみたいだ。

 高級そうな眼鏡に、慌ててレシアーノはソファーから立ち上がっていた。


(眼鏡が傷ついてはいけないっ…!)


 そう思ってギルミックが眠るソファーに近づき、起こさないように眼鏡をそっと手から受け取る。

 熟睡しているのかまったく起きそうもない様子に安堵し、すぐ横にあるテーブルの上に眼鏡を置いた。

 眼鏡を無事回収し、しゃがんでいた体勢から起き上がろうとすると、後ろから伸びてきた腕に捕まった。


(………えっ!?)


 急な展開にレシアーノは抵抗できずにいると、その腕に抱き込まれてソファーへと寝転ぶ形になっていた。

 自分を拘束する腕を見ると、見覚えのある服が映る。

 誰がとか考えなくても、この部屋にいるのはレシアーノ以外は一人しかいない。

 頭ではわかってはいるのに、それでも追いつかない心が勝り、周囲を恐る恐る見回した。

 レシアーノの体を拘束するギルミックの腕、背中に伝わる体温、顔の真横から聞こえる規則正しい寝息、横向きになった視界。


 …………………………。


(わたし…ギルミック様に抱きしめられて、ソファーに一緒に寝ているの…!?)


 『ちょっと待って、これはどういうことなのか』とレシアーノは心の中で叫び声を上げた。

 もちろん待ってくれる人などおらず、すやすやと眠り続けるギルミックが至近距離にいるだけだった。


(こ、これは起こすべき……?)


 混乱した頭では何が正しいのか判断がつかず、浮かんだ対応を実行するべきか迷っていた。


 そんな気も知らずに、レシアーノを拘束する腕が何やらもぞもぞと動いている。

 お腹から脇腹をさわさわと撫でられ、妙にこそばゆい。


「温かくて…気持ちいいですね……」


 あまりにも長いそれに、くすぐったさで笑ってしまいそうになるのを堪えていると、寝言なのか起きているのかわからない声が耳元に聞こえた。

 いつもより少し掠れた声が色っぽくて、ドクッと心臓が大きく鳴る。


「ギルミック…さ…ま?」


 緊張しながら、呼びかけてみる。


「…………ん…?………レシアーノ…さ……ん…?」


 寝ぼけているのか、いつものすらすらとした話し方ではなく、ふにゃりとした声が返ってきた。


「レシアーノさん…?どこに…いるんです…か…?」


 やはり寝ぼけているのか、それとも視力が悪いのか、腕の中にいるレシアーノにギルミックは気が付いていない。

 そして、目の前にある物をギルミックはむぎゅっと力強く抱きしめた。


「温かい……この抱き枕は…最高ですね……」


 ギルミックはそう言いながら、すりすりとレシアーノの体に擦り寄ってくる。


(だ、抱き枕!?レシアーノですけど……!?)


 この状況はまずいと危機感を覚えたレシアーノは、勇気を出してギルミックを起こすことにした。


「ギルミック様!起きてください!」

「……ん…?レシアーノさん…?」

「はい、わたしです!そ、その…、手を離して下さい!」

「……………………手…ですか……?」

「そうですっ!わたしから手を、どかしてくれますかっ?」

「俺が…いま手で抱いているのは……?………」

「わ、わたしですっ…!!」

「……………………………………」


 漸くギルミックは覚醒したのか、むぎゅっと抱きしめる腕の力が弱まり、擦り寄ってくる体が止まった。

 レシアーノはその姿にほっとして、ギルミックの腕が解かれるの静かに待つ。


 ところが、一度緩まったはずの腕の力がまた強くなり、ギルミックがレシアーノを力強く抱きしめた。


「ギルミック様!?どうしたのですか…!?」


 レシアーノは振り向けない状況に、今度は何があったのかと困惑で声を出す。

 そんなレシアーノを気にも留めずに、ギルミックはソファーに横になったまま静かになり、また眠りにつきそうな勢いだった。

 慌てて起こそうとレシアーノが身動ぐと、ギルミックの腕の力が強くなる。


「レシアーノさん、動かないで下さい」

「いやっ……、あの……この体勢はさすがに……」

「嫌ですか?」

「いや……………ではないです…けど……ーー」

「よかった、嫌ではないんですね。それなら、これから毎日俺と一緒に寝てください」

「…………………」

「……レシアーノさん?聞いてますか?」

「……………………………へ?」


(…………………いま、なんて言われた…?)


 まだギルミック様は寝ぼけているの…?

 いやでも、すらすら話しているし……、どういうこと?


「レシアーノさん、答えて下さい」

「………えっと…?」


 ギルミックが催促するように、レシアーノのお腹に回る手をぎゅうぎゅうとしてくる。



 思わぬ緊急事態の中、扉をノックする音が聞こえた。


「レシアーノ、戻ったよ。入ってもいいかい?」


 そして、この状況を一番見られたくない人の声がした。

 咄嗟にギルミックの腕から逃れようと体を動かすも、男の前には女の力など無力でびくともしない。

 そうこうしている間に扉が開き、白銀の髪を一つに束ねた男が二人を視界に入れた。


「ギルミック、お前何してるんだっ!!」


 ソファーに横になって抱き合っている二人に、想像通りに怒り出したリブラミアが殴り込む勢いで向かってくる。

 外は既に暗くなっているが、それよりもはるかに暗く重い空気が部屋の中を覆った。

 恐怖のあまり固まるレシアーノとは反対に、ギルミックは眉一つ変えずに兄を見る。

 そして、この燃え盛る現場の火に油を注ぐ一言を、あっけらかんとした態度で言い放つ。


「レシアーノさんに、俺と毎日一緒に寝てくださいと言ってました」

「……は!?」


 想像以上の回答にリブラミアの目が丸くなり、一瞬だけ足が止まった。

 それから目つきが恐ろしいほど暗くなり、亡霊が現れたかと思うくらいに全身に暗い影が落ちる。


「ギルミック…、お前の命日は今日でいいか」


 この場にいるだけでレシアーノの命日にもなりそうな恐ろしい展開に、体は固まって動かなくなり、瞼だけをぎゅっと強く閉じる。



 その直後にガシャーーーーーン!!と大きな音が部屋中に響き渡った。

 一瞬、リブラミアが何かを破壊したのかと思ったが、その後にリブラミアのいつになく真剣な声がした。


「ギルミック!!レシアーノを任せた!!」

「わかりました、後方に下がります」


 ただならぬ空気感にレシアーノは閉じていた目を開くと、目に入った光景に息が止まった。


 破壊された窓硝子、無惨に砕け散った破片、そして部屋の中に入り込んだ赤黒い目をした巨大な黒いもの。

 生き物と呼んでいいのかもわからないそれが、他には目もくれずにレシアーノへと一直線に向かってきていた。


 全身が震えて動かない。

 目を閉じることすら出来ない。

 息を吸うことも出来ない。


 黒い巨大なものが大きく近くなっていく。

 ただそれを見ているだけ。


 何も出来ないで待っているだけ。

 ただ待っているだけ。



(…わたしは…………………死ぬの……………?)




「レシアーノっ!!!!」



 視界が真っ暗に閉ざされる瞬間に、リブラミアの悲痛な叫び声が聞こえた気がした。



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