27 二人の弟
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「ごめんね〜、こんな大人数になると思わなくて食堂に場所を移しちゃって…」
向かい側に座るロランドールが眉を下げて謝ってきた。
朝の約束では図書館で会う予定となっていたのだが、人が増えて騒がしくなり食堂へと移動していた。
レシアーノの左隣には第六王子、右隣には第七王子、テーブルを挟んで正面がロランドール、その両隣には仲良くなった騎士二人、そして騎士の横には後から来たファーゼスが座り、七人が集まっていた。
「い、いえっ…!こちらの方が気兼ねなく話せますし、まだ朝食もこれからでしたので大丈夫ですよ!」
慌ててこちらからも、ぺこりと頭を下げる。
「レシアーノお姉ちゃんは、お姫様でしょ!」
「違ウ、女神様……」
頭を下げたレシアーノの両腕は、横から声がする王子様達に掴まれていた。
両隣の二人の様子に顔の筋肉が緩んでしまう。
(こ、この子たち可愛すぎでは…!?)
ロランドールが可愛がる理由がよく分かった。
第六王子様の名前はユリーラス、十二歳。
ブロンドのサラサラな髪、紫色の瞳、王道の王子様みたいな容姿の少年。
第七王子様の名前はオリアス、十一歳。
黒髪で目が隠れるくらい長い前髪、隙間から覗く青と金のオッドアイ、夜みたいな容姿の少年。
対照的な容姿は、例えるならば陽と陰だった。
ロランドールが『ユリオリ』と呼んでいるこの二人は、基本は王宮ではなく離れの父の元で暮らしているらしい。
女王様の旦那様達と王宮で顔を合わせることがなかったのは、離れで暮らしているからだったみたいだ。
一時は十三人も王宮で暮らしていたそうなのだけれど、女王様の取り合いが激しくなり話し合った結果、離れから毎日一人ずつ王宮へ通うことになったらしい。
「ロラン兄ちゃん、レシアーノお姉ちゃんは『お姫様』だよね!」
「そうだね〜、お姫様だね〜!」
「違ウ……、女神様!」
「あ〜、それもありだね〜!」
「……おい、……………その論争は、なんだ?」
「レシィちゃんはお姫様みたいに可愛いところもあるし、女神様みたいに綺麗なところもあるからさ〜」
『ね〜、悩むよねー』とロランドールが向かい側から二人の王子に投げかけると、同じタイミングで両側からこくりと頷く音がした。
美男ばかりの王子様達に囲まれて『可愛い』とか『綺麗』とか言われるのは恐れ多すぎるし、恥ずかしくて話に加わることが出来ない。
この話を終わらせてくれないかなと期待を込めて、ファーゼスを見る。
すると、ファーゼスが視線に気付き目が合ったかと思えば、また直ぐに視線を外されてしまう。
期待を込めた視線は届かず、悲しい結果に終わった。
「ゼス兄も、そう思うでしょ?」
「…………………何がだ?」
「だ〜か〜ら〜、レシィちゃんは可愛いところも、綺麗なところもあるよねって話!」
「……ああ。………そうだな。両方だな」
無愛想な言葉とは裏腹に、ファーゼスは真っ赤な顔でそっぽを向いた。
(……えっ!?…ファーゼス様が肯定した!?)
「ゼス兄ちゃんが照れた…!?」
「ゼス兄……照レタ……」
「ゼス兄がて〜れ〜た〜!」
「〜っ!………お前ら見るなっ!」
王子四人の話が弾んでいる中、つられて赤くなった顔で向かい側の騎士達に視線を送ると、明るい笑顔が返ってきた。
「「お嬢様は素敵ですからね!!」」
騎士二人の明るい声に、王子達が話を中断して騎士へと振り返る。
「もしかして、君たちもレシィちゃんを狙ってるのー?」
「………………そうなのか?」
王子二人は疑いの目で騎士二人を見た。
「「狙ってなどおりません!!お慕いしておりますが!」」
またも二人の声が重なる。
まるで双子みたいな騎士達に、ロランドールは『ふうん』と納得していない顔をして、ファーゼスは無言でじっと見ていた。
「ま〜いっか、そろそろミア兄とギル兄も来るだろうし、話してないで食べよっか!」
誰も手をつけていなかった皿の上の果物を、白く綺麗な手がひょいっと摘んだ。
***
食事を終えたレシアーノ達はユリーラスとオリアスを見送り、久しぶりに庭園に来ていた。
結局あの後もリブラミアとギルミックが食堂まで来る事はなく、今はロランドールとファーゼスと三人で庭園にいた。
ぼーっと綺麗な花々を眺めていると、そう言えば王子達に聞きたかったことがあったなとふと思い出す。
「一つ聞いてもいいですか?」
「何だ…?」
王子二人に問いかけると、先に返事が返ってきたのは意外なファーゼスからだった。
「その…、第一王子様の名前を知りたいです」
「兄上の…?グレイシオンだ。……言ってなかったな」
(グレイシオン様……、やっと貴方の名前を知れた)
シオン………。シオンと言えば……。
ここの庭園にも紫苑の花が咲いていた気がする。
「あの、この庭園のお花って一輪いただけたり、しないですよね…?」
「レシィちゃん気に入った花があるのー?一輪ならいいと思うよ!ボクが後で摘み取ったって言っとくよ〜」
「ありがとうございますっ!」
ロランドールから了承をもらい、紫苑の花の元へと向かい、手を伸ばす。
「紫苑の花が気に入ったのー?」
「グレイシオン様にお渡ししたいなと思いまして…!月の半分は部屋で過ごされてるそうですし、部屋に花でもあったら気が紛れるかなと…」
「いいんじゃない〜!グレ兄も喜ぶと思うよ!」
「花が枯れる前に会わないとな……。二、三日以内に、会えるよう聞いてみる……」
「ありがとうございます!」
「ああ……、気にするな」
摘み取った一輪の花に願いを込める。
グレイシオン様の瞳より明るい紫色のその花に。
『貴方が明るい世界で生きられる日が、一日でも早く訪れますように』と。
枯れゆく花に、枯れない願いを、そっと願う。
今日も庭園には静かな風がそよそよと吹き、手元の一輪の花を優しく揺らしていった。




