23 迫り来る影
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「……王宮に魔物が侵入した、…と言うことか?」
「一体やニ体が王宮に紛れ込んでいるだけなら、倒してしまえば問題はないのですが……。俺はこの王宮に魔物の根源があると思っています」
「えっ…!?」
「ギル兄それほんとっ!?それが正しいなら、王宮にいるのが一番危ないじゃん!」
「どこかに隠れて紛れ込んでいるか、誰かが裏切って魔物を従えているかの、どちらかかな」
「………そうか。ここにいる全員は…、信じていいか?」
ファーゼスの確認に、全員は静かに首を縦に振った。
「レシアーノは一番危ないから、私の側から離れないでね」
後ろから抱きしめる腕が強くなり、間近にリブラミアの顔が接近してきた。
すかさず隣に座っているロランドールが割って入る。
「ちょっと〜!真面目な話してるんだから、レシィちゃんを口説きはじめないでよ!」
「婚約者を心配して何がいけないの?」
「か、仮です!」
「レシアーノ、どうしてそれをいつも突っ込むの?婚約者にしてくれていいんだよ?」
「それはそのっ……」
「だ〜か〜ら〜!ミア兄、口説くのは後にしてよー!」
「深夜も危険ですし、レシアーノさんが寝る時は、俺が部屋にいますよ」
「「「「……はっ?(……えっ?)」」」」
ギルミックが真顔でさらっと問題発言を口にすると、他の四人の動揺した声が重なった。
レシアーノは目を見開き、ロランドールは楽しそうに口角を上げ、リブラミアとファーゼスはギルミックを睨みつけた。
「私の婚約者の部屋に、夜にお前を入れるわけがないだろ!」
「いいね〜!ボクもレシィちゃんと夜通し女子会してみたい」
「……………女子?……お前、男だろ」
「ボクは女装してもイケるよ〜?レシィちゃんも、ボクの女装姿、見てみたいよね?」
「そ、それは少し気になります、けど…………」
「ほ〜ら〜!ありだって!」
「…………やめろ。気持ち悪い」
「ゼス兄ひどいっっ……!ところでさ〜、何でギル兄がレシィちゃんの深夜警備を名乗り出たの?面倒なこと嫌いなのに意外だよね」
ロランドールの声色が普段より低くなり、探るようにギルミックを見た。
「一番、問題が起こらないと思ったからです」
ギルミックは眉一つ動かさずに淡々と返答をした。
そこに横からファーゼスが疑問を投げかける。
「問題が………、起こらない?」
「はい。リブラミア兄様とファーゼスは、レシアーノさんと一晩二人だけで過ごしたら、我慢が効かなくなりそうでしたので」
「…………………………」
「ボクはー?」
「ロランドールは寝る時いつも全裸ですよね。論外です」
「え〜!レシィちゃんがいる前ではバスローブくらい着るよ?……あ、女装するのか」
「それならいいですけど」
「…………それなら、いいのか。…………駄目だろ」
ファーゼス、ギルミック、ロランドールだけで会話が進む中、一言も話さなくなったリブラミアをちらりと盗み見ると、真っ黒な霧に覆われた姿で肩を震わせていた。
(なんか既視感がっ……!?)
リブラミアが怒り出して部屋を破壊しないように、慌てて三人の会話に割り込む。
「わ、わたしは大丈夫ですよ!最近は部屋の外で騎士様が警備して下さってますし、王子様たちに夜通し警備なんてさせられません!」
「そうですか?レシアーノさんは王宮の大切な客人ですし、気になさらなくてもいいですよ」
「……………もっと、頼れ」
「ボクも楽しそうだしいいよ?あ…!それじゃ〜、レシィちゃんに誰がいいか決めてもらおうよ!」
「わたしが、決める…?」
「うん!誰がいいー?」
ロランドールの愉快そうな表情から、冗談で聞かれているのだと察する。
王子様の中から自分が選ぶなんて烏滸がましいけれど、答えないと会話が進まない空気となってしまった。
(一番、波風が立たなそうな人を選ぼう……)
ただの冗談なのに妙に気恥ずかしくなり、王子たちから視線を逸らして小さな声で答えた。
「それなら………、ギルミック様が、いいです……」
………………………。
この場の空気が止まった。
息遣い一つすら聞こえないほどに静まり返る。
(わたし、何かまずいことを言ってしまった…?)
予想外の空気に一筋の冷たい汗が背中を伝う。
緊張で心臓がバクバクと音を鳴らし始めた時、ゆるっとした声がした。
「あーあ、ボク振られちゃった。まぁしょうがないか〜。そのうち女子会しようね、レシィちゃん!」
最初に沈黙を破ったのはロランドールだった。
いつもと変わらないテンションで笑いかけられる。
「振る…!?そんなつもりで言ったわけではないですよ!」
「ふうん、そう〜?……それより、兄さんたち大丈夫?」
ロランドールが心配してない顔で、リブラミアとファーゼスを見た。
つられて二人に視線を移すと、暗い瞳で仄暗い顔をしたリブラミアと、不安定に瞳を揺らしながらこちらを静かに見るファーゼスがいた。
(やっぱりわたし、まずいことをしてしまったのね!?)
背中に流れた汗が、今度は額からも流れ出した。
何を言えば正解なのか分からず、おどおどしながら声を上げる。
「深い意味はないですよ!?一番安全だと思ったんです!」
「…………………俺は、安全ではないのか?」
「私は貴方を守る自信がありますよ。それなのに…、どうして他の男を選ぶのですかっ…?」
向かい側から立ち上がったファーゼスがじりじりとレシアーノの方に近づき、間近にいたリブラミアからは体を両腕で拘束された。
「そういうところではないでしょうか」
二人を観察していたギルミックが、鋭い刃を二人に向けて投げかけた。
じわりと近寄って来ていたファーゼスの足が止まり、体を拘束していた手もピクッと反応した。
「……悪い。……………………気をつける」
「レシアーノは私の婚約者ですっ…。私以外を選ばないで下さいっ…!」
眉を少し下げて素直に謝るファーゼスと、腕の力を強めて縋りつくリブラミア。対照的な二人に困惑して、返す言葉が見つからず黙り込む。
そんな三人をロランドールはやれやれという顔で受け流し、ギルミックは真顔で観察をしていた。
なんとも言えない空気が漂う図書館の外を、一つの影が通り過ぎていった。




