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精霊の花嫁〜迷い込んだ精霊の国は、男女比100対1の逆ハーレム国でした〜  作者: 夜風ほたる


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第十五話

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「リブラミア様、わたし、聞き間違いをしたかもしれません。もう一度、お聞きしてもいいですか?」

「うん?まさかレシアーノに興味がある素振りを見せられると思わなくて、私は少し警戒している、と言ったが?」

「その前です!」

「ガラルク宰相が未婚の理由は男好きだからだと言われている。最近の噂は、婚約した男を片っ端から寝取るとまで噂が大きくなっているんだ、と言った」

「こ、婚約した男を寝取る!?ガラルク様が…!?」

「ああ。噂だが」


 いや……、待ってくれ。幻聴であって欲しかった…。

 これはロランドール様より危険な人物と接触してしまったのでは!?

 男性が圧倒的に多い国だし、男性同士の恋愛自体は否定しないけれども、寝取るのは最低すぎない!?

 しかも片っ端からって何人被害に遭ってるの!?

 怖すぎる……!

 バーテンダーで働いてるバーがあったとしても、絶対通わないわ!わたしのトキメキを返して下さいっ!

 というか、わたしよりもリブラミア様とファーゼス様の方が危険では!?

 恋物語では婚約者に女性のライバルとか現れたりするけど、男女比がここまであるとライバルも男性なの!?

 ボーイズラブとか始まってしまったら、わたしはこの国でどんな顔して生きていけばいいの……?

 そうか、早く元の国に帰ればいいのか。そうだった。そうだよね。帰りたい。


 脳内パニックを起こし、オロオロし出したレシアーノを横目に、リブラミアは呑気に紅茶を口にしていた。


「レシアーノ、安心して。私は貴方だけだからね」

「リブラミア様はどうしてそんなに冷静なのですか!」

「ただの噂だからね」

「王宮で被害に遭った人はいないのですか?」

「ここは婚約者や配偶者がいる人が少ないからね…。流石に女王様、姉の夫に手は出さないだろうし、他には兄上くらいしか対象がいなかったから」

「兄上…?」

「私の兄上、第一王子には婚約者がいるんだ。兄上は私とも年齢が少し離れていてもう二十三歳なんだが、結婚していない理由は婚約者がいるからなんだ」

「そうだったのですね。その第一王子様の婚約者様はどちらに?」


 話の流れで当たり前に尋ねた質問に、リブラミアは暗い表情をした。予想外の反応に、レシアーノは唾を飲み込み言葉を待つ。

 リブラミアは手元の紅茶が入ったティーカップを見つめながら、ぽつりと呟いた。


「それが、居場所が分からないんだ……」

「え…?」

「兄上が頑なに口を割らないし、捜索を出しても名乗りを上げた女性はいない。兄上が話さないところから、身分差や事情がある女性だったら……、女性側から名乗りを上げることはないだろう」

「確かにそうですね」

「それに………」


 まだティーカップ見つめている瞳が不安げに揺れる。それから少しの間を置き、苦しげな声でぼそりと告げられた。


「生きているかも、分からない……」

「えっ………?婚約の契約は、亡くなっても消えないのですか?」

「どちらかが亡くなった場合は、生きている側の意志で契約を解消することは出来る。だけど……、あの兄上が解消するとは思えない」

「そうなのですね……。第一王子様は婚約者様を愛されているのですね」

「ああ……。今も兄上は苦しみ続けている」

「その、第一王子様は、婚約者様を探しに行ったりはしないのですか?」

「兄上は数年前に大怪我をしてから、魔力を暴走させてしまうようになってしまったんだ。だから、月の半分以上は自室で過ごし、王宮を出ることが出来ないんだ」

「そんな………。ごめんなさい。言いづらいことを聞いてしまって」

「いや、いいんだ。兎に角、この王宮で被害に遭った男はいないから、あくまでも噂だと思ってくれ」

「はい……」


 ガラルクの件でパニックを起こしていたレシアーノの脳内は静まり返り、第一王子と婚約者の話に胸が締め付けられ、拭いようもない無力感に支配された。


 テーブルの上に残った料理を目にしても、食事を再開する気分になれず、自然と視線が下がり俯く。

 重く冷たい感情が纏わりついた体に、ふわりと優しい温もりが横から加わった。体を包み込むリブラミアの腕が視界に映り込む。


「ありがとう…、レシアーノ。兄上のことを気にかけてくれて。だけど……、私は貴方が悲しい顔をしているのを見るのは苦しい。だから、貴方がそんなに思い詰めないでほしい」


 優しい温もりに包まれながら、静かな声が耳に届く。重く冷たい感情で潰れかけていた心臓が、次第に穏やかに動き始める。


 トクン…トクン…


 二人の心臓の音だけが聞こえる。言葉はない。物音もしない。静まり返った部屋に、優しい温もりだけが寄り添ってくれていた。


 幾らか気持ちの整理がついた頃、俯いていた顔を上げると、紫色の優しい瞳が様子を窺っていた。


「リブラミア様……」

「どうしたの?」

「あ、いえっ…、ありがとうございます」

「ああ、落ち着いたみたいで良かった」

「はい……」

「………………………………ねぇ、レシアーノ」

「はい、なんでしょうか」

「愛しているよ」

「え…?」

「レシアーノ、…………どこにも行かないでね」


 紫色の真っ直ぐな視線がレシアーノの心に訴えかけてくる。

 優しく儚く細められた瞳に、ギシギシと歯車が狂い出すように胸が悲鳴を上げた。


 わたしは人間だ。この国で生きることは許されないだろう。だから、彼を裏切らなけばならない。

 それなのに…、日を増すごとに罪悪感だけではない感情が込み上げてくる。

 その優しい紫色の瞳が、暗闇に堕ちて冷たい雨に濡れる姿は見たくないと思ってしまう。

 一緒に過ごせば過ごすほど、離れ難くなる……。

 それならば、出来るだけもう会わない方がいいのだろう。明日からは、そうしよう。

 丁度良く王宮の中も案内してもらえたし、明日から図書館にも通って、この国のことや魔物についても勉強しよう。パルム国へ帰る方法を探すために。


 いつの間にか考え込み、紫色の視線から目を逸らしてしまっていた。その視線が、覗き込むようにまた視線を合わせてくる。


「レシアーノ…?何を考えているの?」

「ご、ごめんなさい!少し疲れてしまって…」

「そうか、無理をさせてしまったね。今日はもうゆっくり休むといい。使用人に人払いを頼んでおくから、湯浴みをして、すぐに休むんだよ」

「はいっ…、ありがとうございます」

「ああ…。また明日の朝、会いに来るね」


 不安げに揺れる紫色の瞳に、最後まで見つめられていた。レシアーノと離れ難いのか、話し終えた後も暫く抱きしめられた腕の力が緩まることはなかった。

 それから数分が経ち、そっと腕が解かれリブラミアは部屋から出て行く。

 扉を閉める時に見えた横顔は、どこか寂しそうな表情をしていた。


 あれから湯浴みを手短に済ませ、ベッドの上に腰掛けていた。

 今日一日のことを振り返り、また気分が沈み込む。

 顔を横に振り、取り敢えず寝ようと掛け布団を掛け、枕に頭を乗せて、瞼を閉じた。

 いつもより冷たく感じるシーツに、体を丸めて眠りに着いていた。



***



 朝日が地上から顔を出し始めた頃、レシアーノは目を覚ました。

 この部屋で迎えた朝の中で、一番早い起床だった。

 リブラミアが会いに来るよりも前に着替えを済ませ、部屋から出た。

 扉の外には誰もいない。一度部屋に戻り、置き手紙を残し、また部屋から出た。

 行き先は図書館。早すぎる時間帯にレシアーノの他には誰もいない。

 千冊以上も本が並ぶ図書館内を、ぐるっと一周回り目当ての本の在処を探す。

 タイトルに惹かれた数冊を手に取り、読書スペースの一番端の椅子に座り、テーブルに本を置く。

 『フィリモ国の歴史』と書かれた本を手に取り、一頁目から捲り始める。十頁目まで差し掛かると瞼が重たくなっていた。朝早くから本を読み始めるのは良くなかったようだ。

 一度本をテーブルに置き、瞼を閉じる。その瞼が開かれないまま意識を手放していた。

 置き手紙に書いた時刻よりも時間が過ぎても、瞼は閉じられていた。




リブラミアの仄暗い性格が、今日たまたま聴いた須田景凪さんの「悪夢」という曲に似ているなと思いました。

YouTubeにありましたので、もしご興味があれば聴いてみて下さい!


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