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信成の野望

翌朝。


イズミマチ本社、会長室。


信裕は父の前に座っていた。


昨夜、父が言った言葉が頭から離れない。


――タキヤに頼む。


「父さん……」


信成は机の上の資料から顔を上げた。


「何だ」


「タキヤに、どう頼むつもりなの?」


信成は少し考えるように、資料へ目を落とした。


「まず、タキヤ向けの価格を下げる」


「どれくらい?」


「十パーセントだ」


信裕の眉が動いた。


「十パーセント……」


「ああ。その代わり、タキヤには資金を出してもらう」


「設備投資のために?」


「そうだ」


信成は椅子に背を預けた。


「自動化する」


「人間がやっている仕事を、機械にやらせる」


「人件費を減らす」


そして、間を置いた。


「生産量を増やす」


信裕は黙って聞いていた。


信成の頭の中では、すでに計算ができている。


「大量に作れば、原価は下がる」


「十パーセント値段を下げても、利益は出せる」


信成は言った。


「利益は作り出すものだ」


信裕は、机の上に積まれた資料を見る。


その中に、FLXシリーズの資料があった。


信成がそれを手に取った。


「FLXか……」


ページをめくる。


「これは、まだ使えるだろう」


「でも、かなり在庫が……」


「インターフェイスを替えればいい」


信成は即答した。


「本体まで捨てる必要はない」


信裕は少し黙った。


「……そんなに簡単にいくのか?」


信成が顔を上げる。


「簡単じゃないさ」


「だが、やれる」


「在庫分は改造する」


「そして、少しずつ値下げしてでも売ればいい」


「それで現金にする」


信成は資料を閉じた。


「使えるものを眠らせておく必要はない」


信裕は父を見つめた。


在庫を減らす。


設備を自動化する。


生産量を増やす。


原価を下げる。


そして、価格を下げてでも売る。


すべてが一本の線で繋がっている。


だが、その線の先にあるものが、本当に再建なのか。


信裕には、まだ分からなかった。


信成は立ち上がった。


「イズミマチは、まだ終わっていない」


低い声だった。


「俺が立て直す」


信裕は聞いた。


「そのために、タキヤに頼るんだね」


信成は首を横に振った。


「違う」


「これは自力再建だ」


信裕は父を見る。


「タキヤに金を出してもらうだけだ」


「会社を立て直すのは、俺たちだ」


そして信成は、静かに言った。


「タキヤなら、分かってくれる」


信裕は何も答えなかった。


信成は窓の外を見る。


工場では、今日も機械が動いている。


しばらく沈黙が続いた。


やがて信成が、ゆっくりと口を開いた。


「……最悪の場合の話だがな」


信裕が顔を上げる。


「俺の株を出してもいい」


「……株を?」


「ああ」


「どれくらい?」


信成は振り返った。


少し間を置いてから、言った。


「全部だ」


信裕は息を呑んだ。


「俺の十八パーセントを、タキヤに渡してもいい」


「それでイズミマチを残せるならな」


信成の声に迷いはなかった。


自分が長年守ってきたもの。


それを手放す。


それでも――


「会社を残す」


信成は、それだけを見ていた。


信裕は答えられなかった。


父の目には、もう未来が見えているようだった。


やがて信成は、信裕をまっすぐ見た。


「交渉が上手く進めば――」


一拍。


「お前が社長だ」


その言葉が、信裕の胸に重く沈んだ。


信裕は、何も言わなかった。


ただ父を見つめていた。


窓の外では、工場の機械が変わらず音を立てている。

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