↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
114/124

悪夢

平成二十三年、春。


午前二時を過ぎていた。


伊東信裕は、深い眠りの中にいた。


夢を見ていた。


そこは、見渡す限りの広い倉庫だった。


いや――倉庫なのか、工場なのか。


判然としない。


ただ、そこには大量の段ボール箱が積み上げられていた。


何段も。


何列も。


まるで山のように。


箱には、すべて同じ文字が印刷されている。


――IZUMIMACHI。


信裕は、その山を見上げていた。


どこまで続いているのか分からない。


そのときだった。


目の前に、見知らぬ男が立った。


スーツ姿。


中国人だろうか。


中国の商社の人間のようにも見える。


男は信裕を睨みつけた。


そして、指を差した。


「お前のせいだ」


信裕は息を呑んだ。


「……え?」


男の背後に、人影が現れた。


征広。


北沢。


父、信成。


習志野専務。


兵藤課長。


芝係長。


一人、また一人と現れる。


そして全員が、信裕を指差した。


「お前のせいだ」


「お前のせいだ」


「お前のせいだ」


声が重なっていく。


「お前のせいだ」


「お前のせいだ」


「お前のせいだ!」


段ボールの山が、また高くなる。


IZUMIMACHI。


IZUMIMACHI。


IZUMIMACHI。


視界いっぱいに、その文字が広がっていく。


人影が近づいてくる。


信裕は後ずさった。


しかし、足が動かない。


「違う……」


声が出ない。


「俺じゃない……」


人影が迫る。


「やめろ!」


叫んだ。


「やめてくれ!」


――そこで、目が覚めた。


信裕はベッドの上で上半身を起こしていた。


全身、汗で濡れている。


激しく息をしている。


胸に手を当てた。


心臓が、まだ夢の中にいるように激しく鼓動していた。


暗い部屋。


隣では妻が眠っている。


信裕はしばらく動けなかった。


やがて、ゆっくりとベッドを降りる。


水を飲もうと思った。


寝室を出る。


廊下を歩き、リビングへ入った。


電気は点いていた。


「……?」


信裕は足を止めた。


そこに、父がいた。


伊東信成。


机の上には新聞と、何冊かの資料。


信成は眠っていなかった。


「父さん……」


信成が顔を上げる。


「どうした、信裕」


「……いや」


信裕は言葉を濁した。


まさか、夢を見たとは言えない。


信成は息子の顔をじっと見た。


そして、静かに言った。


「心配するな、信裕」


その声を聞いた瞬間。


夢の中の声が、信裕の頭の中で蘇った。


――お前のせいだ。


信裕は、思わず目を伏せた。


信成は、それに気づいた様子もなく続けた。


「会社は、俺が立て直す」


「……」


「心配するな」


信裕は黙っていた。


父の言葉なら、安心するはずだった。


昔からそうだった。


会社が苦しいとき。


何か問題が起きたとき。


父はいつも、最後には道を見つけてきた。


それなのに――。


今夜だけは、その言葉が妙に重かった。


信成は机の上の資料に目を落とした。


しばらくして、ぽつりと言った。


「……タキヤに頼む」


信裕は顔を上げた。


「タキヤ……?」


信成は答えなかった。


ただ、資料を閉じた。


信裕は父の横顔を見つめていた。


胸の奥に、言いようのない不安が残っていた。


――タキヤに頼む。


その言葉だけが、いつまでも耳に残っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。