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リセ:ット  作者: 矢部夏 泡太


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7/12

15:00 第三章 【信人】後編

スマートフォンが震える。


画面には信人の名前。


勇気はしばらく見つめていた。


出たくなかった。


声を聞けば。


また失うからだ。


それでも通話ボタンを押した。


「もしもし」


『おい、勇気!』


いつもの信人だった。


元気で。


うるさくて。


少しだけお節介で。


勇気の親友だった。


『なにしてんだよ!?講義始まってんぞ!』


『公園でぼーっとしてたよ。』


『公園にいるのか?』


「・・・ああ」


『待ってろ。今行く』


電話は切れた。


勇気はスマホを握ったまま俯く。


「来るね」


美咲が言う。


勇気は頷いた。


信人は来る。


絶対に来る。


そういう奴だから。


勇気が小学生の頃

高学年の子達にいじめられていた時。


自分よりも体の大きな相手に

友達を助ける。


ただそれだけの理由で立ち向かった信人。


そういう奴なんだ。



二人は公園を見渡した。


子どもが遊んでいる。


犬を散歩する老人がいる。


高校生らしきカップルが笑っている。


平和だった。


自分たちだけが異常だった。


こんな世界の中で。


何十回も死んでいる。


何十人も殺している。


その事実だけが浮いていた。


やがて遠くから声が聞こえた。


「おーーーい!!」


信人だった。


息を切らしながら走ってくる。


勇気は思わず立ち上がる。


信人はベンチの前まで来ると膝に手をついた。


「はぁ・・・はぁ・・・」


信人は自分の心拍が上がってるのに気づく。


そして顔を上げる。


「大学辞めるって何なんだよ」


真っ直ぐな目だった。


怒っている。


心配している。


その両方だった。


「何があった?」


勇気は答えない。


答えられない。


信人は続ける。


「俺じゃ頼れないのか?」


「俺が助けてやる、なんか言えないわけがあるんだろ?」


その言葉が刺さった。


勇気は思わず顔を背ける。


信人は昔からそうだった。


困った時に必ず隣にいた。


小学校でいじめられた時も。


受験に落ちた時も。


父親の話をされた時も。


ずっと。


ずっと。


隣にいた。


だから。


余計に苦しい。


「信人」


勇気が口を開く。


「なんだ?」


「俺たちが死んだらどうする?」


信人は疑問に思うも


「オメーらなぁ、死ぬなんて考えんなよ?

俺みたいに体が弱くても、

必死に生きてるやつもいるんだからな」


「死ぬんなら、その分の寿命をくれ!」


と冗談混じりに話す信人。


これが信人だ。


「信人、お前は将来どうなりたい?」


信人は笑みを浮かべながら


「もちろん、可愛い嫁さんと結婚だな!」


「あとは普通に働いて、お前らとバカできて」


「かーちゃん、とーちゃんに親孝行して」


「子供も作ってさぁ。まあそんなありきたりな将来がいいよな。」


と満足げに語る信人を見て。


「ありがとうな」


信人は首を傾げる。


「は?」


「今まで」


「何言ってんだお前」


勇気は笑った。


泣きそうだった。


「親友でいてくれてありがとう」


信人は完全に困惑していた。


「お前大丈夫か?」


美咲も涙を堪えていた。


もう決めていたからだ。


二人は。


信人を殺さない。


たとえリセットされても。


もうこれ以上。


自分の意思で親友を殺したくなかった。


勇気はベンチの下に封筒を置いた。


そして立ち上がる


「悪い」


「俺らもう行くわ」


「は?」


「またな」


信人は腕を掴もうとした。


しかし勇気は振り返らない。


美咲も振り返らない。


二人公園を後にした。


信人だけが残された。


「なんなんだよ・・・」


信人は呟く。


そしてベンチに座る。


その時。


封筒に気づいた。


中には手紙が入っていた。



 信人へ


もしこれを読んでるなら

俺はお前に会わない選択をした。


お前を巻き込みたくなかったからだ。


俺は今までお前に何度も助けられた。


でも今回は違う。


お前だけは助けたい。


  ごめんな。


           勇気


たったそれだけ。


それだけだった。


信人は笑った。


「なんだよそれ・・・」


信人の心拍は上がり続けてる。


「はぁはぁ、今日は走りすぎたかな。」


ズキッ


胸に激痛が走る。


信人の顔色が変わる。


手紙が地面へ落ちた。


「ぐっ・・・」


胸を押さえる。


「無理しすぎたか」


発作が起きたのだ。


「薬、くす・・り・・・」


薬を探すが走ってた際に落としていた。


息ができない。


信人には持病があった。


心臓の病気。


昔から定期検査を受けていた。


だが今日は無理をした。


大学から走った。


心配で走った。


親友のために。


そして。


倒れた。


「たす・・・」


誰もいない。


公園の奥。


人影はない。


信人は地面を這う。


手を伸ばす。


誰か。


誰でもいい。


助けてくれ。


最後の力を振り絞り


信人は勇気に電話する。


勇気は信人の着信に気づく。


「信人から電話だ。」


「あいつ手紙読んだか。いても立ってもいられなくなったな。」


「あいつのためだ。」


そしてそっと携帯をポケットしまう。


「あいつは巻き込みたくない。」


信人は携帯を握りしめる。


鳴り響く呼び出し音。



プルルルル。


プルルルル。




『おかけになった番号は

現在繋がりません。』




ッーー。


ッーー。





信人の願いは届かなかった。


視界が暗くなる。


最後に見えたのは。


勇気の手紙だった。


そして信人は動かなくなった。


その頃。


勇気と美咲は公園から離れた場所を歩いていた。


時計を見る。


15:10


まだ生きている。


15:20


まだ生きている。


15:30


まだ。


リセットされない。


勇気は足を止めた。


「なんでだ?」


美咲も立ち止まる。


「信人を殺してない」


「なのに」


時間が進んでいる。


その瞬間。


スマートフォンが鳴った。


知らない番号だった。


勇気は出る。


女性の泣き声。


「勇気くん・・・?」


聞き覚えがある。


信人の母だった。


嫌な予感がした。


全身の血が冷える。


「信人が・・・」


泣き声。


嗚咽。


そして。


「さっき発作が起きてね。

 信人が亡くなったの・・・」


手からスマホが落ち

アスファルトにぶつかる音がした。



聞こえたのは信人の母の鳴き声だけだ。



勇気は崩れ落ちた。


信人を殺していない。


救った。


そう思っていた。


でも違った。


自分たちは知っていたのだ。


信人が来ることを。


信人が危険かもしれないことを。


それなのに。


公園を去った。


助けを呼べたかもしれない。


救急車を呼べたかもしれない。


隣にいれば助かったかもしれない。


最後の電話に出ていれば

信人は死なずに済んだかもしれない。


だから。


殺していないわけじゃない。


見捨てたのだ。


勇気は膝から崩れ落ち、地面に拳を叩きつけた。


涙が止まらない。


「ごめん・・・」


拳から血が出るまで地面を殴り続けた。


母に続いて。


親友まで失った。


まるで子供が泣くかのように

あたりには勇気の泣き声が響き渡っていた。


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