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90 転移の固定

その後、魔の溜め池でオ・ジンが魔を精製し始めた。

葉っぱに魔をくみ上げて、花芯から光を放射し浄化する。精製された魔を聖獣たちにちょっぴりずつ分け与えていた。

《まったぐ! けちくせェな》

朱雀は相変わらず、オ・ジンに対して辛辣だった。

聖獣たちはそれでも喜んでオ・ジンにお礼を言って散っていった。

彼らはこの渓谷で暮らしている。

オ・ジンによれば、広大な砂漠で生れた聖獣たちは、ここに集まってくるのだという。

一部はまだ、砂漠にいるかも知れないが滅多に生れないし、砂漠は広大だ。探すのは至難の業だろう。


私が砂漠でポンタに会えたのは、幸運だったのだ。陸奥の魔の池では朱雀とも知り合えたし、ブリス国ではウィプスと知り合えた。

でも、ウィプスは何れ返さなければならないだろう。

精霊となるべくして生れたのだ。彼は、ブリスの魔を浄化するために、生まれ出でたのではないだろうか。

私を見上げてニカッと笑うウィプス。

――まだまだ返す事は、出来なさそう……。

ウィプスを抱き上げて、乱れた銀色の髪をなでつけてやる。

「さあ、また帝国へ行かなきゃ。ポンタ、お願い。アサド王には今回だけ許してもらっているから、宮廷へ転移してくれる?」


《うん。じゃぁ、いくよーっ》

目の前に、びっくり顔のアサド王が立っていた。

ポンタ、いきなり玉座の間に転移はしないで欲しかった。

「すみません。急いでお知らせしたいことが出来ましたので……つい」

「……いや、許可を出したのは私だ。だが今度からは、せめて扉の前にして欲しい。突然目の前に来られれば、驚いてしまうのでな」


今、ここにラシードはいないようだ。ネフェラ教授の屋敷を探索しているのだろう。

エイリックが進み出て、ことの顛末を話したいと申し出る。

アサド王は別室に移動して話を聞こうと、個室へ移動した。

側近もすべて退室させられて、この部屋にいるのは私たちだけだった。

私たちは用意された紅茶をゆっくり味わいながら、ラ・ジンのことを話始めた。

「ラ・ジン……砂漠の民に伝わる風の神の名前だった気がする……」


アサド王の部族は、ほとんどが殺されて、部族はなくなってしまったが、砂漠の部族の中では歴史ある古い部族だったそうだ。

彼らが住んでいたオアシスには伝説があって、ラ・ジンという名の風の神が語られていたという。

「闇と光があっても、不思議はないと? 異常なことではないと言ったのか、ラ・ジンは」

「はい、ラ・ジンが、そう教えてくれたのです。むしろ自然な姿だと」

エイリックがラ・ジンに聞いた魔の基本理念は、アサドにとっても救いとなったようだ。心なしかアサドの表情から影が薄まったように見える。

「では闇の属性を持ったものでも、転移の間に紐付けられてしまえば、それ以上のスキルは得られない。その認識で間違いがないのだな」

「私もその事が今やっと理解できました。今まで不思議だったのです。スキルは使うほど成長すると思っていましたが、なぜか転移人のスキルは固定されたままでしたので」

エイリックもアサドも同じ結論に至った。

ここにいるのは為政者たちだ。転移は制御しなければ危険だ。

私もそう感じる。今回のように、国の中心部に簡単に入り込まれてしまえばどうしようもなくなるのだから。

「転移のことと、闇の属性のことは、魔の体系の奥義として隠蔽していくしかなかろうな……」

過去の為政者たちもそういう結論に至ったはずだ。

そして、ゆっくりと魔の基本理念が忘れ去られていったのだろう。

どうしようもないことなのだろう。

私は首をかしげて、一人逡巡する。



ともかくエイリックが欲しがっていた転移の間は簡単に作れることが判明したのだ。

アサド王も、

「転移の間を増やす方向で世界に告げる。その方が使い勝手もよくなるだろうし、転移人の管理にもなる」

転移できる自由を広げれば、転移というスキルを利用する機会が増える。そうなれば、闇の他のスキルからも目を反らすことにも繋がる。そう考えたのだ。

今でも各国には転移人は複数人抱えている。彼らの活用をますます増やすことになるのだ。

これからは、自由に転移の間を使い領地から首都へ、他の国へと移動出来るようになりそうだ。


「エイリック。国交を結んでいない国とも転移出来るのはどうして?」

「国交は深いかどうかの問題だ。どこの国とも不和が起きていないだろう?」

そうかしら。だったらなぜエイリックはレイシス国と諍いになったの。

なんとなく、もやっとする。

でも、考えて見れば、世界商人はどこの国へも行き来している。

国同士の戦争などは滅多に聞かない。

ポルトン国は自国内の諍いだった。

実際、転移がなければ、他国との交流は難しいほど国と国の距離が離れているのだ。

国境紛争などは起きそうもないから問題はないのだろう。


その後、クラウゼルト領の新たな領都の建設が始まった。

資金は確保できている。レオポルドや、プロイスタン王の援助もあり急ピッチで進められていた。

まずは転移の間の建設を急がせ、転移人の確保も出来た。

プロイスタン国には闇の属性を持つものが増えているという。

帝国の学園に行かない生徒たちは紐付けられていなかったせいだった。

エイリックは今回の事をプロイスタン王にも話した。

王は難しい顔で悩み始めた。

「せっかく闇を成長させる方法が分かったのに固定してしまうのは勿体ない気がする。だが転移は危険だというのも分かる」

今、紐付けられていない転移人は二人いるという。その内空間庫が使えるのではないかと期待していたそうだ。

「学者たちに研究させるか。転移だけを固定できる方法を……」


***


ヤマタイラ国やミクロン諸島、ポルトン国とブリス国、そしてプロイスタン国は今後のこともありアサドから話し合いを設けたいと招集がかかった。

各国には独自に間を摂取し始めている実績がある。

この危険性を話し合うためだった。

ヤマタイラからは東吾親王が、ミクロン諸島からはボボ殿下が、そしてポルトン国はメイリーンが来ていた。

他の国家も元首がきて、アサド王の話を聞き理解を深めたようだ。

「便利であり、危険である転移は国同士が管理し万が一の事があれば互いに管理していかねばならない」

「そうでした。間は素晴らしいものですが同時に扱い方には危険も伴うと納得しました」

「おいの島では、転移人が多いだす。島と島の行き来に使っているだすが……固定されればこまるだす……」

「転移の間は簡単に作れる。島にすべて作る事を許可する。その真理を授けよう」

アサドは気前よく転移の間の作り方を教えた。

プロイスタン王は、

「今研究させておる。転移だけを固定できないかと。その研究の成果が出来れば、皆さんに共有しようと思う」

皆がその話を聞き、和やかに会議を終わらせることが出来た。


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