87 クラウゼルト領の新領都
デザート連山から数キロ東にあるオアシスに街が建設された。
この街は今後領都となるとエイリックは言う。
現在の領都はレイシス国との国境に近すぎるうえに、領民の数も少ない。
レイシス国との戦乱で、もともとの領民の半分はレイシス側へ逃げてしまったのだという。
残っ多人々は、逃げる術もなかった貧しい人々と、行き場のない人々だけだった。
元々はレイシス国の領土だったのだ。レイシス国が、無駄に仕掛けてきた戦の結果、手放す羽目になった領地だった。
ここはほとんどが砂漠だ。
今まで見向きもされずに、放って置かれた領地でもあった。
これからのエイリックは、レイシス国との国境を守りながら、この、苛酷な領の運営をしていかなければならない。
「エイリック、ここの運営は大変そうね。流通もままならないわ」
しかも、作物も採れない砂漠だ。
レイシス国との交流はしばらくないだろう。
遠く離れたプロイスタンから食糧を仕入れる事になりそうだ。
「食糧は私とポンタが運ぶから大丈夫なことは大丈夫だけれど、他の商人はどうする?」
「私は、ここに転移の間を作ろうと思う」
エイリックは、とんでもないことを言い始めた。
転移の間は、本来、国の主要都市に一つしかない物だ。
帝国でも確か一つしかなかった。
「そんなこと、帝国は許すかしら」
「転移の間を増やすように進言してみる。そうしなければ、今後、紐付けられていない転移人が増えていくことになる。それは非常に危険な事なんだ。だから、転移の間を増やせば、使い勝手が良くなるし、管理もできる」
転移は便利なようで不便だ。転移の間に紐付けられているため、転移人は転移の間がなければ行き来出来ないようになっている。
そうだ。あちこちで自国の魔が取れ始めている。
これからはどこの国でも紐付けされていない転移人を抱えることになりはしないか。
自分がそうだから、紐付けされると自由がなくなるのはいやだったけど、いざ、こうして領の運営をして行く立場になると、勝手に転移されるのは非常に危険だと思い始めた。
「これから各国が転移人を量産し始めれば、経済が崩れる。その為にはもっと便利に使えるように、転移の間を増やすべきだ」
「ポンタの転移も申告した方がいいのかしら。エイリックの言うとおりなら、転移人の管理が必要になるはずよ」
「聖獣の場合は、紐付けできないかもしれない。今後の課題だな」
ほっとしたような、嬉しくないような――複雑な気持ちだ。
転移の間は、帝国が編み出した部屋だ。部屋の壁に転移人の血液を登録すると、転移の間でだけ転移が出来るようになる。なぜか転移が固定されてしまうと言うのだ。
どこの国へ行っても、転移の間が同じような造りだったのはその為だった。
当初は、帝国でなければ魔を授けられるかはなかったけど、今後は変わって行くだろう。
エイリックは今のうちに規制を設けるべきだという。
たしかに、今のうちに制度を整えなければ、この後困るのはどこの国でも同じなのだ。
転移は便利だけど、このスキルは管理するのは難しい。
一度行った場所には転移出来てしまうし、見えている範囲なら転移が出来る。
私のような中途半端な転移持ちもきっといるはずだ。
私が考え込んでいると、エイリックは心配のしすぎだという。
「転移のスキルは、滅多に発現しない。空間庫よりは多いが、闇の属性持ち自体が少ないんだから」
今では光の方が発現しやすいと知られてきた。
女性に限って言えば、光は見つかるようになったのだ。
「転移のスキルを解明できないかしら。そうすれば、欠点が見つかるのに」
「それも、これからの課題だな。分かっていることは血液を登録しておけば、一定の場所に固定してしまえると言うことだけだ」
でも、転移の間はどうやって固定させているのだろう。
あの仕組みを考えた王族は、アサドによって処刑されたのではなかったか。
「エイリック。転移の間ってこれから作れないのじゃない? 魔調整学園にいた教授が転移の間を作り上げたって私たち習ったはず。あそこにいた王族は、ネフェラ教授だけだったような記憶がある」
「……彼女は処刑されてしまった。アサドはこの事を知っていたはずだ。これからどうしていくつもりだ」
エイリックは途端に顔を青くして、急いでアサド王のところへ行こうと言い始めた。
一旦プロイスタンの王都へ行き、そこの転移の間から行く必要がある。
このワンクッションがある為、簡単には転移は使えなかったし、不便でもあった。
でも、これはすごく重要な不便さだった。
この世界は国境は決まってはいるけど、必ずしもはっきり線引きしているとは言えなかったし、国と国の距離もかなり開いている。
転移を使わずに他国へ行くとなれば相当な時間が掛かるのだ。
「エイリック。少しだけ待って。もう一度だけ渓谷へ行きたい。花の精霊の名前を聞いておきたい」
「ああ、そうだな。転移の問題をかたづけるには時間が掛かるだろう。私も、今のうちに魔物も倒して魔と交換した方がいいな」
エイリックと私、朱雀ポンタは一気に転移で渓谷の魔物がたくさんいる場所に来た。朱雀が炎撃を飛ばし魔物をかたづける。逃げ遅れた魔物をエイリックが剣で仕留めた。
二十体ほど倒してポンタの空間庫に収納してもらう。
後は魔のため池に転移する。
あっと言う間に片がついたので、花の精霊を呼び出した。
「すみません。精霊さん」
《***》
「魔物を二十体始末しました。魔を分けてもらえますか?」
《……**》
精霊は渋々四枚の葉っぱに魔を組んで差し出してきた。それもポンタに収納してもらう。
「精霊さんの名前を教えて頂けますか?」
《オ・ジン》
え、言葉が……名前を教えてくれたようだ。
「オジイさんですね。これからもよろしく!」
《オ・ジン!!》
「オジンさん……でしたね……ごめんなさい」
《***!****》
何となくぶつくさ文句を言っているようだけど、朱雀には通訳を頼まず、そのままさっさと転移で戻った。
老人の小言は長くなりそうで、付き合えないな。
朱雀が後で、オジンの言葉の説明をしてくれた。
《元は、オアシスの守りを司るジンで、オ・ジンなんだど》




