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86 プロイスタン国への報告

花の精霊の名前は聞けなかった。今度行ったら聞いて見よう。ところで聖獣はいたのだろうか。

エイリックに聞いても会えなかったと言っていた。

朱雀は、いるはずだという。

もしかしたら、ポンタみたいに魔物を怖がる聖獣かも知れない。

聖獣はほとんどが小さい。魔物に対抗できるほど力が有るとは限らないのだ。


あの後ウィプスはまた穢れてしまっていた。

穢れた魔を大量に飲んだせいかもしれない。

ちゃんと浄化をかけて事なきを得たが、気づいた時には、オルドリックは少し吸われて寝込んでしまった。

《気が付いたら吸ってた……ごめんなさい》

穢れると意識が飛ぶのだという。

「ウィプス。きれいな魔以外飲んではだめだからね!」

もう十分飲んだから当分要らないと言ってウィプスはしょげかえっていたが、ある日突然皆の前に子どもの姿で現れて宣言した。


《われ、力がついた! 土の操作が出来るようになれた》

ウィプスはそう言って、部屋の中で土の壁を出したものだから、皆で押さえつけてやめさせた。

だが、時すでに遅し。部屋の壁がボロボロになってしまった。

「絶対に家の中では使ってはだめだからね!」


色々あったが、ウィプスは子どもの姿でいることが多くなった。

光の球にはいつでも戻れるのだという。

《こっちの形の方がみんなと同じでしょ。同じの方が、楽しいから……》

私としては光の球の方が助かるけど、ウィプスが楽しいならそれで良い。

いつもこの姿でいるのなら、ボロボロの服を着替えを用意しなければならない。


こどもの姿に変化するとき、いつも襤褸を纏って出現する。

それには意味があるのか。ウィプスに聞くと、

《魔に落ちてきた、子どもが着ていた》

ということらしい。服まで依り代と言う事は無いだろう。

朱雀が言うには――あれは光の錯覚を利用して服に見せかけているのでは? と、難しいことを言い始めた。


取り敢えずウィプスに服を宛がうと、

《これを着てもいいの!》

すごく喜んで、今まで着ていた襤褸がすーっと消えて裸ん坊になってしまった。

私が与えた服の着方が分からないのか、四苦八苦している。

「ウィプス。上着の袖に足を入れてはだめ」

仕方がないので私が着せて上げることにした。

五歳くらいに見えているけど、まるで幼児だ。


私には真視が使えるはずなのに、未だにウィプスの力が見えない。

私の真視は、神獣である朱雀の属性がちゃんと見えるのに……。

光には適性があるはずなのだが、ウィプスは浄化を使ったことがない。

いま出来るのは光操作だけだ。土属性が使えることが分かったけど、これ以上は増えない方がいいと思うのだが、どうなるか分からないのが不安だ。

ポンタは属性が増えると器用貧乏になると言っていた。

ウィプスもそうなる恐れがあるのだから。

ウィプスは精霊になれると朱雀は言ったけど、力が分散されれば、魔法の力も限定的になるのではないかしら。


私が心配顔でウィプスを見ているのに、気が付いた朱雀が教えてくれた。

《精霊になるまで、百年はかかる。おめが、どうこう出来る問題ではねぇ》

……百年単位の話……。

思っていた以上に、途方もない時間だった。

どうやら私は、少し先を心配しすぎていたらしい。

気軽に弟に接するようにして行けばいいか。と考えを改める事にした。


花の精霊から受取った魔の精製は、私の浄火だけですんだ。

黒く濁った魔の場合は、朱雀と一緒にきれいにしなければダメだったが、渓谷に湧き出す魔は、質がいいようだ。

分けてもらった魔はバケツ二杯分ほどだったが、

精製し終わった後はバケツ半分ほどに減ってしまった。

精製し終わり虹色に輝きだした魔は、二リットルはある。これだけあれば十分だ。

「エイリック。プロイスタン王はこれを買って下さるかしら」

――取り上げられてしまわないわよね。と心配になりながら聞く。

「ああ、湖の魔もちゃんと買って頂いていた。王は公平な方だ。心配は要らない」


***


「クラウゼルト領代行 エイリック・クラウゼルト。謹んで下記のとおりご報告申し上げます」

エイリックは、王の御前に参上して今回の報告をあげた。

その報告書を宰相が受取り、読み上げる。



本件は、クラウゼルト領砂漠西端、デザード連山麓に位置する「魔の渓谷」を調査し、

魔の発生源および周辺治安への影響を確認することを目的として実施したものでございます。


渓谷西側の窪地において、魔の溜まり池を確認いたしました。

ニクス湖上の魔とは性状が異なり、

穢れが残る茶褐色の油状の魔のみが、長年にわたり地下から湧き出て堆積したものと見受けられます。

周囲には魔物が多数発生しており、このまま放置すれば、渓谷内外の安全に支障を来すおそれがあると判断いたしました。

当該溜まり池には、古き「花の精霊」と呼ぶべき存在が常駐しておりました。

神獣朱雀の仲介により交渉を行った結果、概ね下記の点で合意を得ております。


一、渓谷一帯では魔物が増え過ぎており、精霊および聖獣のみでは今後の対処が難しい。人間による魔物討伐の協力を歓迎すること。

一、人間側は、渓谷周辺で討伐した魔物の数に応じて、花の精霊より「魔」の分与を受けること。

一、魔の溜まり池そのものを破壊・改変せず、精霊の裁量の範囲内で分与を受けるにとどめること。

以上の取り決めにより、

こちらとしては「魔物の間引き」と引き換えに、一定量の魔を継続的に得られる見込み。


今回の探索では、当方が討伐した魔物の数に応じ、花の精霊より魔の分与を受けました。

これを浄火にて精製した結果、

不純物の少ない魔 およそ二リットルが得られております。

性状としては、既にご納入申し上げた「湖の魔」と同等、もしくはそれに近い有用性を持つものと考えております。

クラウゼルト領としては、今後、渓谷周辺の魔物討伐を継続し、当該地の治安維持に努めること。

王家への納入を第一とし、そのうえで領と商会の運営に必要な範囲で使用すること

を基本方針とする所存にございます。

つきましては、本件により得られました魔二リットルの買い上げの可否ならびに、今後の継続的な納入および取扱いに関する大枠のご方針

について、陛下のご裁可を賜りたく、ここに謹んでお願い申し上げます。


プロイスタン国クラウゼルト領主

 エイリック・クラウゼルト侯爵


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