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78 魔の精製

目が覚めた後も少しふらつく。

だが、朝食を食べると、もりもりと力が回復してきた。――あの亡霊たちは生命力を吸う魔物だったのかしら。

パパには夕べのことを話した。

「朱雀が遣っ付けてくれたんだろう」

「うん。私、ちょっとだけ魔物に食べられたみたい」

「なんだって!」

パパは私の手や耳を触りながら確かめ始めたけど、変化がなくて安心したようだ。

「亡霊という魔物か。私たちでは手も足も出なかっただろうな。しかし、ポンタに守られていたとは。まったく気が付かなかった。ありがとうな、ポンタ」

《ヘへ》


伯爵たちには知らせなかった。心配されても困るし、ポンタのことは今は秘密にして置きたいから。

「伯爵様。ここにも魔がありましたね。今から魔の精製をして見せます」

「魔の精製は帝国の極秘事項だったと記憶していたが……」

「今は変わりました。新しい精製法が確立されました。お見せしますから、王様と話し合って、国に囲っている光と火の魔持ちがいたのなら、精製が自分たちでできますよ」

伯爵は、光はいないとしょんぼり項垂れたので、それまではヤマタイラ国に任せて欲しいと交渉した。


私と朱雀が精製した魔の半分をもらえることにしたのだ。

「ここの魔は量が取れそうね」


《長ぐこの場所に湧いていたはんでな。溜まりに溜まってら。次はこれほどではないびょん》

そういうことらしい。毎年魔を採るようになれば、湧き出す速度に応じて取れるということなのだ。

やはり、帝国は規格外に魔が湧き出す場所だった。


力も戻った。気合いを入れて浄化をする。

今回は、力が尽きるまで浄化をかけることができそうだ。

黒かったドロドロの魔の表面が虹色に変わっていく。だが、底の深いところはまだ黒く淀んでいた。

朱雀に言われて、表面の魔をすくい取ってもらう。

何度か繰り返すうちに、私の力は底をつく。一番底にある固まりかけた魔を朱雀が浄火する。

《やっぱり、浄化がたりね。明日にすべ》

私の力が回復するのを待って、次の日も精製していく。

魔は、こっそりポンタの空間庫に入れてもらう。そうしなければ、魔が劣化してしまうから。

最後に残った精製魔は、バケツ半杯分だった。

それを見て伯爵は飛び上がって喜ぶ。

「こんなに、魔が取れるとは思わなかった」

魔が湧き出していた岩の底には細い亀裂が走っていた。

ここから湧き出していたようだ。

観察していると、岩の亀裂から、まるで血が滲み出るようにほんの少しずつ、ぷっくりと黒い魔が染み出してくる。

この分だと一年かかっても小さなバケツ一杯分も取れないだろう。

でも、このブリス国の人口は少ない。十分ではないだろうか。

年間で一人しか増えなかった魔の使い手が、十人以上は増えていくことになるのだから。

「こうしてはおられぬ。王に掛け合ってヤマタイラ国との取り決めを書面にしてもらおう。サクラ殿、マミヤ殿ありがとう、本当にありがとう」


でも、迷子の少年のことはどうするのだろう。側にいてじっと魔の染み出る亀裂を見ている少年を伯爵は連れ帰ることにした。

「ここにおいて置くわけには行かないな」

周りを探し回って帰ってきた騎士たちが、少年を哀れに思ったようだ。

「村はなかった。どうしたんだろうな……親に捨てられたのではないか?」


馬に乗り、急いで帰る。往路とは違い、迷いがなくなった復路をひた走り、三日後には王都が見える丘まで着いてしまった。

「我が領より王都の方が北に位置するからな。着くのが早かった」

私たちは直ぐさま王宮に呼ばれ、今までのことを王に話して聞かせる。

五十代の、立派な髭を蓄えた王様だった。

髪の毛はほとんど白くなり、眉も髭も真っ白だった。

ポンタは影から私に耳打ちをする。

《サンタクロースみたいだ》

ポンタは毎回訳の分からないことを言うので、慣れてしまった私は聞き流す。

光の魔持ちを私が見つけるというと、王様は、

「ヤマタイラ国との国交は、神の采配だった」と、感極まった。


貴族女性が集められて私の前に並ぶ。

光に適性がある人は多かったが、私には今、適性の大きさも見え始めていた。

――今回たくさん浄化を使ったせいでまた成長したのかも。

中でも一際適性が大きい女性三人を選び、魔を飲んでもらう。

彼女たちの他にも、周りを見まわすと火に適性がある者がいる。

その家臣にも、魔を飲んでもらうことにした。

男爵令嬢の従者だった。十六歳くらいだろうか。普通なら、魔を与えられることなど絶対にないだろう地位だったが、今は事情が変わったのだ。

少年は、自分が選ばれた意味を理解できず、ただ呆然としていた。

魔を飲んだ者たちには、ヤマタイラの魔学園に留学してもらうことにした。

学園で一年間学べば、一人前になれる。

そして魔が馴染めばまた魔を飲めばいい。そうやって力を付ければ、自分達で魔を精製できるのだから。

「詳しい事はヤマタイラの魔学園でお話しできます。私の学園は少数ですから、個人指導できますよ」


私が書いた本を教科書として皆に渡そう。そうすれば彼らの理解も進むはず。


彼らは数日後ヤマタイラに向かうという。

私たちは一足先にヤマタイラ国に戻ろう。あまりにも幸運に恵まれた旅だった。

以前から追加の魔の入手方法を模索していたので、今回は助かった。

その内にユーフラティア帝国でも魔を精製して輸出するようになるだろう。そうなればお金はかかるが、魔持ちが力を付ける事が出来るし、人数も増えていく。

この先を想像してどんな世界になっていくか、私は楽しみになってきた。


マミヤ商会のブリス支店に戻り、帰り支度をしていると、傍らにひっとりと座っている、少年に気が付く。

いつ、ここに入ってきたのか、誰も気が付かなかった。

「君……確か伯爵が連れていったんじゃなかったの?」 

「……」

《サクラ。このわらしっ子。多分、精霊の核だ》

「え!」

何ですって、どう見てもただの子どもにしか見えない。私の真視でも見る事が出来ないってどういうこと?

《サクラ。この子ども、変装しているかも……》


少年は、私たちの言葉を咀嚼するように一生懸命聞いている。そして、必死に言葉を探すように、たどたどしく訴えた。

《われ、魔……枯渇。魔、くれ》

「魔が枯渇って……私たちが採ってしまって困っていると言うことなの?」

少年はこくりと頷く。

「朱雀は? 魔が必要なの?」

《生れたては、必要だったばって、今はそれほどでもねぇ。再生するどぎ、わんつか飲む》

そういえば、ポンタも魔を欲しがる。この少年の精霊は、生れて間もないということなのだろうか。

ではこの国の魔は、今後採ってはいけない、ということになりはしないか。

私は頭を抱えてしまった。

せっかくブリス国が盛り返す算段がついたのに……。

取り敢えず、ポンタの異空間に入れてあった魔を与えてみた。

精製したきれいな魔だ。

少年は美味しそうにゴクリと飲む。少年の輪郭がほどけ、眩い光球へと変わった。

「あの時の魔物!」私は、たちまち緊張した。

また生命力を吸われてしまう!


ポンタが私の前に来て守ろうとした。

私たちの慌てた姿が面白かったのか、光球から笑い声がした。

《あはは、われ、おそわない……のに……慌てている》

《おめ、穢れが無ぐなったんだべ。自分で魔ばきれいに出来るはずだ》

《面倒くさいんだ、あれ。ねえ、もっと頂戴》

ポンタに纏わり付く光球。光球は楽しげに跳ね回りながら、無邪気に笑った。

ポンタは怖がって逃げ惑っている。その内ポンタは例の如く仮死状態になってしまった。周りには強烈な腐敗臭が漂う。

《くっさーっ! 何だ、こいつ!》

光球はポンタから勢いよく離れた。ポンタの特性って、結構優秀だった。


***


ポンタに浄化をかけ、しばらくすると落ち着いた。

光球の名前はウィプスだという。

ウィプスはずっと魔の泥の中で眠っていた。

生き物の気配で目覚めたそうだ。聖獣とは違う成り立ちなのだろうか?

朱雀の予測では、あの魔に落ちて死んだ子どもに取り憑いたのでは、ということだった。

《聖獣も精霊も、神獣も皆そうだ。ミズチも、わも》

ということは朱雀は鶏がよりしろ? 朱雀を見て妙に納得してしまう。

乗り移る身体がなければ実体化できないのだという。

ただ、この精霊未満は、元々めんどくさがりの性質だから、ずっと引きこもっていて、穢れが身のうちに染み込んだのではないか。だそうだ。


でも、エイリックの領地にいる、ニクスは? あれは水が変化していた。

ポンタが、得意げに持論を唱える。

《あそこにいた蛭か苔が変化したかも!》

そうかもしれない。依り代としては、ちょっと神聖さにかける気もするけど。


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