74 プロイスタンからの要請
「サクラ。其方の国はヤマタイラ国では無かったか?」
「はい、そうですけど」
アサドの元へ、プロイスタン王から正式な要請が届いたという。
『サクラ・マミヤの帰還を要請す』
「では、これはおかしくはないか」
「あ、私はローゼン商会との契約で仕事を請け負っております。一応世界商人のマスターですから」
「……そうであったな。だが国王自らの要請であるぞ」
へえ、エイリックと関係がありそうだ。
きっと、私たちが帰りたくても帰れない状況だと先回りしてくれたに違いない。
確かに帝国には長く留まりすぎた。
ヤマタイラ国にも、連絡は入れてはいたが、東吾様も気を揉んでいることだろう。
「アサド王。そろそろ帰っても宜しいでしょうか。メイリーンも帰国したいと言っております」
「いや、もうしばらくいてくれ。其方に帝国から、勲一等の勲章と名誉顧問の称号を授ける式典の準備をしている」
しばらくとは、どれくらいだろうか。
私は、オルドリックに相談した。
「オルドリック、アサド帝王が勲章をくれるって言うの。どうすれば断ることが出来るかしら」
「サクラ、これは断れないものだ。大変だぞ。お前この国に永住させられてしまう」
「ええーーっ!なぜそうなるの」
「囲い込みに来ているんだ。お前をここに留めるための。まずいな、プロイスタンではもう準備が出来ているのに……」
「準備?」
「まったく。エイリックはお前に何も言っていないのか。エイリックがお前を娶りたいって言ったのを教えただろう」
「でも、あれは方便だったって、エイリックが言っていた」
「くそっ、あのくそ真面目。なんでもっとちゃんと話さなかったんだ」
オルドリックは、プロイスタンでは私を養女として貴族の称号を与え、その後エイリックとの婚姻と進むということを話してくれた。
私は初めて聞く事ばかりで理解が追いつかなかった。
「今連絡を入れたから、エイリックがこっちへ来る。かなり慌てていたぞ」
私は呆然として部屋に入った。
王宮にしつらえられた私のための特別室をぐるりと見まわす。
「これも、私の囲い込みのためだったの……」
それに、エイリックは、また私に断りもせずに勝手に事を運んだ。
段々イライラしてきた。以前と同じだ。
何も知らせず、私の事を先回りしてレールを敷こうとしている。
これをどう考えればいい?
エイリックのことは好きだ。
でも、このままこれからずっと先回りされて、私は我慢できる?
帝国は私の力が欲しい。それは理解した。
でも私にはヤマタイラ国に残してきたものがある。
パパやママ。私の仕事。そして東吾様との約束にけりを付けなければ、今後ヤマタイラへ気軽に帰る事が出来なくなってしまうだろう。
何かみんなに不満なく、私をそっとしておいてくれる手立てを考えなければ……。
細かく帝国が欲しいものを分析する。
まずは魔の知識。これは書き出しておけばいつでも渡せる。
そして光の属性持ち。これは確かに希少だけど、発現させるやり方は単純だ。
それも書き出す。
そして、今後魔をどれくらい輸出すれば、魔調整学園と同等の利益が出るかを計算し書き出していった。
「うん、これくらいならいいだろう」
後は、各国の必要とする今後の見込み数を割り出せば、アサドは魔の輸出に迷いはなくなるはずだ。
「帝国はこれで良し。次は、プロイスタンだ」
ここはかなり厄介だ。多分善意で進めている。もし、私が断れば、エイリックの顔を潰すだけでは済まないだろう。下手をすればローゼン商会からも吐き出されてしまう。
世界商人の称号がなくなれば、ヤマタイラ国にも優位性がなくなる。
うんうんと唸っていると、ドアの隙間から何かが差し込まれてきた。
走り寄って見ると手紙のようだ。
見ると、東吾様からの直筆の命令書だった。
『サクラ、そちは我が皇族の落胤ということにしておいた。近いうちに迎えに行くので、転移で逃げないように』
東吾様! 逃げるだなんて考えていませんってば。
二日後、正式にヤマタイラの国賓として東吾様が帝国へやってきてアサドに会見を申し込んだ。
私はその場にはいたものの、遠くの椅子に座らされてまったく話が聞こえない。
時々アサドがチラリとこちらを見て、しかめっ面をしているので、多分アサドにとっては不利な条件を突きつけられているようだ。
私は気になって仕方がない。
国家間の問題だもの蚊帳の外に置かれるのは仕方がないと言えばそうなのだけど、私の事なのに話合いに参加出来ないことに、もやっとする。
会見という両国の要求の応酬が終わり、東吾様がこちらに歩み寄り『戻るぞ』と目配せをした。
メイリーンに伝える事が出来ない。私は転移の間に連れてこられてヤマタイラへ戻った。
東吾様は転移の間を出て物陰に隠れ、「私の屋敷に転移してくれ」と言った。
私を便利使いしすぎではないだろうか。
ムッとしながらも仕方なく転移する。ポンタに頼んで。
この距離は私にはまだ無理なのだ。どうせポンタの転移も知らせてしまったし。
ポンタはムッとしながらも転移に応じた。
いつもの東吾様の執務室に着いた途端東吾様は、椅子に崩れ落ちるように座り込んだ。
「まったく、何という威圧感だ。アサドという王は」
東吾様の顔をよく見ると脂汗が滲んでいた。
私は、普段みることがない東吾の一面を見て、『彼も人間だったな』と、妙に感じ入った。
「あの、どういう風な話をなさったのですか? アサド王が困っているようだったのですが」
「普通のことを言ったまでだ。幾ら小国と言えども皇族となれば、子女を拘束したことが知られれば大国にとって外聞が悪かろう。それに、プロイスタン国まで絡んでいるとなれば、なおさらだ。あの国はプロイスタンの食料に依存しているからな」
「プロイスタンは、私の縁談を――」
「それも手を打って置いた。子爵では釣り合わないと言ってな。良かったな、無理矢理結婚させられなくて」
うっそー。勝手に破談にしてしまったの?
何だろうこのもやもやは。
周りが勝手に私を取り合っているように感じるのは、考えすぎだろうか。
「さて、サクラ。例のネズミだが、早速貸してもらえまいか。来月からブリス国と食糧と物資の搬入が決まってな。君のお陰だ。ヤマタイラ国はこれから躍進するぞ」
《ボク、ネズミじゃないもん! ネズミはこっち!》
そう言ってポンタはチョロスケを東吾様に差し出した。
東吾様は椅子から飛び上がって「ひぇっ!」と叫んだ。




