67 サクラ
「東吾様。私、急いでプロイスタン国へ戻らなければならないんです。私をこの役目から解放して下さい」
「なにを言っている? 君の仕事はこれからではないか。そのポンタという獣を従えているのだ。ヤマタイラ国の物流には無くてはならないものだぞ」
「ポンタには後で手伝わせます。ですが今は、どうか自由にさせてもらえませんか?」
私は何度も頼み込んだ。事情は言えない。東吾様はじっと私の目を見つめ、やがて結論を出した。
「分かった。だが、もし君がこの国から逃亡したと分かれば、マミヤ商店は、どうなるか。分かっているだろうな」
脅しを掛けてきた。
そうなるだろうなとは、薄々感じていたけど、どうして権力者は皆こうなのだろう。
私は、顔を背け「はい」と返事をする。
空間庫は、転移が使える者なら「魔を追加で飲むと発現する」と教えて上げようと思っていた。
でも、今は考えを整理するときだ。
『これからもこの調子で、私は利用され続けるのだろうか』
よく考えなければならない。情報はただ吸い取られるだけではだめだ。
今後の取引材料として、残しておかなければ……。
東吾様から許可が下りた。
私は挨拶もそこそこに、ポンタの転移でプロイスタン国へ戻った。
「なんとか抜け出せた。でも、これからが一番大変になる。ポンタ、朱雀。力を貸して」
《わがってら。魔の浄火だベ》
《転移で一気に、砂漠へ行く?》
「まずは、レオポルドさんに話してからよ」
レオポルドは、私を待っていた。そして、オルドリックを一緒に連れて行けと言う。
ちょっと邪魔だなと思ってしまったけど、レオポルドさんは、
「リックにも話した。王から許可を得たんだ。リックは通信係だ。逐一報告をしてもらう。手は貸せないが、国家間の問題が起こりそうならこちらで素早く手を打てるはずだ」
ここから真っすぐポンタの転移で行こうとしたらだめだと止められた。
「転移人を一緒に連れて行きなさい。そうすれば君の秘密も隠せる」
転移人さんはいつもの人、レイブンさんだ。
彼は穏やかそうな顔をして微笑んで「また来たねサクラ」と言う。
何も知らされていないようだ。
以前レイブンさんには、ポルトン国で迷惑を掛けてしまったことがある。今度は、彼に危険がないよう気を付けなければ。
オルドリックはいつになく神妙な面持ちで私たちの後をついて歩く。
転移の間から、一瞬で帝国に着いた。
「レイブン。お前はローゼン商会の支店で待機していてくれ。何かあったら連絡を入れる」
「承知した」
良かった。ここにいれば彼に危険はないだろう。私は胸をなで下ろす。
「オルドリック、これからエイリックを探すとなれば、どこから始める?」
「メイリーン聖女はよく知られているからすぐだろう」
そうだった。彼女は今や時の人だった。
ローゼン商会帝都支店で聞けばすぐだそうだ。
支店長が出てきて、「聖女様なら昨日帝都に着いて、宿を取られております」
そう教えてくれた。そして同時に、ラシードが帝王に監禁されたという、とんでもない情報も聞かされたのだった。
私はメイリーンの宿へ急行し、メイリーンに久しぶりに再開した。
「サクラ! 良かった。プロイスタンに通信を入れようとしていたところだったの」
メイリーンはラシードのことや、エイリックのことを次々と話し始めた。
「アサド帝王は魔物に転じているそうよ。私の浄化で何とかしてあげられると思うのだけれど、皆に止められてしまったの。どうしましょう。サクラ」
メイリーンは優しくて思いやりがある。でも、今の彼女にはまだ危険ではないのか。
彼女は、浄化なら命を奪わずに助けられると心から信じているのだ。
《おめの浄化だば、まだ無理だじゃ》
朱雀にバッサリと言われて、彼女はしょげかえってしまった。
「そうかしら。毎日頑張ってきたのに……まだまだ、と言うこと?」
「メイリーン。追加の魔、飲んでみた?」
「いえ、まだ。そうなの? また飲んだら成長するということなのね」
「そうねメイリーン。一旦国へ帰って、修行し直した方がいいわ」
エイリックのことも聞けた。彼は砂漠の奥地へ行ったという。
探すことは不可能だ。彼なら砂漠でも生き残れる。
水操作があるし、成長もしている。
――ここで待っていればいいのよ。そうよね、エイリック。
魔の研究を自分の身体で試していたくらいだ。
結構な魔を追加で飲んでいたのだから。
「エイリック様には、精霊を付けてあげたから心配は要らないわ、サクラ。魔の泥を見つけたなら転移でここへ戻ってこれるから」
メイリーンには感謝だった。大切な魔物の精霊を貸してくれていたらしい。
オルドリックはレオポルドに連絡すると部屋を出て行った。
風の伝達は制約があるのか、いつも人のいないところへいって通信している。
――オルドリックも、追加の魔を飲めば成長出来るのに。
オルドリックの風の力も、魔がなければ成長の機会は限られる。
商人にとって、魔はまだ遠い資源なのだろうか。
外が騒がしい。
「どうしたのかしら」
メイリーンが不安そうに窓の外を見た。私も一緒に窓の外を覗うけど、人が集まって同じ方を見ているだけだ。
「私、行ってみてくる。メイリーンはここにいて」
野次馬が大勢いすぎて、先に進むことが出来ない。身長が低めの私には無理だったようだ。
隣にいた男性に尋ねてみる。
「あのー、何があったんですか?」
「王宮から火柱が上がった。一瞬あがってそれきりだ。何があったかおいらも知らねぇ」
王宮から?
王宮の方を背伸びして見ても、いつも通りに静まりかえっていて、煙も見えないのに。




