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66 エイリック

エイリックは今、メイリーン一行と行動を共にしていた。

プロイスタン国からレイシス国へ抜け、その後各地を廻りユーフラティア帝国ヘ入った。

帝都は賑わいが消え、寂れた雰囲気が漂う。

情勢はそれほど変わらないはずなのだが、人々の表情は暗かった。

閉塞感が漂い、物流も以前の豊かさは消えている。


「ここは辞めておきましょうメイリーン聖女様」

一緒に来た聖女が不穏な空気を感じ取ってメイリーンに進言する。

エイリックも同じ意見だった。

彼は、彼女たちの騎士という身分を装ってここまでやっと辿り付いたのだ。


プロイスタン王の聖獣ガジによってもたらされた、驚くべき事実。

この広い帝国の至る所から、魔が湧き出しているというのだ。

それを探し観察して、出来れば浄化してしまいたい。

だが、エイリックが持つ魔の属性は水。「清め」は出来る様になったが、「浄化」はできない。

メイリーンに相談すると「やってみます」と、答えてくれた。

本当はサクラに頼めば、きっと受けてくれただろう。だが、サクラを危険に晒したくなかった。


メイリーンは、そんな不器用なエイリックを見て、サクラを羨ましく思う。

「サクラは、大事に思われているのね」

帝都に来ていたキャラバンについて、砂漠を行くことにする。

オアシスからオアシスへと繋ぐ道は、ゆっくりとしていた。

らくだに乗りながらの旅は、以前サクラと行動を共にしたのとは違い格段に安全だった。


新兵の時、魔物の出所を探した時は、水を出しながらサクラに飲ませ、何度も気を失いかけた苦しい道のりだった。

今彼の水の魔法は、あの頃とは比べられないほど成長している。

大量の水こそ砂漠では出すことは出来ないが、聖女たちに飲ませても気を失うほどではなくなったのだ。

聖女たちは乾いた暑い環境にもよく耐えている。

夜は冷え込み、皆で固まって励まし合う姿は、正に聖女だった。


「聖女様方。ラシードの部族のオアシスが見えてきました。ここは大きな部族です。しばらく滞在してもいいのでは」

「そうですね。そうしましょう」

ラシードの部族といわれるそこには、たくさんの人だかりがある。

「帝都よりも賑わっていますね」

「そうです。今、ここはキャラバンにとって一番安心出来る場所になっております」

塩や水の供給に立ち寄るだけではなくなり、ここが商業の中心になりつつあると教えられた。


この地で魔について語る。そして魔の理解を深めてもらう。

それがメイリーンたち聖女が目指すものだった。

「魔は魔物を作りもするが、魔物は聖獣へと変わることもある。そして人と助け合うことも出来るようになるのだ」と。

エイリックは彼女たちを助けながら、砂漠に目を向け、魔物の動向を探る。

魔物が多く出るということは、その先に魔が湧き出す場所があるはずだ。


「ここは帝都に近いということでしたね。旅も終わりに近づきました」

キャラバンは五カ所を回り、最後に帝都に戻る行程だった。

メイリーンたちは、キャラバンと別れてここで一ヶ月過ごしたのち、帝都へ戻り、そして次の国へと向かうのだ。

「メイリーン殿。この後私は君たちと別行動となる。すまない」

「見つからなかったですね。魔の湧き出す場所が」

「もっと砂漠の奥へ行かねばダメなようだ」

「浄化はどうなさいますか」

「……」

場所さえ確かめておけば、後で浄化が出来る。そう割り切るしかなさそうだった。

エイリックは直ぐに砂漠へ発って行った。


残った聖女たちは、ラシードの屋敷の離れに住まわせてもらっていた。

そろそろ挨拶を済ませ、旅立つ準備に取りかからねばと考えている矢先のことだった。

「帝都から、帝王の使いがやってきたそうです」

ヤスミーンが、聖女たちに急いでここを立ち去った方がいいという。

「なぜですか。帝王にお会いして、魔のことをお話ししてみれば、帝国は助かるのでは?」

「それは絶対に辞めて。アサドはもう……人間とは言えない。彼は変わってしまったのよ」


***


「ラシードに告ぐ。帝王の勅命である。直ちに御前に参上せよ」

使者がラシードに口上で告げ、ラシードの周りを魔の兵団が取り囲む。

その様子をメイリーンたちは屋敷の中から見ていた。

ラシードは抵抗するでもなく、大人しく縄を掛けられて引き連れられていく。

「一体、ラシード様は何をなさったというの」

「なにもしていませんよ。ここにいてオアシスの管理をしていただけです。帝王に逆らったことなど一度もありはしません」

ヤスミーンは悲痛な声で言う。

帝王は、ラシードを捕まえてなにをするつもりなのか。

「抵抗すれば、このオアシスに住む者たちが殺されてしまうかもしれません。だから、ラシードは抵抗しないのです」


ラシードは、引き立てられて行く間際、メイリーンがいる屋敷の窓を仰ぎ見た。

そして、メイリーンたちに向かいゆっくりと頷いた。

彼の顔は、悲痛でも悲観しているようにも見えない。

なぜか、満足そうに目を輝かせていたのだ。


***


「ヤスミーン。アサド帝王はどういうお方なの?」

「魔物ですよ。魔の泥に投げ入れられた部族の生き残り。一時は助かった者たちだと考え、喜んだものでした……今はもう諦めるしかないのです」

魔物と聞き、メイリーンは、あのラシードの満足そうな顔の意味を悟った。

――浄火を使う、そうなのね。ラシード様……。


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