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62 魔学園の生徒

名誉教授と言われて怖じ気づいたけど、何のことはない。

教師は私一人だけで、生徒は五人だけ。まるで寺子屋みたいだ。

寺子屋というのは少し違うかもしれない。

校舎としてあてがわれたのは、いつか見た、皇族の敷地に建っていた白い洋館だった。

瀟洒な造りの屋敷で、部屋数が五十ほど。使用人は三十人いて、そのほとんどは諜報部員のようだった。

そこにはユウカもタカシもいる。

「今後は生徒が増えていくだろうが、それでも毎年十人が限度だ。魔の入手が決められているからね」

そうだった。帝国の基準で見てはいけなかった。

あそこは世界中から生徒を呼び込んだ、巨大な学園だったのだから。


東吾様の計画では、まずは皇族に行き渡らせて、それから財閥や華族たちを受け入れるという。

今まで帝国に支払っていた同額で、生徒を教育すると公布したのだ。

学習期間はたったの一年。そして受け入れる年齢は十八歳からとすると定められた。

皇族が安全を保証する。自らを見せることによって、安心感を与え、求心力を取り戻す上手い制度だな、と思う。

ヤマタイラ国では今年も帝国へ生徒を送り出している。在学中の生徒には、命を落した子どもも数人いたそうだ。

新兵から二人。新入生の適性検査で一人。毎年犠牲が出ているのだ。

それが、これからは変わると実際に示せるのだから。


私は、皇族が魔を受ける現場に立ち会った。

一人ずつ部屋に入ってもらうが、私が部屋に入ったら外から鍵を掛けてもらった。

「なぜサクラ一人だけで? 危険でしょう」

「いいえ、私は転移が出来るの。万が一魔物に転じたらすぐに逃げ出せるから」

一人でじっくり考えて、東吾様に進言したのだ。

私に一任してくれなければ、私はヤマタイラ国から逃げると、はったりを掛けてやった。

実際はパパたちを置いて逃げることなどできないけど、どうしても受け入れてもらいたい条件だった。

一人でいれば、いくらでも浄化を使えることに思い至ったから。

「私って、何を悩んでいたのかしら。一人にしてもらえばいいだけじゃない」


それに私には朱雀もポンタも付いている。半端な兵士なんか蹴散らしてしまうくらい朱雀は強いのだ。

いよいよ一人目の生徒だ。私より年上の十八歳の男性皇族。

皇族にしては背が高い方だ。おっとりとしていて話し方がゆっくりで、聞いていると眠くなってしまう。

「では飲んで下さい。大丈夫、味はありませんから」

「……あなたが、教師なのですか」

年下の小さな女性は不安をかき立てるのだろう。

ゆっくりと少しずつ、おそるおそる飲んでいく。

飲み終わると不安そうに周りを見て、私を見て、それからそわそわしはじめた。

「大丈夫、臭いもないし目の色も正常です。少しお話ししましょう。宮様は何がお得意でしょう?」

こんな風に三時間をフルに質問に当てて、相手の属性を探っていった。


これは効果的だった。最後にいらっしゃった女性皇族は、何と浄化を発現してしまった。

魔を飲んで話をしていただけだったのに。メイリーン聖女の話に感化されたのかもしれない。

「わ、わたくし。聖女様と同じになれたのでしょうか」

「そうですね、これから毎日浄化を使っていけば聖女メイリーン様と同じになれます。もしかすると、ヤマタイラ国初の聖女様になれますね」

少し持ち上げてやると、途端にやる気に満ちてきたようだ。

「絶対にやり切って見せますわ」と、鼻息が荒かった。


私はまだ、一つ大事な事を打ち明けていなかった。

それは魔が馴染んだ後に、追加で魔を飲めばスキルが増えるということだ。


今のヤマタイラ国では、魔の量が圧倒的に少ない。皆が追加を飲みたがれば困ったことになるのだ。

そのため、生徒たちにはその事は教えていなかった。

それでも魔が馴染むまでは時間が掛かる。一年というのは丁度いい時間だ。

次の年には、華族から選抜されて来ることになるだろう。

その次は財閥から、それも皇室派の財閥から選ばれてくる。

白鷺財閥は後手に回ることになる。


白鷺財閥は、東吾様が一番警戒しているところだ。権力を持ち、世界商人のマスターでもあるそこは、巨大な財閥に育っているのだから。

タカシはその時になってどう思うだろう。

それとも、白鷺とは距離を取っているのだろうか。そこはよく分からない問題だった。


次の年、私が十八歳になった夏。

華族からは一人も帝国へ行く希望が出なかった。数年待つだけでいいのだから当然だろう。しかも、魔学園の教育は安全が確保されているのだから。

スキルも、今までとは違い闇や光まで持てるのだ。

魔学園の評判が静かに浸透しているようだ。

白鷺財閥からは帝国の五人枠いっぱいに子どもたちを出したようだ。


「大丈夫なのかしら。もう少し待てばいいのに。十二歳の子どもを送り込むことを止められないのですか」

「仕方がなかろう。白鷺は嬉々として送り込んでいた。今まで割り当てが少ないとこぼしていたのだ。国家からは一文も出さないと言っても、それでも良いと喜んでいる」

「子どもに危険が及ぶと分かっていてもですか?」

「考えていないようだな」


そういえば、東吾様にはあと一人分の魔が残っていたはず。それをどうしたのかしら。

「東吾様、一人分の残った魔はどうなさいましたか? 古くなった魔は「酸化」するそうです。魔物化はしないそうですが、効果は消えますよ」

「あれは私が飲んだ。スキルが増えたぞ」

「……危険です。一度に間を置かず飲めば、いくら精製した魔でも取り込まれてしまう恐れがあります」

「そうか? 私は大丈夫だった。心配要らない」

私は腹が立ってきた。

ラシードから聞いたことを東吾様に教えてやる。きっとその時の私は鬼のような形相をしていたに違いない。

だって東吾様は、あの鋭い目を何度も瞬きして腰が引けていたのだから。

「ラシードという方はネフェラ教授に人体実験をされて身体が膨れ上がり、目が赤くなり、魔物に転じそうになったそうです。そうなってもいいんですか。自重して下さい!」

「分かった。これからは、無茶はしないと誓おう。だが、「重力操作」が身に付いたのだ。危険を冒す価値はあった」

そう言って、にまにまと、満足げにしている東吾様は、救いようがないと思った。


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