61 スキルと魔
私たちは一週間東吾様の屋敷に留め置かれたが、一時解放された。
この次は一週間後に集合だそうだ。
家に帰って布団に潜り込み半日寝てしまう。
起きたときは夜中だった。
お腹が空きすぎて目が覚めてしまった。
そういえば、朱雀たちに一週間も何も食事を与えられなかった。心配で声を掛けると、ポンタが元気に答える。
《ボクたち、あちこち行って食べたんだ。ね、朱雀》
《ほんだ。サクラば置いでいって、悪がったな》
東吾様に出された食事は贅沢なものだったけど、私は今、無性にお茶漬けが食べたい。
梅干しと番茶、そしてちょっぴりのわさびがあれば十分だ。
夜中の台所で、一人でごそごそとお湯を沸かしていると、ばあやが起き出してきた。
私の頭の上には煌々と白い灯りが灯っている。光操作で出した灯りだった。
ばあやは目を丸くして見ている。
――まずい!
「お嬢様。皇族では、こんなすごいランプを使っていらっしゃったんですね。明るくていいです」
「……これは一回しか使えない、とっても効率が悪い、ランプなのよ」
「そうでございましたか。ざんねんですねぇ……」
ばあやに夜食を手早く作ってもらい、やっと人心地ついた。
沢庵をサクサク切って出してくれ、残り物の冷や飯にみそを塗って俵型のおにぎりにしてくれる。
お茶漬けから変わってしまったけど、これも美味しい。
最後にお茶を飲んでそのまま寝室へ戻った。
朝はふつうにすっきりと目覚め、居間に行くとパパやママが心配そうにしている。
パパには話してあったから、きっとママも事情を知ったんだろう。
半日眠ったうえ、そのまま朝まで起きてこなかった私に、なにも言わずにいてくれた。
使用人たちが部屋からいなくなるとパパが切り出す。
「どうだった。例のお屋敷は」
「豪華だったよ。この間も話したでしょう」
「いや、そうではなく……なにをさせられた?」
「……魔について聞かれただけ。これからはあのお屋敷に行ってお仕事することになった」
パパは、商人に戻れなくなったのかと、気落ちしていた。
ママは、年頃の娘を囲われてしまうのかと、気を揉んでいるようだ。
「サクラ、縁談を探しましょう。そうすれば無体なことにはならないかも……」
私はただ微笑んで首を振る。
そんなことではないのだと、教えられたらどんなにいいか。でも、国の諜報機関や皇室の思惑が絡んでいる。
口が裂けても言えないことばかりなのだ。
ヤマタイラ国に帰国してからそれほど時間が経っていないのに、あまりにもめまぐるしく流されてしまう。
いったい私って何なのか。いつも怖い人たちに目を付けられてしまうようだ。
空間庫にはまだ、レオポルドに持たされた高価な商品が残っていた。
小出しに売ろうと考えていたが、これはパパに渡してしまおう。
魔を売ったお金は出せない。東吾様からも、金の出所は当分伏せておくように言われている。
私は気持ちが悪くて仕方がないのだけど。
税金を払わなくて良いのだろうか……。
ポンタの空間庫に入れてもらった大金。ポンタが突然いなくなれば消えてしまうだろうけど、それでも良いかも、と、この頃考えている。
だけど、魔の売買は毎年続くとなれば、早く東吾様に何とかしてもらいたい。
***
一週間後、また東吾様の屋敷に行った。
今回は三人の若い兵士がいた。ユウカたちは来ていない。
どうしたんだろう。
「おはよう御座います、東吾様」
「ああ、おはよう。今日はこの者たちに魔を与えるので、君に見ていてもらいたい。万が一の対処は私がする」
二十歳くらいの兵士に、一人ずつ、魔を与え経過を観察する。三時間ずつ時間を空けるため十時間近くかかったことになる。
彼らは当分屋敷から出ずに、スキルの発現のため試行錯誤する。そのお手伝いを私がするのだ。
彼らは三人とも火の属性だった。
一人は身体強化。もう一人は火操作。最後の一人は炎撃を獲得した。
火は戦いに特化した属性だから、兵士が得たのは納得だった。
「この結果を見て私は確信した。ある程度年齢がいった方が自分の属性が決まりやすいのではないかとね」
東吾様の言い分はもっともだ。
自分が何が得意か、なにをしたいかなどは、ある程度年齢がいった方が決まりやすいはずだ。
東吾様の手元に残った魔は六人分だ。
この後皇族に試すのだろうか。私の身体は小刻みに震える。
私の見ている前で魔物に転じそうになったら、躊躇してはいられないだろう。浄化を使う。
兵士たちの時も、緊張して見守っていたし、東吾様の時もそうだったが、これからは覚悟を決めよう。
エイリックが言った「絶対に知られてはならない」という言葉の重みがジワジワと染み込んでくる。
光は本当に発現しにくいものなのだろうか?
闇は多い。ただスキルとしては転移が発現しやすかったのは偶然なのだろうか。
帝国ではどのようにして転移持ちを作り上げていたのか。
一番欲しがっていた空間庫持ちは希少だと言われているのに。
もしかすると男女の差が関係しているのかもしれない。
魔を授けるために各国は、男性を多く学園へ送り込む。この男女の差も関係しているのではないのか。
空間庫は力が弱い男性や女性に発現しやすく、光は守りたいとか、きれいにしたい、という感情が発現理由だろう。
とりとめのない思考が頭の中に浮かんでは消えていった。
気が付くと東吾様が何かを差し出している。
「サクラ、君にこの称号を与えよう。これからは国の代表として表に立ってもらう」
なにを言われているか、一瞬分からなかった。
手渡された高価な和紙には、皇族お抱えの学問所「魔学園」の名誉教授の称号が書かれていた。




