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60 顔合わせ

転移で一瞬にして東吾の屋敷に着いた。

私の目の前に、びっくり顔のタカシが立っていた。

あの元チビだった生意気な、タカシだ。

同じ新兵として少しの間だけ魔物討伐をしたことがあった。

私が新兵を途中で辞めた後も、タカシは頑張って魔物を倒していた。

怪我もなく五体満足で無事に卒業できたようだ。

でも、なぜここにいる?


「サクラじゃないか! お前なんかがなぜここにいるんだ」

「どうしたのだ。斉宮寺君」

「宮様、なぜ庶民がここにいるのでしょう。彼女は途中で逃げ出した卑怯者です」

「ほほう、そうかね。私の手伝いをしてもらおうと来てもらったのだが。君は途中で逃げ出さなかったのかい?」

「……」


あれ? 最後までいなかったのかしら。ああ、帝国のゴタゴタでユウカと同じく学園へ戻らなかった口か。

でも、戻らなくて正解だった。

今通っている生徒は大丈夫なのだろうか。


「タカシ君、ずいぶん頑張っていたものね。スキルはなに?」

「……」

「さあ、君たちにもう一人紹介しよう。こちらへ」

奥の部屋から出てきたのはユウカだった。


ユウカは、「口止めされていたの、ごめんなさい」と謝ってきた。

ユウカの風のスキルを聞き、スカウトされたらしい。

でも大きな声では言えないけど、タカシはスキルが未だに発現していないようだ。「後で教えて上げて」とユウカに頼まれてしまった。

「いいけど、タカシ君、素直に聞くかな」


奥の部屋に通された。ここは前に会食をした部屋だ。今は執務室に模様替えされていた。

大きな机があり、そこで宮様が仕事をされるのだろう。

机の前にはテーブルと椅子が数脚並べられて小さな会議ができるようになっていた。

その椅子に銘々座り、東吾様が話し出す。

「ユウカに聞いたのだが、サクラ。君はスキルの発現の仕方が分かるそうだね」

「ぜんぶではありませんが、基本は本人に特性があるかどうかと、どうしても欲しい力を思い浮かべることだと考えています」

「……んーん。そのようなことがあり得るのか?」

「はい、これは実体験と、あと、複数の人で検証済みです」

「嘘だ! だったら僕はもうスキルが持てていたはずだ」

「何が欲しかったのタカシ君は」

「転移か、空間庫。それをいつも思い浮かべて魔物を倒していた」

「適性が無かったようですね。タカシ君は何が得意?」

「得意とは?」

「好きな物でも良いの……例えば、身体を動かすのが得意だとか。ユウカのように歌が好きとか。後は土いじりが好きな人が土属性を発現した例も知っているわ」

「僕は読書が好きだが。それは何かに関係するのか?」

「すごいわ。本が好きな人は水属性と相性が良いって分かっているの。水の属性はすごいのよ」

「ふん、帝国では皆水の属性だらけだった。僕は絶対に嫌だ」

そこで私は属性をまとめたものを紙に書き出してみる。朱雀からの受け売りの、例の魔法体系だ。

皆は顔を寄せ合って熱心に見入っていた。



火:身体強化/炎撃/活力/熱操作/浄火

水:鑑定/水操作/言語理解/氷結/清め

風:気配察知/俊敏/跳躍/風操作/索敵/伝達/聞き耳

土:防御/土操作/重力操作/物質硬化・軟化

光:浄化/治癒/光操作/真視/祝福/再生/聖域

闇:影移動/転移/空間操作/隠蔽/封印


「知っているだけで、他にもまだあるかもしれません。後、これは私の推測ですけど、水が発現しやすいのは、人は水に元々親和性があるせいかもしれません。他の属性に適性があっても、「どうしても水が飲みたい」という思いが発現してしまい、固定されてしまうのかも」


そうだと思うのだ。属性が他にある人が水を発現してしまえば成長しなくなってしまうのではないのか。

帝国の兵士も魔法が不得意そうだったし。

私の闇もそうだ。

あの時、どうしても国へ帰りたいと思い、転移出来てしまった。

雑味の残った魔も手伝って、器用貧乏になってしまったのだ。


魔は思念を食べると、朱雀も言っていた。

魔は生き物ではないけど、まるで生きているように感じてしまう。

意志が弱ければ、本人の意識が食い潰されてしまうのだから。


***


「ここで私の計画を話すとしよう。サクラが仕入れてくれた、精製された魔を皇族の子ども達に、飲んでもらう」

「なんてことを! 危険です。僕と一緒に学園へ行った仲間は適性検査のおりに魔物に転じてしまった。もしそうなれば、東吾様はどうなされるおつもりですか」

「サクラは、どう思う?」

「魔物に転じる確率は低いです。帝国で飲まされたのは原液でした。ほんの数滴でしたけれど。あれはやってはいけないことです。精製された魔は希少なため原液を使っていたのではないでしょうか」

「……そうだったの。なんて恐ろしい……」


もし、危険なことになっても、今の私には浄化がある。

私には対処ができるだろう。

でも、明かせない。浄化があると言えば、今度こそ囲われてしまう。皇族が目の前にいて私を見張っている。

どうすればいいの……ここまで来てしまった。


「帝国の王族は、亡き者にされたと聞き及ぶ」

東吾様はじっと一点を見つめ、こう切出した。

「ヤマタイラ国では、今、財閥が力をつけ始めている。彼らが天皇を引きずり落とそうと画策すれば、たちまち帝国の二の舞になるだろう。私はそれを巻き返したい」


東吾様は諜報部の影の責任者だとユウカは私に耳打ちした。

ユウカの父親もその部署のお偉いさんだそうだ。

「何も知らなかった。言えなかったんでしょう、ユウカ」

「そうね、お父様は、表向きは政府の事務方という肩書きよ」

斉宮寺タカシ。彼の家系は主に財務省の役職に付いているのだという。

ただタカシの母親は白鷺財閥出身で、側室だ。ヤマタイラ国は妻は一人という慣習なので、正式な婚姻関係ではない。

タカシはそんな中で精一杯頑張ってきたのだ。


ただ、東吾様の話を聞いて、疑問が浮かぶ。

白鷺財閥の関係者をなぜこのチームに入れたのか。

思惑が潜んでいそうで、良くない考えに引きずられていく。


タカシ君は、水操作を獲得した。そしてその後すぐに鑑定も発現する。

まだ頭に浮かぶのは名前だけだそうだが、成長すれば深い意味まで分かる。それが鑑定なのだそうだ。

だが、時間が掛かるのも鑑定だ。ものになるまでは十年はかかる。

「先に言語理解が発現すれば良かったのにね。そうすれば、私たちのチームに役に立ったでしょうに」

「……鑑定が欲しかったんだ。悪いか!」


私が保管している魔を東吾様に買ってもらった。

金額は十人分で四億セン。凄い金額だけど、帝国はさらに高い。

――パパは私を学園にやるのに相当無理をしたんだろうな。

今更ながら、庶民と華族たちの違いを思い知らされた。

私は魔を小瓶に分けて、注意深く分量を測っておいた。

万が一多すぎれば、何があるか分からないからだ。これからは、手探りで魔が身体に及ぼす影響を探っていかなければならない。

エイリックに教えてもらった二百ミリ。コップ一杯分だが丁度いい一回分の量だそうだ。

帝国で飲んだ精製魔は、百ミリだから半分ということになる。

ここでも帝国は嘘をついていたことになる。

驚いたことに東吾様は私の目の前で、魔をごくごくと飲んでしまった。

「まずは私が試してみないことには」

そうは言うけれど、怖くはないのだろうか。

東吾様をじっくり観察するが、大丈夫なようだ。

臭いもしてこないし、目の色も変わっていない。

「三時間は様子を見た方がいいですけど、よろしいですか」

「ああ、この部屋から出ない。万が一の時は……タカシ君。頼む」


ユウカもタカシも経験済みなのだ。もちろん私も。

「サクラ、いきなり飲んで大丈夫なの? 帝国のように適性検査をやってからでないと……」


ポルトン国のメイリーンたちにいきなり飲ませてしまった。何も知らず、勢いでやってしまったあの時の自分を、恐ろしいと思う。

「以前も試したから、平気……なはず。帝国の適性検査は、実は無意味なんだと思う」

「では、なぜやったんだ。あれで二割の生徒が魔物に転じるんだぞ」

「帝国は、生徒を間引いていたんじゃないかしら。魔持ちを他国へは増やしたくない。かと言ってお金も必要。そんなところだったと思う」

「なんて非道な……僕たちが生き残ったのは……」

「運が良かった。後は、意志の強さが関係している」


時間が経っても東吾様は大丈夫だった。

横で、タカシがフーッと息を吹き出す。

彼は、東吾様に手渡されたナイフをずっと握りしめていたのだ。

肩や顎に相当力が入っていたようだ。タカシが力を抜いた途端、大ぶりのナイフが床にごとん、と音を立てて落ちた。


東吾様は二十六歳だと聞くけど、年齢はどう関係するのかが、今のところ不明だ。

スキルが発現するかどうかも、まったく手探り状態だった。

「身体には変化が感じられないな……うん、では、スキルは思いが形を取る、という考えでいいのですね、サクラ」

「はい、ただ。年齢との関係がまだ不明です」

「私は、それは問題ないと思っている。むしろ帝国の年齢設定が低すぎたのではないか。わざと長引かせて魔の価値を引き上げていたのではないだろうか」

そうだわ。そうに違いない。子どもに強い意志は、なかなか持てないだろう。むしろ成人してからの方がしっかりするはずなのだ。


しばらくして、東吾様が得たスキルは「防御」だった。

東吾様の身体が光り、目の前に土壁が忽然と現れたのだ。

だが部屋の壁はボロボロと崩れ落ちてしまった。

「これは、屋敷の中で練習できないな……」

環境依存のスキルは、こういう風な悪影響があったのかと皆が考え込んでしまった一幕だった。


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