5 王の聖獣
ユーフラティア帝国の王は、魔を身に付けてはいない。
だが、従魔を傍に置いている。
ジャッカルの身に宿った魔だ。
魔の精錬の時に出来上がる副産物と言われている魔物だ。
魔の精錬法は諸国には隠されているが、実は原始的な方法だった。
魔溜まりに動植物を入れ、魔を纏わせる。
そうすれば、雑多な弱い魔が、生き物に取り憑く。
黒い泥のような魔は、綺麗に澄んで臭いも消えてしまう。
それが純粋な魔と言われている。
純粋となった魔は、各地から集まった子女に、子息に少量分け与えられる。
大金と引き換えに。
この精錬過程で、極めて稀に聖獣と言われるものが生まれ出すのだ。
生まれ出た聖獣は、魔物のような変化はせず臭いも発しない。
従順で、元の獣とも違う性質を有し、力も持つ。
もし聖獣を見つければ、莫大なお金で取引されるというが、三十年に一度見つかるかどうかという希少さだった。
聖獣を護衛として、また、権力の象徴として王は侍らせているのだ。
ジャッカルの身に宿った魔の力は風と闇だという。
聖獣の特徴として、精錬された魔を身に纏った人間とは違い、複数の力を持つと言うことだ。
「ガジ、其方の力を見せてみよ」
ガジと呼ばれた魔は、がふっと吠え闇に隠れる。そして静かに王の家臣の元へ行き、風を飛ばす。家臣たちはその場に座っていられず後ろに転げてしまった。
「ははは、愉快じゃ。愉快じゃ。ようやった」
ガシは、のそのそと王の傍へ戻りその場に寝そべる。
「お見それいたしました。流石、王の聖獣様」
家臣たちは青ざめ平伏する。
家臣の中にも魔を身に宿す者がいる。王の権威を見せつけているのだろう。
端から見れば、子供っぽい行動だが、これはこれで民心を掌握する手立てとしては、よく機能しているようだ。
王はネフェラのたっての願いを聞いてラシードに妻を娶らせることとした。
王に取っては願ってもない提案だった。目障りな部族の時代を囲い込むことができるからだ。
ラシードは平伏したまま王の言葉を待つ。
「ラシード。よく決心をしてくれた。我が二十番目の姫を娶らす」
「は、有り難き幸せ。心より大切にし、妻を慈しみ末永く生涯を共にいたします」
ラシードは部族の長を諦めざるを得なくなった。
今後万が一追うから沙汰があれば、自分の部族と戦う立場に立たされるかも知れない。
だが、砂漠の部族たちは、皆強かだ。
王に逆らうなど、余程のことがない限りない、と思いたい。
王の二十番目の娘はまだ十二歳。暫くは子育てのようなものになるだろう。
今いる二人の妻も事情は理解して、協力してくれる。
ラシードたちの戒律では、妻は五人まで迎えるということになっているが、帝国の王はこの限りではないようだ。
「いつからこの様な決まりになったのだろうな。今代の王はさらに戒律を変えていくのだろうか」




