4 教授
ネフェラ・サフメトは、魔調整学園の教授だ。
七十歳になる。
女性の教授の中では最高齢であり、最高位に就いている。
彼女は、元は帝国の高貴な生れの女性だが、自分から志願して魔を身体に入れた。
この国では、王族やそれに準ずる地位にいるものは魔を身体には入れない。
魔は、あくまでも鉱物資源であり、国の産業だからだ。
神を強く信仰しているこの国にとって、魔は相容れないものだった。
そして今、彼女の目の前に座るのは、ラシード・ザイード。
彼はまだ三十歳の若き教授だ。
ラシードも高貴な生まれだが、ネフェラほどではなく、どちらかと言えば、族長に無理矢理勧められて魔を受入れた口だった。
だが、力を手に入れて、今では部族を率いる立場になりつつある。
教授の職を辞した暁には……だが、それはまだ先の話だ。
「ラシード、あなた結婚しているわね」
「はい、二番目の妻を娶ったばかりですが、それがなにか?」
「王族から、あなたに妻をどうかという話になってね」
「私の三番目の妻に? 王族からの申し出はそれだけですか」
「王族の妻を受入れるとなれば、今までの妻は下に据えざるを得ないでしょう」
ラシードは、顔をしかめて黙ってしまった。
ここ帝国は、有力部族が集まって出来上がった国だった。
今この国を仕切っている部族長はすべての酋長という位置づけだが、本来は上も下もないとラシードは考えている。
たった二百年前までは、ここは不毛の地と世界各国から見られていた。
魔物が跋扈し、人までも魔物化したのだ。
だがエイブラハムという学者が、魔の研究をしていた。
そして「魔」は、力として取り入れることができると公表したのだ。
初めは一つの部族がその話を聞き、制度に取り込んだ。
その部族こそ、今の酋長である帝国の家系だった。
他の部族もそれに倣い、成人する若者にこぞって魔を取り込ませた。
ほとんどが死ぬ、と言う苛酷な儀式ではあったが、生き残ったものは見たこともない力を手に入れた。
その後、部族は協力し合い、魔を資源として国の基幹産業に作り上げてきたのだった。
ここの砂漠に住む部族たちは、元々星や太陽信仰がある。
魔などは信仰の対象とはならなかったが、魔の特性には風や、火、水といった不思議な魔法を使えるというものが出てきた。
そのため、学園に作られた神殿にはそれを祀るようになった。
しかし王族は、遥か古から太陽や星を信仰していた。
学園に設置した神殿は、まがい物だと昔からの酋長たちは強く思っている。
ラシードが身につけた魔は、火の魔法というものだった。
砂漠では威力が増す力だ。一方生活に必要とされる水の魔法は、ここでは威力が限定されていた。
水場に近ければ威力が増すが、最も必要とされる内陸地では、戦いにもほとんど役に立たないものだった。
「魔の体系は未だになぞです。あなたには、ここに残って研究を続けてもらいたいと、王は考えているようです」
「そうですか」
帝国の王は、ラシードには部族の長になってもらいたくない、ということだろうと、納得した。
「謹んで、お受けいたします」
ラシードは深く頭を垂れ、ネフェラに恭順の意思を示した。
ネフェラは、恭順を示すラシードを見て、薄く笑う。
――あなたには、魔法の神髄など知るよしもないでしょうね。でも、その内教えて荒れられるでしょう。王がいなくなった暁には……。
ネフェラのは今まで研究してきて、王にも秘密にしているものがあった。
彼女の目に、これから国を変えていこうという強い意志が宿っていた。




