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58 皇族からの招待

目をこらすと遠くの方にも白い洋館が見える。しかし、そこは目指す場所ではなかった。他の皇族の住む屋敷かもしれない。

走り続けて三十分もすると、ようやく目指す屋敷が姿を現した。


ここも洋館の造りだ。馬車がロータリーになった花壇の左側を通り、玄関前で止まる。

玄関扉の前では使用人が待ち構えていて、私たちを屋敷の中へ案内してくれた。

オーク材の重そうな扉が後ろで静かに閉じられる。一瞬目の前が薄暗くなり不安になる。

屋敷の中は静まりかえって、話し声がやけに大きく響きそうで、ユウカと話す事も憚れた。


玄関ホールから続く螺旋階段を上がり左側に進むと扉が開け放たれている部屋に招き入れられた。

そこにはすでに東吾親王様が椅子に座って待っておられた。

私たちが入っていって挨拶を済ませると、椅子から立ち上がり隣の部屋へ通される。

そこは小ぶりな食堂――私には「会議室」のように感じられた。


東吾様は一見、中肉中背。だが、たまに覗く手が妙に骨太でがっしりとしている。

漆黒の髪を後ろで結わえて、鋭い目はやや伏せられている。

たまに目が合うと、ぎろりとした大きな目なんだなと、つまらないことに感心した。

まるで兵士のような方だ。

そんなことをこっそり考えているうちに、いつの間にかコース料理が終わって紅茶が目の前に出されていた。

何を食べたか記憶がなかった。


給仕やメイドたちが下がって扉が閉まる。

しばらくして東吾様が話し始めた。

「サクラ殿。態々来てもらったのは、あなたの世界商人としての見解をうかがいたかったのです」

「……見解。何の?」

「あなたは世界を股に掛けていると聞き及びます。レイシス国へは行かれましたか?」

「レイシス? ああ、プロイスタン国よりさらに北の国でしたね。そこへはまだ行ったことがありません」

「そうでしたか……」

「あの、差し出がましいようですが、レイシス国の女性はこちらに来ています。転移の間で見かけましたが。その方のことでしょうか?」

私がこの間見かけたのは、レイシス国の言葉を呟いていた。自国語でなければ思わず口にする言葉ではないはずだ。

髪色は黒かったが、肌は抜けるように白かった。

あれは北欧の特徴だ。

「ヤマタイラ国にかの国から来たのは外交団以来だ。それはいつのことですか」

東吾様は途端に食いついてきた。

「確か一ヶ月くらい前だったと記憶しています」

「一ヶ月……転移の記録にはなかったはずだ」

彼はぶつぶつと独り言を言いながら、考え込んでしまった。

私とユウカは身の置きどころがなくてそわそわしている。


その後は女性の人相や、その場にいた人物を覚えているだけ聞き出され、私が当初考えていた皇族との会食の雰囲気は木っ端微塵に打ち砕かれてしまった。

まるで取調室にいるようなのだ。

段々げんなりしてきて、始めピンと伸ばしていた背中も痛くなってきたので、こっそりと椅子の背にもたれる。


「サクラ殿は、何を見てその女性がレイシス国出身だと思われた」

「白鷺の仕入れ商人がその前に通りかかり、その方のコロンの匂いがきつかったんです。すぐその後を来られた女性がつい自国語で、愚痴をこぼした、とそう思ってしまいました」

「白鷺か! よし、分かりました。いい情報をありがとう」

そう言ってすっくと立ち上がり、いなくなってしまった。

「え、どういうこと?」

「私たち、お暇した方がいいようですわね」

ユウカと目を合わせ、こくんとうなずき合い。そこからしずしずと退去したのだった。


皇族の方と聞いていたので、何かもっと雅な雰囲気があると期待していたけど、私たちとそれほど違わないのだなと、考え直す一日だった。

しばらくして、はっと思い直した。

なぜあの機会に、魔の輸入の話を持ち出さなかったのか。

私がつかむことができた絶好のチャンスだったのに。

また誰か力のある方をユウカに紹介してもらわなければならない。


ユウカを訪ねて彼女が住む屋敷へ出かける。

彼女の住居空間は離れになっていた。

「ここはお母様と私と、ばあやだけしかいないから、緊張なんかしないでね」

ユウカはこの間風の力を得たのだが、まだ仕事に活かせないでいた。

「私の力はいったい何の役に立つかと、お父様に言われてしまったの……」

「力は毎日使うのよ。就寝前が一番いいわ。気絶するまで使っていればまた違う力が現れるはず」

「そうなの?」

「……たぶん」

はっきりとは言い切れないのだ。帝国から与えられた魔は少ないと思う。

そのせいでスキルが身に付いたあとは、それ以上増えないのではないかとこの頃考えるようになってきた。

私はあの後、もう一度だけ魔を飲んだ。

朱雀とポンタと一緒に。

《少しずつ力を馴染ませていくんだ。それが終わればまた魔を飲んで力を広げていく。こうすれば危険がないんだ》

ポンタに言われて、試してみたのだった。

その結果、光がまた成長した。

暗いところは嫌だなとぼんやり考えていたら、急に光が目の前に出現した。

光操作というスキルが芽生えたのだ。

闇のスキルは成長しなかったが。


ポンタからは、《ラノベではふつうこれが最初に身に付くスキルだ》と訳の分からないことを言われる。

「要するに、簡単なスキルということなのかしら?」

朱雀が言うには《サクラの適性は、光だはんでな》

ということらしい。

でも、意外に使えるスキルだった。ランプの明かりなど比べられないほど明るい。

寝る前の読書には最適なのだ。本を読んでいるといつの間にか気絶して寝落ちしている。

これは力を使い切ったサインなのかどうなのかは、少し悩むところだけど。


とにかくユウカには使い切れと助言してやる。

「ところでユウカ。メイリーンの国では安全な魔の精製方法が確立したそうなの。だから私魔を輸入できるのよ。これを教育関係のお役人に知らせてやって欲しいのだけど、伝手はある?」

「すごいことじゃない! 魔を輸入だなんて。今までどこの国もできないことだったのよ。いいわ、お父様に話してみる。任せて」



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