57 内親王の主治医
内親王の主治医は、やっと自分の意見が聞き入れられたことに喜んだ。
これまでも何度も内親王の世話役に進言したが、取り入れられなかった。
このままでは、自分のせいで内親王のご病気が悪化したと言われかねなかったのだ。
だが、最近皇族の一人が、世話役にきつく言い聞かせてくれたおかげで、ようやく内親王に治療を施すことができるようになった。
「やれやれ、首が繋がったわい」
内親王は天皇家唯一の姫だ。
かねてより親交を深めたいと願っていた北欧の国、レイシス国へ数年後嫁ぐことが決まっていたのだ。
しかし、内親王はお身体が弱く、このままでは両国間の取り決めもご破算になってしまうと、皆、危惧していたのだ。
レイシス国も決して豊かとは言えないが、ヤマタイラ国に比べれば、国力は強い。
毎年六人以上の生徒を帝国へ送り出しているのに対して、ヤマタイラ国では四、五人が精一杯だった。
魔調整学園は、目玉が飛び出るほど、金かかかる。
一人の男子生徒を送り出すのにかかる金額は、大きな屋敷を買えるほどなのだ。そして女子生徒はその倍額を要求される。
国としては、問題ない額とはいえ、どのような力が授かるかも分からず、しかも、せっかく送り出したとしても必ず一人か二人は戻ってくることができない。
適性検査に落ちて始末されてしまうものや、新兵になって魔物に殺される者。または不具者になり戻ってくる者までいる。
一番許せないのは、希少な力を授かった生徒は帝国に取られてしまうことだった。
その金は、戻ってくることはない。
今、帝国は王が替わったと聞くが、体制はそのまま続くとお達しがあった。
魔の力がなければ、他国との交流もままならない。
例えば転移。そして言語理解。はたまた通信を受け持つ風。これら主要な役割は、すべて魔持ちによって動くのだから。
「主治医様。少しお話があるのですが」
内親王の世話役の一人が人目を忍んで会いに来た。
いったい何の話だろうと訝しみながらも屋敷に招き入れたが、世話役の話を聞くうちに、主治医の身体が震え始めた。
「暗殺計画……だったと申すのか」
「はい、白鷺財閥から紹介された世話役が、レイシス国と影で取引しているのではないかと考えているのですが」
「こんな話は主治医ではなく、皇族の誰かに持って行くべきだ」
「でも、私は、ただの下働きです。そのような伝手などありません……」
主治医は聞きたくもなかったことを聞かされ、頭を抱えた。




