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52 帰国前

アサド帝王が正式に帝位についたと通信が入った。

帝都のローゼン商会帝都支店からの報告だった。

各国が息を呑んで見守る中、今まで通り帝国の方針は続くという知らせだった。


「では、魔調整学園もこれまでと同じということですか」

「そうらしい。だが教授陣は総入れ替えになった」

何を教えるつもりなのか。あの学園で教えていたことは嘘っぱちだった。

魔物を倒せば魔の力が馴染むというのも嘘なら、魔のスキルが一人に一つしか宿らないというのも嘘だ。

魔の体系すら、いい加減で穴だらけだったのだから。


プロイスタン国では独自の魔の体制を打ち立て、魔を取り入れるようになったそうだ。

エイリックが発見した「魔は追加で飲めば力が増す」というのも知られてきているし、私が朱雀から聞いてエイリックに渡した、魔の体系も知られてきている。

この国ではスキルを複数持つものは、もはや珍しくなくなってきているのだから。


エイリックが国王に魔の体系を書いた紙を渡したあと、

王は、主立った知識人に検証させたそうだ。

「これは、帝国で隠していた事実か。それとも新たな見解か」

とあちこちで、喧々囂々だったらしい。

さらに彼らは、「魔を受けた者たちを集めて、実証検分をしたい」と王に申し出た。


一カ所に集めて学ばせ、その結果を記録する。要するに、学校を作ったのだ。

魔素調整学園とはまったく違う。学費は国家が負担し、魔の料金を支払えば誰でも自由に学べるという。

「研究の資料になるからね。学生は。学費なんぞ取らない方が人は集まるんだ。上手い方法さ」

エイリックはそう言って暗く笑った。

確かに、ものは良いようだ。

方法や目的は違っても、どこの国も似たような体制なのだろう。


だが、やはり、魔を受けることができるのは、貴族や金持ちの商人が主流だろう。

魔は、エイリックの領地で僅かに採取できるだけなのだから。

それでも、帝国に支払っていたときの料金よりははるかに安い。

国としては、帝国に対して搾取されなくなる分、大きな利益となるのだ。

今後は一人が複数回魔を摂取するようになる。

そうなれば、ますます特権階級が有利になる。


私は今、エイリックのタウンハウスへ来ていた。

王都の屋敷を返上して、小さなタウンハウスを買ったと言ったけど、結構立派な建物だ。

エイリックは、どうしても私にお土産を持たせたいと言ってここへつれて来たのだった。

「君には助けられたんだ。気にしないで持っていって欲しい。それに君のお父上にも誠意を見せておかないと……」

何のために?

とは言えず、黙って受取る。以前もたくさんポンタの空間庫に入れてもらっていたので、何となく当たり前のようになってしまった。

いいのだろうか?

エイリックは「そのうちヤマタイラ国へもう一度行く。君のところへね」

と言った。

――どういうこと? 

なぜか顔がほてってくる。馬鹿な私。止めた方がいい、期待などすれば……また苦しくなる。


レオポルドも、私に何かと持たせたがる。

エドワードのこともあるが、他にも原因があった。

ガジが、空間庫を身につけたからだ。

王に知らせると「ぜひガジを手に入れたい。譲ってもらえ」と王に詰め寄られたそうだ。

「どうかサクラ。ガジを王様に献上してくれないか」

ガジは物ではないのだ。

でも、ガジにはガジの希望があるかもしれない。


朱雀に通訳してもらってガジはどうしたいか聞いてもらった。

するとガジは、『王様につくのが自分の生きる意味だ』と言ったらしい。

そういえばラシードにも懐いていた。

「ガジって、権力者が好きなのかしら」

少々寂しくは思ったけど、ガジの希望はレオポルドに伝えた。

レオポルドは飛び上がって喜んだ。

「これで商売がまた膨らむ」

ということだった。


私には、もうどうでもいい。早く帰りたいだけだ。

王宮へ行くときガジを見送ったが、ガジはいそいそと馬車に乗って振り返りもしなかった。

「何よ、少しくらい未練はないの!」

《聖獣になった魔物には、強い意志があるはんでな。ガジは王ば守るって言う意思があるんだベ》

そういうものなのか。

では、ポンタや朱雀にもそれぞれ生きる目的のようなものがあるのだろう。

「ポンタは? 何か生まれてきた目的ってあるの?」

《ボクは自我を無くさないようにただ頑張っただけだよ。前の人生のことを忘れないようにって頑張った……でも、ちょっとだけ忘れちゃった……》

ふーん。また変なことをいっている。生まれ変わって魔物になったっていうポンタ。前世は人間で、そこは、ここよりも文明が進んでいたなんていう。

その割には大したことを助言できない。本当に文明が進んでいた世界だったの?

ポンタが言うには《石油がないからな。ボクが知っているものは、ほとんど役に立たそうにない》

だそうだ。


《この世界は魔法で成り立っているからなぁ。魔は石油の代わり、なのか?》

ポンタはまだ、ブツブツと言っているようだ。

「ポンタ、帰るよ」

私たちは転移の間に入った。

本当は自分たちの転移で帰れるけど、それは今は出来ない。

体制が続くようなら、転移も記録は取っているはずだ。ちゃんとヤマタイラへ帰ったという証拠が必要なのだから。


***


「エイリック子爵、あなたはサクラをどうするつもりだ」

オルドリックは、サクラがヤマタイラ国に帰った後エイリックのタウンハウスに押しかけてきた。

「どうするとはどういう意味だい」

「サクラは俺の妻だったことがある。偽装結婚だったが、それでも妹のように感じているんだ。貴族が平民に肩入れするのはどうも、下心があるとしか思えない」

「ふっ。そうかね。私はサクラを娶ると決めた。やっと状況が揃ったから」

「……出来るものか。あなたは国に縛られている。サクラは商人ギルドのマスターだぞ。サクラまで縛り付けるつもりか」

「……」



第二部  完



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