49 帰還と報告
私たちはプロイスタン国の転移の間から、真っすぐレオポルドの屋敷へ向かった。
オルドリックが前もって指示を受けていたようだ。
最新の情報が外へ漏れないように気を遣ったようだ。
オルドリックも、普段より口数少なく真剣な面持ちで屋敷の中へ入って行く。
家政婦がなにも言わす執務室のドアを開け、そのまま通してくれた。
執務室にはレオポルドとエドワードが待っていて、テーブルには簡単な食事の支度が用意されていた。
「よく戻った。食事をしながら話を聞こう。さあ座ってくれ」
まずは無事を祝う言葉を掛け黙々と食事を取る。
食堂で食べないのは、やはり情報を漏らしたくないためだろう。給仕などいないため銘々勝手に装って食べ始める。
とても食べられそうに無いと思っていたが、一口、口に入れると次々に食事が喉を通っていく。
案外お腹が空いていたようだ。帰って来るまで私は、かなり緊張していたのだと、自分で驚く。
お腹が落ち着き、オルドリックが自分の見聞きしたことを話始めた。
彼は、ほとんどを帝都の諜報に明け暮れていたため、帝都民の様子や役所の役人からの情報が主だった。
住民からは物価がまた上がるかという不安があり、役人からは手続きの決定書類の行き先が曖昧になってしまったという愚痴が多かった。
その為他の商会でも困っていたようだ。
商会は国に申請して税金を払わなければ罰せられる。その為書類が通らない間商売は止まってしまうからだ。
オルドリックが聞きかじった王の簒奪。噂では王族が一人残らず投獄された。そして新しい王は自らを”アサド帝王”と名乗っている。
そこまででオルドリックの報告は終わった。
「……アサド帝王か。で、サクラは何かつかんだか」
「はい、アサドは、光と闇の使い手です。彼は魔物化しているかもしれません」
「っ! なんだと!」
これまで私が偶然知ることになった経緯を話した。
メイリーンの事。ラシードのこと。そして王の聖獣。
ガジに影から出てもらうと、レオポルドはのけぞった。
「聖獣……遠くから見たことはあったが。まさか」
「名前をガジといいます。彼女は死にかけていました。それで……」
「どうした。サクラ。誰が助けた」
《サクラが、治癒を使って助けたんだよ。ボクがガジを連れてきたんだ》
ポンタの暴露で、部屋の空気が一瞬で凍った。
「サクラ! あの時の光か! お前は治癒も使えた……え、ということは属性が二つあると言うことか」
オルドリックが大声で怒鳴ったせいで、部屋の緊張が解けたようだった。
レオポルドも気を取り直し、私に質問し始める。
「では君もアサドと同じだというのか? 見たこともないぞ、複数の属性を持つものなど」
「いえ、父上、聖獣は複数の属性を使えると聞いたことがあります。サクラ、そのガジも複数の属性を持っている、そうだね」
エドワードの落ち着いた声に緊張していた私もやっと息が出来る様になった。
「はい、ガジは風と闇が使えるようですが、まだ力が成長していないみたいです。多分、魔が足りないのだと思います」
《そんだ。魔ば足さねばまいね。サクラもだ。このままだば一生おがね》
「「「……」」」
朱雀も話し始める、が、誰も理解できていないようなので、代わりに私が通訳する。
「魔を飲まなければこのまま成長しないそうです。聖獣も人も」
「魔の問題は解った。だがまずはアサドだ。彼はどうやって魔物化したのに王になれるのだ? 意識はあると言うことなら、魔物化とは言えぬのではないのか」
そこで私は、ラシードから聞いた魔の兵団の作られた経緯を話した。
恐ろしい非人間の所業だとレオポルドは眉間にしわを寄せて以前の王をなじる。
エドワードもじっとしていたが両手を握りしめて耐えているようだ。
彼も、帝国の犠牲者なのだ。
「魔の兵士となってアサドは、光と闇を手に入れた。光は浄化が始めのスキルとして現れやすいんです。私もそうでした。彼は自らに浄化を使い続けたようです。それで”毒が消えた”と言っていたみたいです」
「では、他の魔の兵士は?」
「浄化すれば、意識が戻るかもしれません。以前ポルトン国の聖女も、穢れた精霊に同じような使い方をしたのを見ました。これは真実だと確信しています」
「聖女とは、メイリーン王女のことだな」
「はい」
長い話も落ち着いた頃、エドワードが遠慮がちに言いだした。
「サクラ、では、君の成長が実れば、私の両足も元に戻る……そういうことだよね」
レオポルドは始め何のことかと首をかしげそしてグルリと首を回して私を見た。
「本当か、サクラ!」
「……多分……出来るかもしれません」
「魔さえ手に入れればいいんだな。サクラ」
「……えーと、そういうことになります」
それからのレオポルドは大変な行動力で王宮へと使いを出した。
メイドに意替えを急がせ執事に手紙を持たせて、一分も無駄にしないように突っ走った。
そして私にはやしきに当分の間泊まるように言い聞かせ、飛び出していった。
私は、早く家に帰りたいのに帰れずしょんぼりしてしまった。




