46 王位の簒奪
ヤスミーンの部族から戻って、オルドリックにこの事を報告すると目をぱちくりしてこう言った。
「遊んでいたわけじゃ、なかったんだな」
なんという言い草だ。私は一生懸命考えて商売を広げてきたのに。
「そっちはどうなの? 情報は掴めたの?」
「まあな、魔素調整学園が一時閉鎖になった」
「ええ、知っている。ヤスミーンに聞いた。それで、他の情報はないの。私に何もかも隠していたら、オルドリックに手伝えないでしょう」
「お前はここにいればいいんだ。ちょろちょろするな。今帝都はなんだかおかしい。これからは遠出するな。分かったな」
ちょろちょろだなんて。本当に失礼しちゃうわ。
オルドリックはまたどこかへ行ってしまった。
そういえば、ヤマタイラ国の私の本業は上手くいっているのだろうか。
転移人に手紙を渡してもらったのだが、「大丈夫だ」とパパが一言だけ返して寄こしたのだ。
工場にたくさんのお針子を抱えて忙しそうだし、士族や華族の御用聞きも忙しいだろうに。
「早く、ローゼン商会の仕事を終わらせて帰りたい」
《サクラ、ボクが見てこようか?》
「そうだわ、ポンタに頼めば良かったんじゃない」
ポンタに手紙を持たせ、さらに、ここで仕入れたお土産も一緒にお願いした。
赤い粉もきっと喜んでくれるだろうし、ココナッツオイルも喜んでもらえそうだ。
その年も今日で終わり、明日からは新年だ。
大してお祭りらしき事もなく年が明けたが、帝都に激震が走った。
「サクラ! 王が、王族が皆投獄されたぞ」
大声を上げながら、オルドリックが部屋のドアを開け入ってきた。
「王族が投獄って、だれに?」
「新しい王だ。彼は自分をアサド帝王と名乗った」
オルドリックは、この先の見通しがつかないため、一時プロイスタン国へ帰ろうという。
王が替われば体制が変わるだろう。この先、帝国の屋台骨をぐらつかせる予定のレオポルドは、方向転換をせざるを得なくなったのだ。
「そうね、黙っていても勝手に落ちぶれてしまうかもね。帝国は」
「そうなればいいのだが……今度の王は魔を身につけているそうだ。しかも、光だぞ。かなり手強くなるのではないかな……」
――ポンタったら何しているのかしら。早く戻ってこないと置いて行っちゃうわよ。
「おい、どうしたサクラ」
「ポンタがどっかへ行っちゃったの。オルドリック、私、もう少しここにいなければ。あなたは先に帰って」
「そんなことできるか!」
彼が一緒だと困るのに。
私は商会の部屋からオルドリックを閉め出した。
「一体何考えているんだサクラは!」
部屋の外で、オルドリックが騒いでいるが、かまっていられない。
「ポンタ。早く戻ってよ……」
ポンタがようやく戻ってきたと思ったら、黒いものを影からぼとりと落した。
犬のようだ、もう死にかけている。
体中焼けただれて、舌をだらんと垂らし、虫の息だった。
「ポンタ、どうしたのこれ……」
《声がしたんだ。助けてくれって。だから大きな建物の中へ入っていったら、こいつが倒れていた》
私は、治癒を試してみた。
全身が酷い火傷で、もう助からないかもしれないけど、やるだけやってみる。
朱雀も私の傍で黒い犬をじっと見ている。
一度の治癒では助けられない。何度も何度も繰り返し治癒の光を当てる。
ピカッと連続した光は、部屋の外に漏れていたようだ。
「サクラ! いったいなにをしているんだ」
《さすねな、なんぼやがましい、おどごだば》
「もうこれくらいでよさそうよ。どう、朱雀」
《んだ、いべ。これは聖獣だべな》
「え!」
何度目かの治癒が終わりやっと火傷が癒えて、苦しそうな息づかいもなくなった。
それでも私は気絶もしないで持ちこたえている。
――治癒もちょっとは成長したのかも。
フラフラになりながらも、聖獣という魔物の様子を見守った。
***
ガジは、大神殿の大広間から助け出されたようだ。
王の聖獣、ガジ。彼女は王を身を挺して助けようとしたのだった。
だがあえなく王は捕まり、ガジは瀕死の状態に陥った。
意識が遠ざかるまで見た光景は、凄惨なものだった。
王族が一堂に会したこの良き日に、族が押しかけてきたのだ。
扉を閉められ、逃げ場のなくなった者達は、抵抗するものは殺され、無抵抗なものは連れ去られた。王もそうだった。
苦し紛れに《助けて》と叫ぶと、白いオポッサムが現れ彼女を連れ去った。
ガジはその後の記憶が曖昧になった。
そして今、身体が元に戻り、目の前の女の人が治癒を掛けて救ってくれたことを悟ったのだ。
彼女は聖獣よりも格上の赤い火の鳥の魔物を従えている。
そして聖獣オポッサムも。
《おめ、名前っこなんだば》
《**》
《ガジ、おもしれ名前っこだな》
「名前まであるの。この聖獣は誰かに飼われていたのかしら」




