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40 新しい洋服

ヤマタイラの転移の間を出たところで、珍しい人に出会った。

ユウカとタカシ一行だった。

夏休みが終わって、帝国の魔調整学園へ戻るのだろう。


「サクラじゃないの!」


「ユウカ、久し振り」


「庶民が転移? お前、裏技でも使ったのか」


相変わらず、チビでなくなったチビは口が悪かった。


「タカシ、いい加減にしなさいよ。サクラに対して失礼でしょう」


ユウカがぷんぷん怒って、タカシに食いついている。

そう言えば、タカシたちはその後、新兵になって無事に過ごしていたのだろうか。


「タカシくんたち。まだ魔物と戦っているの?」


「そうだ。逃げ帰った腰抜けのお前とは違うんでね。もう少しで俺もヤマタイラに戻ってこれる」


タカシは白鷺財閥と懇意にしている華族の子どもだそうだ。

白鷺財閥は、一族の女性を華族に嫁がせ、権力をほしいままにして勢力を広げているという。

その中でタカシは、側室の子だ。彼は彼なりに、大きな権力の中で必死に居場所を模索しているのだ。

いくら口の悪い元チビでも、今の私は気にならない。

むしろ、自分の生きる道が狭まっている彼らを可哀想に感じていた。

彼らが転移の間に姿を消した後、私は一人悩んでいた。


――このまま黙っていて、良いのだろうか。


今、ポルトン国、プロイスタン国、ミクロン諸島と、帝国から離脱し始め、それぞれの道を歩もうとしている。

ヤマタイラ国にも、魔があるのだ。帝国へ行かなくても自前で賄えてしまう。

私はそれを隠しているのだ。

それは、神獣のためでもある。もしあの場所を国に申告すれば、ヤマタイラ国も帝国から離脱できる。

そして子どもたちを危険な目に遭わせることもなくなるのだ。


――パパは黙っていなさいといったけど……。


転移の間をもう一度見て、それからそこを後にした。


「お嬢様、試作品の洋服が出来上がっています。どうぞ見てやってください」


ばあやが私の足を洗いながらそう話してくれた。私は急いで縫製室へ駆け込んだ。

衣紋掛けには、すっきりとした型の洋服が三枚掛けられている。


「ミネさん、三枚も作ってくれたの」


「ええ、今は綿で仮縫い段階です。体型別に分けて作ってみました」


生地は安物の粗い綿素材だが、形はきれいに出来上がっている。

色は白一色なので、見栄えはしないけど、これを絹や、もう少し色味のいい綿で作れば、きっと売れる。

問題は生地だ。

庶民用と、上流階級と分けて作る必要がある。

まずは上流階級用に生地を調達しなければならないが、値段を設定しなければ生地を仕入れられないし、安すぎても華族は敬遠する。難しい選択だ。

腕を組んでうーんと悩んでいると、ミネが、


「生地は、私の以前勤めていたところから仕入れればどうでしょう。あそこでは端切れを大量にまとめ売りしております。元値の三分の一ですよ」


すごく良いことを聞いた。私は早速首都まで行きその洋装店へ行った。

店の奥へ行き、端切れが欲しいというと、木箱いっぱいに入った端切れを見せてくれた。


「まとめて買うから、半額にできる?」


「お嬢さん、無理を言っては困ります。これでも半額の値段だ」


「でも売れなければどうしようも無いじゃない。じゃあ二割引いて」


「……まいったな。じゃあ、こうしましょう。今後も生地を買ってくれるんなら、一割引きましょう」


「まあ、生地は雑多なのよ。気に入らない色は要らないと言ったら、どうするの」


「くそ、分かった。持ってけ泥棒」


というわけで半額の半額で仕入れることができたのだった。

本来三分の一の値段なのに、あの店員は欲を出して高値で売ろうとしていたのだ。粘った末四分の一になってしまった。


「首都の人間は気が短いって聞いたけど本当ね」


***


私たちは、生地をより分け、一着分になりそうなものを集めてみた。

木箱から溢れるほどあったのに、出来上がる服は精々が二着。

後はどうやっても無理そうだ。


「サクラお嬢様。私、考えたんですけど、上下に分けて作ってみたらどうでしょう」


「そうだわ、着物の二部式みたいに上と下に分ければ面白そう。生地が違っても組み合わせで、かえって工夫ができて喜ばれるわ」


まずは、型紙を起こさなければ、それはすぐには出来上がらない。

取り敢えずは、ある布でドレスを作ってもらい、見本として持ってけるように仕立ててもらうことにした。

ミネさんは瞬く間に一着仕立ててしまった。


「簡単です、華族が着るようなドレスと違い、刺繍もブレードも付ける必要がないんですから」


そういうものなんだ……華美なドレスなど身近になかったせいで知識がなかった私にとって、ミネさんは宝物だった。

出来上がった洋服をパパに見てもらい値段の設定を相談するとパパは、


「いくら普段着だといっても、高級な生地を使っている。安くはしない方がいい。ドレスの半額はもらった方がいいぞ」


「これ、生地を綿に変えて庶民にも売りたいんだけど」


「それはしばらく待った方がいい。華族や士族のような上流階級が普段使いし始めれば、話題になる。そうなれば自然と需要ができてくる」


そう言ってから、パパはハッとして、


「呉服屋の生き残りが……」といって頭を抱え、悩み始めてしまった。


***


貴族への売り込みはパパに任せ、私たちは二部式の制作に取りかかった。


「紳士服に似せれば作れそうです」


上はシャツ、下はドレス。ドレスに生地は別注した方が良さそうだ。


「でもサクラさん、手間はかかりますが、端切れを組み合わせてジャケットを作る技法もあります、私に任せてもらえませんか?」


「もちろんよ。生地は好きに使って。余ったのミミネさんの坊やのズボンにでもして頂だい」


「ありがとうございます……それであの、ご相談があるのですが」


ミネさんは、以前働いていた店を止めていた同僚に「紹介してくれ」と頼まれているようだ。


「もちろんよ。お針子さんはこれからどんどん入れたいの。知り合いがいたら連れてきて欲しい」


***


お針子が一気に五人増え、私は、縫製ではやることがなくなってしまった。

今までは、躾を抜いたり、針に糸を通したりと、私にも細かい仕事はあったのだが、


「お嬢様は外回りをするのがお仕事です」


と、ばあやに言われてしまった。

確かに私がやるよりは手慣れたお針子がやった方がいいに決まっている。

私はパパについて回ることにした。

士族の奥様の話し相手をしたり、採寸をしたりして回る。


「このままでは身体が待たない」


パパまでそうこぼすようになった。士族の奥様方にたいそう喜ばれて引っ切り無しに注文の依頼が来るようになったからだ。


「よし、思い切って首都に出店するぞ。縫製部門は、サクラお前が取り仕切れ」


大通りから外れた小さな空き家を買い、そこにお針子たちや丁稚を住まわせ、縫製部門首都支店が出来上がった。

こうして私は店長となった。

ここでの仕事は、主に士族の家への出向だ。採寸をとり、注文を受け付け、そして奥様の愚痴を聞く。

奥様たちは大体が四、五人で一緒に集まってお茶を飲みながら長い会話をするのだ。

その中で一人の士族がこう言った。


「皇族の春の歌会にご招待されたの」


彼女の旦那様が勲章を授与されて、奥様にもお声がかかったのだという。


――華族でさえ雲の上の人なのに、皇族だなんて。お目にかかることも一生ないだろう。


その時は私はそう思っていた。

月のはじめの五日になれば、プロイスタン国へいかねばならず、目が回るほど忙しくなった。



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