39 エイリック
メイリーンの国から戻った私は、レオポルドに報告にあがる。
「なんと、この短い間に、また変化があったのか。この後どうなるか……」
「大丈夫。今後は落ち着くはずです。王は退位し、国自体が王国ではなくなるという話です」
「では、どのような体制で国をまとめていくというのだ」
「メイリーン……聖女は、”ポルトン聖国”と名を改めると仰いました」
私自身、話していて、いったいどんな国になるのか見当がつかなかった。
貴族制度はそのままなのか。
魔の扱いはどうするのか。
国は何を産業として成り立つのか。
でも、これは、私が考えることではないのだ。メイリーンが、周りと助け合ってやっていくしかないのだから。
「暫くは、援助していかねばなるまいな……」
レオポルドは一人、頭の中で計算し始めたようだ。
「あの、私、帰ってもいいですか? 国に事業を興して忙しくなりそうなんです」
「あ、ああ。また何かあったら……いや。サクラ。毎月五日に迎えにやる。月に一度は顔を出して欲しい」
「はい、日にちが決まれば、予定が立ちますね。承知しました」
商会を出た私は、エイリックの王都にある屋敷へ向かった。
転移人には一日だけ待ってもらうことにする。
本当はポンタが転移出来るから、自由に戻れるのだけれど、ポンタの転移は秘密にしているのだ。
それに、国の行き来は細かく記録されている。
突然人が消えて、他国にいるのが知られれば、私は転移が成長したと思われ、転移の間に紐付けられてしまうだろう。
それだけは絶対に嫌だった。
エイリックの屋敷の門番に「子爵様は領地へ戻っておられる」
そう教えられて、私は素早くその場を離れてポンタに転移で移動してもらった。
領地の屋敷は賑やかになっていた。使用人も増え、彼らの表情も明るくなっていた。
バンシーの恐怖に怯えなくなって、やっと落ち着くことができたようだ。
「おや、サクラ様。子爵様は庭に出ておられます」
執事にそう言われたので庭に回った私は、庭師と話をしているエイリックを見つけた。
「エイリック!」
「っ! サクラ……プロイスタン国に来ていたのか」
エイリックと庭師は、土の属性を見て、他に何か利用出来ないかと話し合っていたようだ。
丁度良かった。エイリックに朱雀から聞いた”属性の仕分け”を見せれば役に立つだろう。
メモしておいた紙を差し出すと、エイリックは初め不可解そうな顔をし、その後大きく息を吸ってこう言った。
「なんということだ。これは、本当の事なのか」
「多分ね。朱雀は長く生きた神獣だよ。彼女が教えてくれたことだから、正しいと思う」
火の属性には、「身体強化」「浄火」「炎撃」「熱操作」など今まで知られていたスキルが書き込まれ、水にも、土にも風にもそれぞれのスキルが書かれている。もちろん闇や、光もだ。
土の場合は「防御」「結界」「重力操作」「物質硬化」などが書かれていた。
物質硬化は、ミクロン諸島の人が使い熟して、建物の骨格を作っていたものだった。
「なんということだ。水の属性には、鑑定や言語理解まであるではないか」
「そうだよ。でも、魔をもう一度飲まなければ、力は限定される。でも、エイリック。飲み過ぎないで。何があるかはまだ未知数なの」
屋敷に戻ったエイリックは応接室に私を招き「少し話したい」といった。
「サクラ、私が勝手に君のスキルを暴露したことを怒っていないのかい」
「今考えたら、エイリックは私の為にしたことだと分かる。だから……初めはショックだったけど、今は感謝しているの。お陰で、メイリーンとも再会できたしね」
「メイリーン……ああ、ポルトン国の。そう言えばあの国は大丈夫だったのか」
「うん、すごいことになっている。メイリーンが聖女になって国を引っ張っていくことになった」
「……サクラが一枚噛んでいるな。そうだろう?」
「フフ、内緒、私エイリックにお礼を言いに来ただけなの。もう帰らなければ。じゃあ、また来ます」
「ああ……また」
私は後ろ髪を引かれる思いで、エイリックの元を去った。
エイリックはもうすぐ妻を娶るだろう。領地も順調で、魔の体系も知ることとなった。
彼はこの先、伯爵にも、もしかしたら侯爵にもなるかもしれない。
国の重要な魔の管理を任されているのだから……。
私のような庶民には、口も聞いてくれないような地位まで上り詰めるだろう。
「今さら好きだって告白なんかできないわ。これは私だけの胸にしまっておくしかないものだもの……」
また王都に戻って転移の間に急いで入った。
いつもの転移人が待ちわびていた。あの、牢に独りぼっちで残された彼だ。
この転移人は商会の専属で、いつも私の転移を受け持ってくれていた。
「遅かったな、あいたい人に会えたのか?」
「はい、これからは毎月五日にここへ出向くことになりましたので、宜しく。レイブンさん」
「ああ、転移する」
光に包まれ、一瞬でヤマタイラ国に戻った。




