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38 決戦

「我が国は、かつて“精霊の国”と呼ばれておりました。

我らの先祖は精霊と契り、精霊とともに歩み、 その加護のもとに穏やかな時代を築いていたのです。

我が母系の王の御代。ここは精霊たちの楽園でした。

しかし、神聖なる世は失われ、 今や我が国は帝国の手によって搾取されるばかりとなりました。

それは我が国だけではあらず、

世界の多くの国々が、同じく帝国の支配に沈んでおります。

なぜか。 その理由はただ一つ。 “魔”という存在を、帝国が資源として体系化し、 己の都合のままに独占したからです。

けれど――それは真実の体系ではありません。

魔は帝国のみにはあらず。

我が国がかつて”精霊の御座すところ”と呼び敬った地。正にそこにあります。

私は精霊の導きにより、新たな真実を知りました。 魔は奪い取るべき資源ではない。 魔は、我らと共に生きる“同胞”であり、 世界を支える尊き存在です。

ここに、私メイリーン・デ・ルシヴァ・カストロは宣言いたします。

私は魔の祝福を受け、

聖なる力を授かりました。


――この身、聖女として立つ者であると。」


***


私は、メイリーンの演説をポンタの”影”に隠れて聴いていた。

ここに来る前に、私とメイリーンは少し時間をおいて、作戦を練ったのだった。

メイリーンを探しているという貴族の一派に、、この日王女が姿を現すとそれとなく噂を流した。

そして、大勢の貴族や市民が見つめる中で今の演説が行われたのだった。


彼女が立っているのは、かつてこの国で信仰されていた精霊の神殿――その鐘楼の上だった。


メイリーンの身に纏っている白いトーガは、ポンタの空間庫に残っていた羽二重で私が即席で仕立てたものだ。

真っ白な羽二重を纏ったメイリーンは正に聖女だ。

真っ赤な髪は燃えるようで、薄茶色の瞳は慈愛に満ちている。

仕立て上がったトーガを身に纏いメイリーンは「私にできるかしら」と不安そうにしていたけど、こうしてみると中々どうして、堂に入ったものだ。


貴族たちや市民は、今までこの国の展望を抱けなかった。

目の前の利益に飛びつき、我が身の保身に走り回ってばかりだった。

この国は貧しい。

王は求心力を失い、王に成り代わり我も我もと競い合っていた。

だが今、メイリーンはこの国の方向を示したのだ。


「温故知新」


原点に立ち返ろう、もう一度見直そうと。

彼女は、ポルトン国に光を当てたのだ。

ポンタは、メイリーンの話をじっと聞きながら、ぽろぽろと涙をこぼしている。


「ポンタ、すごい演説だったね。感動したの?」


《うん。知らなかった。ボク、精霊だったんだね》


……何となく違うような気もするけど、

本人にとっては、気持ち良く受入れられる真実なのだろう。

私は何も言わず、そっとしておくことにした。


《ポンタはまだ神獣でも精霊でもねじゃ。まだ、おぼこだはんでな》


ぼそりと朱雀が呟く。神獣の言葉こそが、本当のところなのだろう。

メイリーンがかつて精霊の地と称した場所には、魔があった。

そこには、崩れ落ちた神殿があり、辺りは荒れ果てて、大きな岩がごろごろころがっていた。

岩の間に、黒い魔がにじみ出し、魔物がそこら中にいたが、ここに人は住んでおらず、今は誰にも知られていないようだ。


その魔物の中に、精霊らしきものも見付かったのだ。

ここの聖なる存在は、人型のようだ。小さな人型でたくさんいた。よく見ると顔は人とは言えない。

身体に似合わないほど口が大きく、牙がある。

メイリーンはその小さな魔物を「マルシーニョス」と呼んで浄化を掛けた。

光に包まれたマルシーニョスは、赤黒かった身体が白く輝きだし、牙が消えた。


「彼らはきっと、ここの魔をきれいにしてくれるはず」


「メイリーン、なぜ浄化を掛けたの?」


「母からずっと聞かされて育ったの。今まではおとぎ話だとばかり思っていたけど。これは昔から続く儀式なんだと、今は分かる」


朱雀に通訳してもらい、精霊がこの地を守っていたことが分かった。

魔物が溢れ出ないように、そして魔物自体をも保護していたようだった。


「これを復活させるのは大変そうね」


「ここからは私達ポルトン国の人々の仕事よ。サクラ、あなたにはなんていってお礼を言えばいいのか……」


「私は商人だよ。国を立て直した後に、ごひいきにしてくれたら良いんだから」


もう潮時だ。プロイスタン国へ戻り、今回の取引の受取証とともに、国の体制が変わりつつあることをレオポルドに伝えなければならない。

そう思った矢先――


「あれ……転移人さん!!!」


すっかり忘れ去られていた彼は、牢の中で、一人ポツンと膝を抱えていた。

親切な転移人さんを、急いで牢から助け出した。


「私が牢に入っている間に、急転直下の変化があったんだな」

事の次第を話すと、彼はそう言って目を丸くし、そして、ぽつりとつぶやく。

「私の事は……忘れられていたのか」


その問いに、私はそっと顔を背けた。

こうして私たちは、帰路についたのだった。



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