29 サクラの商売
エイリックの領地は、もう大丈夫だろう。
期せずして、土属性の魔持ちも手に入れたし、これからは王様に魔を差出し、そして領地を活性化していけば、一年後に迎え入れるお嫁さんとも仲良くやっていけるはずだ……。
「私には、関係ない事でしょ!」
馬鹿な私。もしかして……なんて期待して。
さあ、気持ちを切り替えないと。
私は、世界を股に掛ける、大商人になるんだから。
取り敢えず、せっかく出来たコネを最大限に活用させてもらおう。
「エイリック! 私が持ってきた羽二重と宝石珊瑚、さばけそう?」
「ああ、問い合わせが殺到している。知り合いに回して見てもらったら、すごい食いつきようだった」
《ボクたくさん持ってきた。いくらでも売れるよ。サクラ》
そうなのだ。ポンタの異空間には、文字通り売るほど入っている。
ポンタ様々だ。
パパは相当つぎ込んでこの品物を仕入れたんだろう。
――大丈夫かしら。私が失敗したら、どうするつもりなの?
ポンタの異空間には、いったいどれほど収納できるのだろう。
朱雀によれば、魔を追加で取り入れたポンタは、極限まで闇の属性が使えるようになれたという。
朱雀だってすごい。火の鳥という神獣なんだから。
今のところは真っ赤な鶏にしか見えないけど、成長したら、きっとすごく綺麗になるんだろうな。
エイリックが仲立ちになって王様経由で、こちらの大商人に紹介してもらえることになった。
彼の名は、レオポルト・ローゼンフェルト。
この国一番の豪商だ。
現在五十七歳で、ローゼン商会を一代で築き上げた凄腕だという。
「儂は七歳からこの仕事をしておる。計算の速さは誰にも負けない」
頭が切れる。
見た目もキリッとしていて、押し出しの強そうな叔父様だった。
「サクラ殿は、ヤマタイラ国からいらっしゃった、そうだな」
「はい、父はヤマタイラ国の……大商人です!」
ちょっとだけ、見栄を張った。いや、この世界ははったりがものを言うのだ。
「ほほう、そうかね。ところでヤマタイラ国の絹製品は、皆この様に上質なのか。始めて見る手触りだ」
「ええ、こちらに持ってきたのは特に上質のものです。ですがこのほかにも錦紗や、絹ではありませんが木の皮を使った布、あとは芭蕉布なんかも家で取り扱っております。あと、織物はもっと綺麗です」
「そうなのか……なぜ今まで品物が回ってこなかったのだろう」
「ほとんどが帝国へ輸出していました。買い叩かれていたようですけど」
「……確かに、この国の香水や、酒もそうだ。お互い弱い国同士、これからは助け合っていこうではないか」
商売は、トントン拍子に上手く進んだ。
私が持ってきたものは貴族に気に入られ高値がついた。
そしてこの国の特産は、きっとヤマタイラ国のお偉いさんたちに気に入られるだろう。
レオポルドさんは、「弱い国」と自国を卑下したけど、実際はヤマタイラ国ほどではない。彼は帝国との取引もそうだが、他の国とも手広く商売をしていた。
私は、ずっと気になっていたメイリーンの国のことを聞き出した。
「ああ、あそこは数年前に政変があった。確か侯爵が王に成り代わろうとして討ち取られたと言っていたな」
侯爵! まさかメイリーンの家ではないわよね。
私は背中を冷たいもので、なでられたような気分になった。
「私、実は帝国の魔調整学園にいたことがあるのです。絶えきれなくて途中で投げ出してしまいましたが」
「なんと、平民であの学校へ入学できたと!」
魔調整学校の知名度は素晴らしい。だけど問題はそこではない。
「そこで知り合ったお友達が侯爵令嬢でした。彼女は途中で戻ってこなかった。その政変の影響でしょうか?」
「分からんな。だがあり得る。例え違う貴族だったとしても、影響はあっただろう」
話はそこで止まってしまった。だが私は、メイリーンの国へも是非行かねばと心に誓った。
メイリーンは怖がって学園に来なくなったと思っていたけど――本当は国の事情だったのかもしれない。
国が混乱していれば、勉強どころではなかっただろう。
ましてや彼女の国は、ヤマタイラ国と同じくらい弱小国なのだ。
「無事だよね、メイリーン。元気でいて、絶対に会いに行くから」
レオポルドさんは転移の自由権というものを与えられているそうで、専属の転移人もいて、方々の国と取引している。
そこに私も同行させてもらえないだろうか、と頭をフルに回転させた。
――一度でいい。一度行けたら、あとはポンタが自由に行き来できるようになる。
これからは、十二以上あるという世界の国々を回って、パパの仕事を助けたい。
私は大商人になるとパパに誓ったのだから。




