28 エイリックの昇爵
エイリックの昇爵がまた決まった。
つい一年前に男爵になったばかりではあったが、魔を見つけて採集してきたこと。そして領地の問題をいとも簡単に解決したことなど、王をたいそう喜ばせたのだ。
「まだ若いと側近たちに反対はされたがな。儂は其方を気に入った。子爵に昇爵して進ぜる」
「は、有り難き幸せにございます。王命を真摯に受け止め、この後も精進して参ります」
エイリックは王宮を出て馬車に乗りこんだ。
馬車の中のエイリックは先ほどとは打って変わって、元気がなかった。
「フーッ……」
ため息が、馬車の狭い空間に染み込む。
馬車の小さな窓からぼんやりと空を眺め、考え込んでいる。
いつまで経ってもエイリックからの出発の合図がないため、不審に思った馭者が、声を掛ける。
「いかがなされました、男爵様」
「……ふ。私は今度から子爵だ、とさ」
「そ、それはおめでとう御座います、子爵様!」
エイリックが杖で天井をとんと叩くと馬車はゆっくりと走り出した。
叙任式はまだ先だそうだが、王から直々に爵位を賜ったのだ。これからは気軽に外国へは行けないだろう。
特にエイリックの場合は簡単には国から出ることは出来なくなった。
あの湖の魔物ニクスは、エイリックにしか魔を持ってきてくれないからだ。他の者が小舟に乗って魔をすくい取ろうとすれば、湖の水が変化して暴れ回るようになってしまったのだ。
サクラの魔物、朱雀やポンタには助けられた。
朱雀には虫の魔物を減らしてもらったし、ポンタは異空間に魔を集めてくれた。
ポンタがすくい取った魔は十リットルほどもあった。
それを王に献上したのだ。
魔の使い方は簡単だ。ただ飲めば良いだけだ。
その事も王に知らせ、サクラから聞いた”希少な魔の力が身に付く方法”を教えた。
そのお陰で、一気に百人ほどが魔の使い手となった。
この後、魔の使い手が毎年増えていくようになれば、帝国など行かなくて済む。
しかも、帝国に次ぐ力を、この国が持つようになるかも知れない。
「この功績は、本当はサクラのもののはずだ」
だが、サクラのことを王に話すわけにはいかないのだ。
サクラの力や、サクラの魔物の事が知られてしまえば、サクラもエイリックのように縛られてしまうだろう。
――それだけは絶対に阻止しなければ……。
サクラの魔物たちは、異常なほどの力を持っている。
魔物だけではない。
サクラ自身も、治癒の力に加え、拙いながらも転移までが使えていた。
朱雀の火の力と、魔に関する深い知識。
ポンタの空間庫、という闇の力の希少さ。
それらは、どれも国家にとって有益すぎるのだ。
エイリックは、王都にサクラを連れて行った。
サクラが「商人を目指す。ここで商売をして帰る」そう言ったからだった。
王から与えられた王都の屋敷は、子爵の身分には不釣り合いなほど大きく、立派だった。
彼女の願いは、できる限り叶えてやるつもりだ。
すべてを投げ打ってでも……。
サクラは諸国を回って手広く商売をしたいようだった。
それには、気軽に転移する権利が必要だが、その権利は生半可に手に入るものではない。
特に、ヤマタイラ国でのサクラの地位の低さでは、望むべきもない。
サクラが街を歩くとなれば、服装が問題になる。
貴族ともとも言えない、かといって平民とも見えない、品のある服が必要だ。
レオポルドは大商人だ。サクラが見下されるようなことがあってはならない。
エイリックは、屋敷に服飾屋を呼び、サクラの服を誂えさせたのだった。
「エイリック、ボボのミクロン諸島へもいつか行ってみたい。でも、先にポルトン国へ行ってみたい」
「ポルトン国……ああ、メイリーンか。彼女の国は今は落ち着いただろう。レオポルドに頼んでみるか」
エイリックは、彼女が帰国するまでに、レオポルドに頼んでこの国の特産を大量に仕入れることにした。
これはサクラには内緒だ。彼女に言えば、商人のプライドで固持するだろう。
だから、こっそりポンタに持たせることにした。
《面白そう! ヤマタイラ国でこれを出して見せたら、サクラはビックリするだろうな。ぐふふ》




