2 エイリック・クラウゼルト
エイリックは魔調整学園に来たのは一年前だった。
彼は、伯爵家の次男の従者だった。
エイリックの家系は代々伯爵の騎士を務める。
――私も何れは、そうなるはずだったのだが。
適性検査を受けたとき、伯爵家の次男は魔に転じてしまい、
エイリックだけが、学園で学ぶこととなった。
「私だけが魔を宿して、おめおめと国へ帰る事は出来るのだろうか」
――伯爵はきっと嘆くだろう。私を斬るかも知れない。
悶々とする日々が続く。
ここの学園では卒業間際にならないと、本格的に魔を授けてはくれない。
適性検査の折に飲んだ魔が、身体に馴染み、さらに多くの魔を取り込める身体に成長するまでの準備期間が数年かかるためだという。
その間に、様々なことを学んで過ごすのだ。
例えば、帝国の文字。そして魔の使い方や特性。スキルと呼ばれる技能の種類などだ。
だがそれも二年すれば終わる。
残された四年は、砂漠へ出て己を鍛える時間に充てられるそうだ。
何となく曖昧のされていて、詳しい話は誰に聞いても知らないと言う。
魔を早く馴染ませるためらしいが、エイリックはどうも帝国にいいように使われているのではないかと考えている。
魔が染み出す国土には、魔物が溢れている。
帝国の国土は広いが、人の住める土地はごく限られた地域だけだ。
確かに帝国には魔持ちが多い。しかし帝国の魔持ちは、ほとんどが下層階級だと言われている。
碌に教育もせず、魔持ちにして、魔に転じれば始末する。
生き残った者は兵士となって砂漠に行かされる。
帝国に戦争を仕掛けるような馬鹿な国は無いのだから、帝国の兵士の仕事は魔物を退治することだけだろう。
そして魔物の素材を持ち帰る。
魔物素材と魔は、帝国の産業とも言える。
帝国には水も食料も少ないが、他国から大量に輸入できるのは魔の資源のお陰だった。
今日も講義を受けに、教室の席に座る。
毎日が座学だった。一年目で文字。二年目からは魔の特性と魔法理論だ。
エイリックの隣には、学園で知り合って友人がいつも座る。
彼ボボは、我々の大陸とは違う島から来ている。南に浮かぶ諸島出身だった。
赤道近くにあるミクロン諸島というところの王族だそうだ。
彼の肌は漆黒で、身長はそれほど大きくはないが横に広い。 顔も横幅があり鼻もそうだ。
だが人懐っこくてすぐに打ち解けることができた。
「エイリック、おいは、聞いただす」
「何を?」
「帝国兵士の魔の取り入れ方だす」
「私たちと、違うのか?」
「ああ、なんでも黒い魔溜まりに飛び込むんだそうだす」
「黒い? この間の講義で教師たちは言っていなかったか。精錬されていない魔は、何が起こるか分からないから危険だと」
「そうだす。だから下層の人間を使っているんだす。精錬すれば、使える魔は一千分の一になるそうだす。効率が悪いだす」
「……」
魔を精錬させれば透明になるという。
原液は黒くどろりとしている。これは適性検査の時に舐める程度だが、飲まされたから知っていた。
「あの原液の中に身体ごと入れば、どうなる? 魔物に変じるのは目に見えているじゃないか」
「ああ、だから生き残るのは十人に一人くらいだそうだす。魔溜まりの周囲で兵士たちが見張って、魔物化すればすぐさま殺してしまうらしいだす。魔が馴染む前に」
教師が入ってきて授業が始まった。今日の授業は”魔を精錬する目的”だった。
*****
「ユーフラティア帝国には世界で唯一の魔の産出国である。過去、先人たちはこの魔の扱いに苦慮した。
魔は魔物を生み、人を魔に変じる。この国は日々脅威にさらされていた。
しかし在る素晴らしい学者、エイブラハムはこれを発見した。
では、今日はその精錬法の意味と、それをどのように取り込めばより希少なスキルを得られるかについて説明する――」
*****
要約すると、精錬されれば身体に取り込みやすくなるというものだった。
そして雑多なものが混じらない純粋な技能が得られる。特化したスキルとなると言うのだ。
隣にいたボボが、手を上げ質問する。
「おい、質問する」
「ボボ、なんだ、言ってみなさい」
「雑多な魔の原液は、取り込めばどうなるだす?」
「ああ、君は我が帝国の兵達の話を聞いたね――分かった教えよう。原液は確かに危険だ。だが彼らは自分から志願してやって来る。そして危険を顧みずに試練を受けて、立派な兵士となる。我が帝国民は勇気ある国民だからだ」
「しても、死んでしまうだす」
「そうだ。精錬されていない原液は、魔の効率も悪く、雑多な魔が寄り集まっている。飛び込んだ者の信念が弱ければ、取り込まれてしまうだろう。たくさんの雑多な魔によってね」
教師はさらにこうも言った。
「我が帝国には、魔物がいる。これは魔を有するが故の試練なのだ」
そう言って教師は深くお辞儀をし、遠く彼方を見つめだした。
そこには、魔が湧き出る場所があるのだろうか。




