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1 サクラ・マミヤ

サクラ・マミヤ

これが私の名前。

この街の議員が私のパパで、街の商会では結構力が有るらしい。

商人で、議員になれるのは少ないという。

ほとんどの議員は、由緒正しき家柄か、国家の役員を過去に経験したことがある人が選ばれる。


パパはお金で議員の席を買ったと、世間から見られているみたい。

でも私にとっては甘々なパパ。

今回も私の為に、帝国の学校に入れるために走り回ってくれた。

あと数ヶ月すれば、私はこの街を離れ、遠く離れたユーフラティア帝国へいく。


《魔調整学園》という学校へ入学するためだ。

”魔”という資源があって、魔を利用して、移動にも、生活に必要なものもほとんどが魔に頼って成り立つ世界。それが私の住むテルスという世界。

星はお空にいっぱい光っている。

テルスも、その星と同じなんだとパパに教えて貰った。


「星は丸いんだぞ、サクラ。このテルスもそうだ。東西に長いこの大陸を、太陽の動きと反対に走れば、いつまでも太陽は中天にあるんだ。本当だぞ」


パパはこう言ったけど、絶対嘘。

だってそんなに早く走れないに決まっているもの。

たまに馬鹿なことを言うパパだけど、私は大好き。


魔の資源は限られた場所からしか採れないらしい。

私が住むヤマタイラ国では採れない。魔が地下から滲み出ているのはユーフラティア帝国。

そこへ行けば魔が買える。

魔を買うにはお金もかかるけど、学園に入って魔を手なずけなければならないんだって。

魔を宿して学んだあとは、国に帰って重要な仕事を任せられるようになる。


要するに出世コースにのれるということ。

魔を宿した人は様々な技能を使えると言うけど、私は見たことはない。 魔法みたいなものを使える人は、私達庶民とは違う、雲の上の人だ。

中でも、”転移”の技能持ちは国が抱え込む希少な技能だ。

私がユーフラティアへ行くときも、転移の技能を持つ輸送局の人にお願いするって、パパが言っていた。


「すっごく高かったみたいよ」


と、ママが教えてくれた。


今日は神社へいって、語学の入れ込みをしてもらう。

帝国語が話せなければ、学園には入学出来ないから。

神社にも魔持ちがいる。

ここの神主さんは、言葉を相手の頭の中に入れ込む技能がある。

帝国の言葉だけでなく数カ国語を入れ込めるそうだ。


「神主様は、何カ国語が話せるの?」

「私が旅行した国は十二カ国ですが、せいぜい七カ国でしょうね。話せるのは」


すごい! 十二カ国も他国を旅したなんて。

この世界の国のほとんど全部じゃん。

神主様は、私の頭に榊をかざして祝詞を唱え、最後に目と目を合わせてじぃーっとしている。

すると、私の頭の中に奇妙な音が次々と流れてきた。

一時間ほど過ぎて、神主様が帝国の言葉で話しかけてくる。

知らない響きの言葉なのに意味が分かるようになっていた。


「これで、おしまいです。あとは学園へ行って文字の練習ですね」

「はい、ありがとうございました」


ママは、神主様に玉串料を払い、最後にママと一緒に神様に手を合わせて帰った。

今日は、パパから大事なお話がある。

いつもみたいにふざけていない真剣な顔のパパ。


「いいか、サクラ。帝国に行ったら街から絶対外へは出てはダメだ。


帝国には魔物がたくさん自然発生する。とても危険だから、できればずっと卒業まで学園にいて欲しい」


「分かったわ。パパ」


すごく怖かった。

十二歳の私に真顔で話すパパも怖かった。でも、ヤマタイラ国では見たこともない、不思議な生き物がいるだなんて……。

ちょっとだけ見て見たい気もするけど、でも、やっぱり怖いから止めておこう。


明日はいよいよ転移で帝国へ行く。

パパとママとは七年間離れて暮らす。夏休みもあるけど、遠すぎて帰れないし、転移は大金がかかる。

お金があると言っても、ヤマタイラ国は貧乏な国。

ここでのお金の価値は、帝国の十分の一だ。

今度転移できるは、六年後の帰還の時だけだろう。

自分の部屋の窓際に座り、夜空を見上げてお星様を見る。

キラキラ瞬いて紺色の絨毯に砂金が散らばっているみたい。


「あ、流れ星!」


私は目をつぶる。流れ星は不吉。目を閉じて星が消える一瞬だけ祈る。


「悪いことは燃えてしまいますように」


街から首都へ行くには馬車を使う。

ヤマタイラ国の首都へは、馬車に乗って一時間ほどで着いた。

大きな都会。何度か来たけど、人が一杯いて目が回りそうだ。

今日は遊びに来たわけではないから、真っすぐ輸送局のある官庁街へ向かった。


巨大な建物で、石造りだ。他の家やほとんどの店舗は木造なのに、官庁街はすべて石でできた五階建てのビルだった。

奥まった場所にその建物があった。

他の建物に囲まれていて、外からは見えないようになっている。

やや小さめの建物だ。

扉の前に立つ監視員に鑑札を渡すと、私だけが入るように促される。

パパたちとはここでお別れだ。


「パパ、ママ、行ってきます」

「ああ、身体に気を付けるんだぞ」

「水には気を付けて。生水は飲まないように……」

「……はい」


私は扉から、薄暗い室内に足を踏み入れた。

長い廊下を歩き、突き当たりの通路から左に曲がると、また扉があった。

扉の前は少しだけ広くなっていて、同い年くらいの男の子三人に女の子一人が待っていた。


――一緒に転移する仲間だ!


私たちは、何となく気まずくなって男女に分かれた。

女の子が声を掛けてきた。


「あなたも学園へ?」

「うん。私、サクラ・マミヤって言うの、あなたは?」

「ユウカ・ワタリよ。よろしく」


間もなく扉が開き、中へ入るように言われた。

男の子たちが先に入っていき、その後を私とユウカが続く。

二十畳ほどの何もない空間の真ん中に、女の人が立っていた。


「さあ、ここに固まって頂戴。すぐに転移するから」


言われて私達は女性の周りに走り寄ると、すぐに彼女から光が発散されて、目の前が真っ白になった。

思わず目をつぶる。


「着いたわ、迎えが来るまでここで待っていなさい。じゃあ」


そう言ってすぐに女の人は光と共に消えてしまった。

私はユウカとしっかり手を繋いだままその場に立っていた。


「なんか……一瞬だった……」

「すごいね、転移って。でも、本当に着いたのかしら」


転移の部屋とここは造りが似ていた。

部屋の隅に五人で固まり、誰が来るかと待っていると、扉が開き黒い髭を生やした男の人が入ってきた。

白い貫頭衣のようなものを着て、頭にも布を被っている。


「よくいらっしゃいました。こちらへどうぞ」


言われるがまま男の人に着いていく。

目がぎょろりと大きく鷲鼻で、肌の色は浅黒い。

ここの国民の特徴なのだろう。

廊下は、白っぽい石で作られ、木はほとんど使われていない。

窓も四角ではなく、かまぼこみたいに丸みがあった。

窓からは強い日差しが斜めに入り、そこだけやけに明るい。


「なんだか、すごく暑いね。上着を脱ぎたい」

「学園で、制服が支給される。それまで待ってろ」


一緒に来た男の子がそう教えてくれた。

彼は一番背が低いくせに、皆の先頭を歩いている。妙に堂々としているところを見ると、どこかの偉いお役人の子息なのだろう。

長い廊下を延々と歩き、やっと終着地点に着いたようだ。


「では、ここでまず検査をいたします。親御様から契約書を預かっていますよね。それを出してください」


私は、よく分からないくねった文字で書かれた紙を出した。

そこにはパパの署名が書かれていたけど、あとは読めない文字だった。

それぞれ、がさごそと紙を出して男の人に渡す。

男の人は一々目を通し、うん、と頷き、一人ずつ別の部屋へ連れて行った。

男の子が連れて行かれたあとに私の番が来た。


「がんばって!」


ユウカに励まされ、よしっと気合いを入れて別の部屋へ入る。

そこは三畳ほどの狭い部屋で、小さな扉以外何もないところだった。


「今から魔の適性検査をします。もし適性が無ければサクラさんはここから出ることができなくなります。止めたかったらここで終わりにします。どうします?」


どうしますって聞かれても、嫌だと言ったらどうなるの?


「……あの……もし帰るとなったら転移は……?」

「転移は往復分の料金を頂いておりますよ。大丈夫、すぐに帰ることはできます」


そうなんだ。でも、もしこのまま帰ったら、パパは、がっかりすると思う。高いお金をドブに捨てるようなものだ。


「検査を受けます」

「では、これを飲んでください」


おちょこのような小さなコップに、ほんのちょっぴり黒い液体が入っていた。

鼻を近づけると、ツーンとする嫌な臭いがする。

私は思いきってそれを飲み干した。

飲んだあとに、また個室に入れられた。

今度は一畳くらいの部屋だった。


「なんだか牢屋みたい……」


三時間ほどして、さっきの男の人が扉を開け入ってきた。

なぜか剣を持っている。そしてクンクンと部屋の臭いを嗅いでいる。


「適性があったようです。では別室で着替えましょう」


そう言って、私をまた違う部屋へ案内した。そこにはユウカもいて二人で喜び合った。

見ると男の子は二人になっている。


「ねえ、もう一人は?」


偉そうなチビが答える。


「適性が無くて魔物に変じたんだろう。始末されたらしい」

「始末って?」

「始末は始末さ。殺されたってことだ」


私は身体がガクガクと震えだした。


――なんで。そんなに恐ろしい検査なら、初めから……そう言えば言われていたんだった。止めたければ今のうちだと。


「お前、知らなかったのか? 俺らはみんな知っていたぞ。もしかして庶民か」

「庶民よ。悪い?」

「いや、そういう意味じゃない。庶民は魔のことを夢のようなものだと思っているらしい。俺は側女の息子だからここに来た。そうすれば家で大きい顔が出来るから。危険も承知できたんだ」


そうだったのか。私はユウカを振り返ると、ユウカもこくんと頷く。

みんな裕福で、いいとこの子供でもそれぞれの事情があったようだ。

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