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23 後れてきた便り

サクラが、もうすぐ十六歳になる頃、帝国から戻った生徒から手紙を受取った。

まったく見たこともない人だった。


「プロイスタン国の出身の生徒から預かってきた。サクラというのは君だろう?」

「はい!」


私は丁重にお礼を言って、そそくさと部屋へ上がる。

プロイスタン国とはエイリックの国だ。エイリックからの手紙だ。

文字は帝国のもので書かれている。

当たり前のことに、今更気が付く。


「私、エイリックの国の言葉が分からないんだった」


エイリックだって、ヤマタイラ国の言葉が分からないもの。

帝国が繋がりを持っているなんて、何となく気持ちにひっか刈りはあったが、これは理不尽な八つ当たりだろう。

文字に罪はないのだから。

手紙は三枚にわたって、細かい文字で書き込まれていた。


エイリックが今までなにをしてきたのか。ボボの国で長く活動していたが、詳しい事は明かせないと書いてあった。


「おそらく魔に関する事ね」


今エイリックは、プロイスタン国で爵位を与えられて男爵になったそうだ。

ヤマタイラ国へ来た事のある転移保有者が見つかったので、ヤマタイラ国に訪問すると書いてあった。


「日付は……ええーーっ! 明日じゃないの!」

《何があった?》


「エイリックがここに来るの。どうしよう、何も準備出来ていない。彼はどこに泊まる? この家でも良いのかしら……でも、男爵様になったって、どうしようポンタ」


《け、エイリックは気にしないさ。それよりサクラ。髪をどうにかした方が良い。ボサボサだ》


「っ! そうだ、髪結いさんへ行かなきゃ」

「サクラ、何を騒いでいるの」

「ママ、大変。外国の御貴族様がここに来る! 貴族ってこんなところに泊まる?」


「ええーーっ! こんなところに……って、こんなところとはどう言う意味なのサクラ。これでも我が家は立派な家なの!」


ママは急いでばあやと一緒に客間の掃除と食事の献立を考え始めた。

私は、髪結いさんへ行って、綺麗に髪を整えてもらう。

髪に鬢付け油をつけ、前半分を束ねて後ろの髪は垂らしておく、半束ねにしてもらった。仕上げに大きなリボンを付ければ完成だった。


「サクラ、明日は、訪問着が良いかしら。それとも中振り袖にする?」

「そんなに大げさにしたくない。小紋で良いわ。その代わりこの間仕立てた着物がいい」

「まあ、貴族に会うのに、小紋だなんて。ダメよ。きちんとしなくては」


パパが帰ってきた。丁稚を連れて官庁街へ品物を納めた帰りだ。

後ろに、背の高い人が立っていた。


「え、エイリック! なんでぇーー」

「え、手紙には今日って書いたつもりだった。手紙届いてなかった?」

「お前達、どこの言葉で喋っている? パパに分かるように話しなさい!」


パパは、官庁街で、エイリックを連れていくように言われたようだ。


――間が良いのか悪いのか。


私の格好は普段着のまま……もうどうしようもない!


「エイリック、取り敢えずあがって」


エイリックは靴を履いたまま、上がりかまちに足を乗せた。

家族は慌てだし、どうしようかオロオロしている。


「靴を脱いでね。エイリック」

「ああ、そうなのか?」


エイリックが靴を脱ぐと、ばあやがすっ飛んできて、エイリックの足を洗い始めた。

エイリックは片足を取られて固まっている。


文化の違いを思い知ったようだった。

騒ぎが一段落して、客間に案内されていくエイリック。

背の高い彼は、かもいに頭をぶつけそうになったり、ふすまや障子を珍しそうに触ったりする。


「紙で出来ているのか!」


そうだよね。驚くよ、余所の国から来た人は。

今度は椅子がないところに案内されて、どうして良いか分からないようだ。


「地べたに座る文化なの。だから、座布団に座るのよ」

「そうなんだな。こうしてみるとずいぶん違う……」

「フフ、慣れるわよ。で、なんでここまで来たの? やはり「魔」のこと?」


「……それもあるが、サクラ、私の国へ行かないか。是非、見てもらいたいものがある。君の意見が聞きたいんだ」


私の心が浮き立ち、ぜひ行きたいと思った。でも、パパが心配しそうだ。私を、もう外国へは出したがらないだろう。

何か考えないと許してはくれない。


「そうだ、エイリックの国では何か珍しいものある?」

「……さて、農業国だからな。ヤマタイラ国と変わらないだろう。強いて言えば、ワインかブランデーくらいかな」


「レースは? 女性のドレスに付けている、あの繊細なものは?」

「ああ、それならあるな。だが私には詳しい事は分からない」


レースの仕入れに行くと言えば、パパは許してくれるだろうか。


***


パパは大反対した。


「外国へ行ってまで仕入れる意味はない。我が国には素晴らしい絹織物がある。それで十分だ」


「パパ、だから行くの。羽二重を持って行って、レースと交換すれば、どう? あと宝石珊瑚も。あれは貴族に高く買ってもらえる。私、言ったわよね。世界を股に掛ける商人になるって」


エイリックは言葉が分からず目が泳いでいた。

そして私にこっそり耳打ちをした。


「許してもらえないのか? 父上に、きちんと護衛も付けるし、付添人も付けると言ってくれないか?」


その様子を見ていたパパがすっくと立ち上がってこう宣言した。


「サクラを嫁にはやらんぞ!」


パパの早合点で、少しだけこじれそうになったが、私の真剣な話には耳を傾けれくれた。


「そうか。魔に関することだったのか。分かった。こっちの持って行く物は任せなさい。ポンタに持たせれば大量に持って行けるだろう。サクラ、しっかり稼いで来い。分かったな」

「はい、パパ」


私は、神社へ行き、プロイスタン国の言語を入れ込んでもらった。


「あの国は美しい国だ。私も何度か行った」


神主さんは世界中を旅していた頃をまた話してくれた。


「あの、言語理解はスキルがなければ出来ませんか?」


「このスキルは、自分だけ使うのには向いていないかもしれないな。しばらくその国に滞在すれば、日常会話には困らなくなる。このスキルは、人に言葉を入れ込むことが出来る、というスキルだからね」


出発はすぐに決まった。一週間後に、転位部屋を使わせて貰うように手配をする。

実は転移部屋は、どの国でも必ず使うようになっていた。

勝手にどこへも行かないようにする為なのだろう。

人の出入国の管理もここで行っている。転移人も登録されて、いつどのように利用されているか細かく記録されていた。


だけど、ポンタは登録していない。

行こうと思えば、いつでもどこへでも行けてしまうのだ。それは秘密だけど。

エイリックは自国の転移人を連れてきていた。


「国が付けて寄こした」


そうだ。余程信頼され、頼りにされているようだ。

私は、朱雀のことをエイリックに「魔物の神獣だ」と話すと、青い目でじっと朱雀を見てこう言った。


「実は、我が国にも――魔がいる……と思う」

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